映画「ネバーランド」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第85回
心から信じて
2004年公開映画「ネバーランド(Finding Neverland)」の指輪
文・〝美根〟
いつも楽しみに待っていてくれる稀有なあなた。お待たせしました。
今作は、すごく時間がかかってしまいました。決してワンマンやツアーのせいじゃないです。
そのぶん、楽しんでもらえたら嬉しいです。
「映画の指輪のつくり方」よろしくお願いします。
今回は、私が大好きな世界が作られた秘話が描かれた映画です。
先日、初めてのツアー、初めてのスタンディングでのバンドスタイルワンマンで出会ってくれた方、駆けつけてくれた方、チェックしてくれてた方、いつも応援してくれてるみんな、ありがとうね!もう最高に楽しかったし、新たにこの気持ちを越えていく目標ができました。
日々課題と向き合っていく中で、ディズニーシーの新エリア開業前夜セレモニーの配信アーカイブを見ていたんだけど、あることに気がついてしまった。この新エリアの中のピーターパンのところって、海賊や迷子たちがいる隠れ家なんかがあって、それってつまり大人になった私でもネバーランドに行けちゃうってことじゃん!?それに気がついたら、あぁ嬉しいなぁって感動してしまった。ライブのそうだけど、大人の遊び場って大事だよね。ネバーランドに行けるのはいつになるかわからないけど、でもそれまでは自分だけのネバーランドを想像していようっと。なのでこの映画「ネバーランド」を今回は紹介します。みんなの中に素敵な場所があることを教えてくれる作品です。
【いかにして「ピーターパン」は生まれたのか】
劇作家バリーは、新作の舞台を酷評され、次なる作品の創作の種を探していた。ある日ケンジントン公園に散歩に出かけると、ごっこ遊びを楽しむ兄弟たちに出会う。ユニークで豊かな想像の世界を持つ4人兄弟と夫を亡くした母シルヴィアと次第に仲良くなっていくバリー。ささやかだけど温かな交流と子供たちの感性はバリーの創作意欲をかき立てていく。4兄弟の中でも特に父親を亡くした傷が癒えないピーターは、最初こそ気難しくごっこ遊びにも消極的だったが、バリーの仕事に興味を持ち、ピーター自身も物語を書くようになる。自身の妻とのすれ違いや、ピーターたちデイヴィス一家と彼らの過干渉な祖母の介入、癒えない傷…様々な出来事の中で、物語を書き進めるバリーだったが、、、という話。
【大人も子供も不安の中で生きている】
子供の頃の大人としてみてもらえない寂しさや疎外感もたまらなくわかるし、はたまた大人から見たときの子供たちの純粋さや瑞々しい心に憧れさえ抱くような気持ちも、たまらなくわかって胸を締め付けられる・・・。
インスタとかTikTokとか見てると時々子供との日常動画が流れてくるんだけど、そういう動画の中から時々「子供だからきっとわからない」「子供だから聞こえていない」「子供だからきっと覚えてない」という大人の考え方が垣間見えるような時があって。見かけるたびにガチでそれは違うと思うよって考える。良いことも悪いことも。知っている言葉や経験が違うだけで、大人も子供も同じように世界の良いところも悪いところも感じていて、むしろ子供たちの方が子供であるが故に、うるうるの心にもろにくらってしまう、くらいすぎてしまうことも多いんじゃないかなと思う。
この物語に登場する子供も大人も、世界をそれぞれに感じ解釈しながら、時にすれ違って、ささやかな不安の中で生きている。大人になったからと言って、子供たちを侮ってはいけないし、大人になれたからといって不安がなくなるわけでもない。そんな全員の共通項として登場するのが、ネバーランドだ。
バリーにとっては、子供の頃亡くなった兄がいるところ。そして4兄弟と過ごす日々のように毎日が楽しい冒険に満ちた夢のような場所。海賊、インディアン、凧揚げ、サーカス、、ここでは大人にならなくて良い。何も心配しなくて良い。子供でいさせてくれない現実の世界の中で、デイヴィス一家とネバーランドを探し作っていく日々が、温かく描かれていく。バリーがかつて自分自身を癒そうとしたように、4兄弟の子供時代が楽しく美しいものであるようにと願って、想像を膨らませているように思えて、空に飛び上がったり、船に乗ったりと、日常が突然冒険の一部になる演出はとても儚くて温かい。ネバーランドを見るシーンも涙が止まらん。
冒頭「ごっこ遊びなんかばかばかしい」と呟いていたピーターが最後のシーンで言うセリフにも、ぐっと胸を打たれる。ピーターを演じているのはフレディ・ハイモア。バリー演じるジョニーデップとベンチで座って話すシーンは特にすごくて。涙をいっぱい溜めながら話す表情にこれでもかと泣かされ、魅せられる。
【演劇のピーターパン】
ディズニー版が有名だが、個人的にはこの舞台版のピーターパンのセリフや演出も大好き。フック船長に襲われ傷を負ったピーターが「死は、きっと大いなる冒険なんだ」と言う場面や、「君は?君は妖精を信じる?」と毒を飲んでしまったティンカーベルを救うために観客に拍手を求める場面、lovely things(素敵なこと・楽しいこと)を考えて!とみんなで飛ぶ練習をするときに、マイケルが「クリスマス!」といってふわっ!と浮かぶシーン。ここはクリスマスっぽい鈴の音も聞こえてきて、マイケルが真剣に素敵なことを思い浮かべたんだなって感じられる演出も良い!上記の最初の二つは映画の中でも登場する場面で、とにかくすごく良いんだ・・・。
私が初めて舞台版のピーターパンを観たのが、昔NHKで放送されていたキャシー・リグビーがピーターパンを演じたバージョンだったんだけど、これがね本当に圧巻なんだ。元体操選手のキャシー・リグビーが演じるピーターパンは、舞台上での"飛行"に吊るされてる感が全くなくて、しかもぐるぐる大回転して、自由に飛び回る姿はピーターそのもの!大迫力なんだ。映画を観た後に、ぜひ一回調べて見てほしい。登場シーンなんて腰抜かすよ。
今回の指輪はバリーが執筆していたノートからピーターパンが飛び出てくるイメージで、楽曲カバーはミュージカルの中でも特に好きな曲を唄いました。
楽しいことを考えれば空を飛べる。信じる心で妖精の命は救われ、ネバーランドが見えてくる。
子供の頃のささやかな心の柔らかい部分。信じる心を忘れない大人でいたい。
モチーフ:ピーターパン、本、ネバーランド(森、海、インディアンのテントたち、海賊船、虹、ワニ)
音楽:Carolyn Leigh, Moose Charlap「Neverland」