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「郵便局にて ~ 30年前のエピソード」

 その郵便局では、日ごろから一部局員の態度について不愉快な思いをしていた。簡易郵便局などではない、ほかでもない上田中央局の正規局員ともあろう者が、とても勤務中の態度とは思えない、まるで接客を面倒がっているようなぞんざいな勤務態度。それに対して少しずつ蓄積していった怒りが一気に吹き出した。

 三重県に住んでいた妹の子どもたちに、絵本を送ろうとしていたときのこと。相手は自分より一世代上の男性だった。中身が本であれば書籍小包(正式には冊子小包)扱いにすれば料金が安くなると教えてくれたのは良いのだが、説明する際の言葉遣いが、いつものようにいかにもぞんざい。ムッとしながらもそれを我慢して聞いていた。中身が見えるように封筒の一部を切れば良いというので、言われたとおりに一部に切り込みを入れたのだが、説明が不十分なために、かなり不自然な箇所に、不自然な形の切込みを入れてしまった。そのまま郵送すると本を傷める可能性も考えられたので、できるものならば塞ぎたかった。
 「すみません。このままで送ると、本が傷みそうなのですが」
 「そんなものは、へぇ適当にやっときゃええだ(上田近辺独特の言い回し)」
 そんなものって・・・、適当にやっときゃって・・・、甥っ子姪っ子たちへの大切な贈り物なのに・・・。

 我慢も限界に達した。

 「なんですか、さっきからその態度は」
 「なに?」
 「そんな態度は不愉快です」
 「なんだと? 俺になんか文句でもあるだか?」
 「そんなものとは何ですか? 私は、あなたの息子でも甥っ子でもない。そんなにぞんざいに扱われる筋合いはない」
 「どういう意味だ?」
 「あなたは『そんなもの』とおっしゃいましたが、送り先は、私にとって大事なお客さんです(この点に限ってだけは嘘をついた)。本を綺麗なまま、大切に届けてもらいたいと思うのは当然でしょう。それが、何ですか、その面倒がっているような態度は・・・。あなた自身が銀行に行ったときに、行員さんが今のあなたみたいな対応をしたら、不愉快じゃないですか?」
 「そうだな」

 ここから先、容赦なく相手を責めまくった。日ごろ、その郵便局、とくにその局員には不愉快な思いをしていたので、言葉は次から次へと湧き出るように出てきた。
 「郵便局というのは、局員のためにあるのではない。利用者のためにあるんです。そして、あなたがたも利用者のために仕事をしているわけです」
 「そりゃ、そうだ・・・」
 「私は好き好んであなたに会いに来ているわけじゃない。郵便局を利用しなければならない用があるから、ここに来るんです。ところが、来る度に不愉快な思いになります。郵便局を利用するのに、何でいちいちそんなに不愉快な思いをしなければならないんですか?」 

 このときは、やや大きめの声で話してはいたが、感情的な言い方はしなかった。相手が最初から感情剥き出しの挑戦的な対応だったこともあって、こちらはわざとそれとは対照的に、淡々とした口調で話した。

 「私は自分に誇りを持って生きています。そんな雑な扱いを受ける筋合いはない。人はもっと互いに尊重し合って生きるべきじゃないですかね。あなただって、仕事でそこに立ってるんでしょう? 窓口に立ってるんだったらちゃんと仕事してください。銀行に出来ることがなんで郵便局に出来ないんですか? 郵便局のせいで、1日が不愉快になります。何とかならないんですか? 郵便局の中でも、特にここは、態度の悪い人が多いですよ」

 たぶん、もっと多くの言葉を連射したと思うが、それ以上に詳しくは覚えていない。その男性の顔から精気が失せ、目にはじわじわと涙がたまった。

 「わかった。今度、朝礼の時にその話をしてみる」
 
 言葉を振り絞るのが精一杯の感じだった。

 あれだけ言えば、さすがに心に落ちたのだろう。次に同じ郵便局に行ったときは、対応の変わりように驚かされた。

 「お客さん、こちらへどうぞ」

 同じ人が窓口にいたのだが、その態度は別人のように変わっていたのである。前回までのゆるみきった顔付きと身のこなし、雑な言葉遣いが嘘のように、ピリッとした表情でてきぱきと動いていた。

 この出来事は、「徹底的に遣り込めたエピソード」として記憶されていたのだが、今こうして改めて振り返ってみたところ、その印象が少し変化していることに気付かされる。自分より若い一利用者の言葉に耳を傾け、その後態度を改めた局員さんの姿が、強く印象に残っている。
 なかなか出来ることではない。彼は立派だったと思う。

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