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映画「エルム街の悪夢」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第65回

「起きろ!」(1984年『エルム街の悪夢(A Nightmare on Elm Street)』)

日中に眠さで朦朧としたことはあるだろうか。私はある。結構ある。先日、立ちながら夢を見て、後ろにブオンとひっくり返りそうになった。本当に危ない。思えば、高校生のときから授業中にうとうとするようになった。眠さで体が温かくなり、足がソワソワするのをなんとか抑えて起きていようと椅子の上に正座するたびに「今日、座高高くない?」と言われていた、そんな女子高生でしたね。

今回は、そんな朦朧歴の長い私大共感、負けず劣らず意識が朦朧とした主人公の登場する映画「エルム街の悪夢」です。

決して寝てはいけない!

高校生のナンシーは、親友のティナから昨夜見た怖い夢の話を聞く。焼けただれた肌に赤と緑のボーダーのセーターを着て、ナイフのような長い鉤爪をつけた男に襲われる夢。彼女を夢の中で襲ってきた人物の姿は、ナンシーも夢で見たことがある男の姿だった。

怯えるティナのために、ナンシーとナンシーのボーイフレンド・グレンは一緒にティナの家で夜を過ごすことに。ティナの恋人ロッドもやってきて、それぞれに床へ着いた。ロッドの隣で、不気味な音で目を覚ましたティナは、音の正体を確かめるべく家の外へ。

待ち構えていたのは、あの鉤爪男・フレディだった。騒がしい音に目が覚めたロッドは、同じベッドで夢にうなされるように暴れるティナを見つける。突然ティナの胸元が引き裂かれ血が噴き出した。見えない何かに持ち上げられ引きずられるように宙に浮かび、血まみれで叫びながらティナは息絶えてしまう。ロッドは殺人の容疑をかけられ、親友のナンシーもまた、夢で自分を襲ってくるフレディに悩まされるようになる…という話。

センセーショナルに恐怖を煽る名カットの連続

…もう今日眠れないよ!さらに日中朦朧としてしまいそうな映画を見てしまったのだが、これがもうすごく面白かった。有名なホラー映画だし、リメイクや派生映画で溢れる「エルム街の悪夢」、フレディという名前や容姿は知っていたのだが、映画は見たことがなかった。

今回見た1作目の1984年版は、少し古いのもあって、本当に怖いのか〜い?とたかを括っていたのだが、それが最初に覆す、ティナが犠牲になるシーンは鳥肌もの。血まみれで泣き叫ぶ女性が宙に浮いて壁やら天井やらを引きずられるなんて、誰も思いつかないよ。。そのあとの、ティナがベッドに落ちてビチャっとロッドに血飛沫がかかる突然の静けさと素っ頓狂な間が、余計に恐ろしくて素晴らしい。

これは現実か? 夢か?誰も教えてくれない

自分だけが見ている世界、どこからが夢で現実なのか?フレディに襲われる恐怖で眠れず、憔悴していくナンシーが追い詰められていく様に、見ているこちらもドキドキ。夢の描写もまた秀逸。底のないバスタブや、足にへばりつく階段、いつも辿り着いてしまう見覚えのある地下室…。ナンシーが授業で居眠りをしてしまい、夢に入っていくシーンは、しばしば「IT」を連想させるような、どこか自分もある瞬間を境に迷い込んでしまいそうな、身近で閉鎖的な恐怖と、誰も助けてくれない絶望感がある。

とにかく誰も頼りにならねぇ!夢に出てくる怪物に襲われて、起きたら同じところを怪我してました、なんて確かに信じ難いのだが、本当に誰も信じてくれない。警察官の父親でさえウルトラ役立たず。ナンシーの孤独な戦いにハラハラさせられる。

CGじゃない→アイデアで生みだす恐怖

全然CGじゃないのが、この映画の良いところ。妙にリアリティのある質感、アイデア満載の撮影技法に、こちとら大興奮です!「え!これどうやって撮ってんだ…全然わからん!」と考えるだけでも楽しい。

ナンシーのボーイフレンド演じる若きジョニー・デップが〇〇〇〇シーン、あれだけのセットを組んでいるから、一発どりなのだろうか。CGでもできるのかもしれないが、CGであのシーンをやろうとはしないだろう、という絶妙なライン。

CGで可能になる人間の身体機能を超えた動きによる脅かし要素はないが、身体機能から予測できる範囲内で、想像を超えてくるんだから、すごい。襲われている時のBGMは時代を感じてちょっと面白いのだが、それも気にならないほど見入ってしまう。

フレディがちゃんと怖い

「フレディ・クルーガー」と調べると画像が出てくる。姿形は人間で、腕は伸びるが、武器と言っても右手の鉤爪だけ。ちなみに今回の指輪ではその右手を作りました!ご覧あれ。

言ってしまえば、明るいところで見れば、あんまり怖くないかも?な容姿。強い人が殴ればやっつけられるのでは?と思う人もいるかもね。でもこれが、映画の中だと手の施しようがなく怖い。これは写し方と設定の技だと思う。まず登場はほぼ暗闇限定。そもそも登場シーンは少なく、姿も、影や少しの灯りで垣間見るだけ。殺しのシーンでさえ、全身が映るシーンは少なく、体の一部、腕だけがよく登場する。
 
神出鬼没で距離感が分からないことや、出会って早々自分の指やらお腹やらを切るという演出で「私はやばいやつですので!」と丁寧に自己紹介をしてくれる得体の知れなさ、目的のわからない殺し、夢に出現するため対抗手段がなく劣勢を強いられることが、フレディの恐怖を倍増させる。

何が目的だったんだ? 一体どういうこと? と考察もできぬまま、あの最後のシーン。あのラストの展開は最高です。一番怖い。

ちゃんと寝ろ!

得体の知れないものが一番恐ろしい。それが怪物であっても人間であっても。そして、自分の未来が得体の知れないものになってしまわないように、毎日明確にはっきり生きていきたいものです!そのためにも、ちゃんと寝ろ、私!

映画の中で、ナンシーはどんどん眠れなくなってしまったわけだが、私たちは、いざフレディに襲われた時に戦えるように今のうちにしっかり寝ておこう。ただし、風呂に浸かりながら寝るのはだめ。溺れかけて目が覚めた時には何も覚えてなくても、フレディの仕業かもしれない。

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モチーフ:フレディの右手
音楽:213「Nightmare」
カバー:劇中歌「One, Two, Freddy's Coming For You」

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