映画「チキンラン」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第86回
脱出せよ、生きるために!
2000年公開映画「チキンラン(Chicken Run)」の指輪
文・〝美根〟
楽しみに待ってくれていた類稀なるあなた。お待たせしております。
今作もまた、時間がかかってしまいました。もしまだ楽しみにしてもらえるなら、どうぞ引き続き、どうか懲りずに、「映画の指輪のつくり方」一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです。
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先日ストップモーションアニメで有名なアードマン・アニメーションズが「ウォレスとグルミット」の新作公開を発表した。今から楽しみで仕方がない!アードマンの作品は、「ウォレスとグルミット」シリーズ、「ひつじのショーン」シリーズと、子供の頃にクレイアニメ・ストップモーションの魅力を教えてくれた作品たち!そして独特なグロテスクさからほぼトラウマなんじゃないか?ってくらいの中毒性も植え付けてもらった!ご勘弁!(褒め言葉)
「ひつじのショーン」は比較的平和でマイルドなのだが、「ウォレスとグルミット」は少し不気味で、居心地の悪さや残酷な場面もあって、「ペンギンに気をつけろ!」という作品に出てくるペンギンは、もうしばらくうなされるほどに怖かった。
今回紹介する作品は、アードマン制作、そのグロテスクさに子供の頃度肝を抜かれた「チキンラン」。指輪制作のために見直したけど、やっぱ最高でした。
【ここは養鶏場、卵を産めないのならローストチキン】
イギリスのとある大きな養鶏場から逃げ出そうとする雌鳥のジンジャーたち。皆で協力して何度も脱出を試みるも、養鶏場を営むトゥイーディと、トゥイーディ夫人に見つかりいつも失敗してしまう。卵を毎日産まなければならない雌鳥たち。ある日、何日も卵を産めていなかった雌鳥が連れていかれ、ローストチキンにされてしまう。自由になりたい、卵を産み続け、死ぬのを待つだけの人生から抜け出さなければ!策を練るジンジャーと半ば諦める仲間たちの元へ、サーカスから逃げてきたという雄鶏のロッキーが養鶏場に空を飛び柵を乗り越えて迷い込んできた。飛び方を教えてもらおうとロッキーと取引をするジンジャー。一方その頃、経営難をどうにかしようと、トゥイーディは世にも恐ろしいチキンパイ製造機を導入する・・・。
【残酷版ひつじのショーン】
ひつじのショーンと家と農場の位置関係が似ており、動物目線で話が語られる点も似ているが、「チキンラン」の色合いは暗く、トゥイーディ夫人による恐怖で支配された養鶏場が舞台で、言うなれば残酷版ひつじのショーン。何度も脱出に失敗する描写に何度も絶望させられ、常に危機的状況なのだ。屠殺されてしまう雌鳥の描写も、まさにその瞬間だけは音のみで表現され、情け容赦なく、養鶏場の雌鳥たちにこれでもかと現実を突きつける恐ろしい場面だ。「チキンパイにされてしまう!」という恐怖が、さらにグロテスクさを増させ、当時子供心に深い闇を感じた。でも時として、子供心にこびりつくのは、そういった容赦ない残酷な闇が見え隠れする世界観だったりもする。
【目を見張るクレイアニメーション技術】
まん丸お目目に歯を見せて笑うチキンたちに、正直私は最初ギョッとした。表情を読み取りづらい瞳が、観る前は怖かったのだが、映画を見始めると納得する。ちょっとした目の動き、口角のちょっとした上がり下がりがわかりやすく、表情が大きく変化するのがよくわかる。体も動かしながら、表情をここまで細かくストップモーションで表現するのは、かなり難しいはず。それに加えてその状況を表す表現として、風になびいたり、鬼気迫るシーンのカット割りも加わって…あげたらキリがないが、個人的に好きなのが、影の入れ方と、涙。その場面の時間帯によって影の入り方が事細かに違う。朝日の低い角度から差し込んだ時の陰影、昼と夜、雷で心理描写も表すのも憎い!そして、目が潤み出す涙の表し方。文脈や表情でも泣いていることがわかるシーンでも、よくよく瞳を見ると、若干潤んでいるのを見つけられる。大人の方が突き刺さるかもしれない、涙を堪えるような、こちらの心に届いてくる細やかな表情描写…。涙をポロッとやってしまえば簡単に表現できるところを、うるうるさせる若干変態気味な表現に、見入ってしまう!ぜひ見つけてみてね。
ラスト、ギャッと思わず声をあげてしまうシーンも含め、これでもかと続く怒涛の展開…。ドキドキバクバクさせながら、チキンたちの決死の作戦を最後まで楽しんでほしい!
【生きるために!】
何度も「パイにならないと、もう外に出られないのだろうか」と絶望しながらも、「自由を手にするには生きなければ、生きるためには逃げなければ!」と挑戦し続ける主人公ジンジャーと、「仕方がない、これがチキンの生きる運命だ」と半ば諦め、自由などない今に満足しようとするその他の雌鶏たち。誰しもどちらの心も持っていると思う。何度も絶望して、打ちのめされて、騙されても、挑戦し続けるということも大切だけれど、私は、どんな目に遭ってもこれだけは譲れない!と思える物にもたくさん出会える人生にしたい。そして自分の幸せをめげずに追求したい。追求して挑戦したパイになるか、諦めたぐったりなパイになるか。どうせなら美味しそうなチキンパイがいいな!…って、パイになってたまるか!生きてやるんだ!
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モチーフ:雌鶏のジンジャーと雄鶏のロッキー、人参、玉ねぎ、いも、生焼けのパイ生地
音楽:Ellis Hall「Flip Flop and Fly」カバー