映画「永遠に美しく…」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第26回
「絶妙に見えないリスル」
1992年公開映画「永遠に美しく…(Death Becomes Her)」
文・みねこ美根(2019年6月17日連載公開)
梅雨の時期です。雨の日が続くと、私の場合しっかり気持ちが落ち込む。なんだか気持ちが鬱々とする、どうしよう…と頭を抱える日々から突然快晴!となると、あ、雨のせいだったのかも、とスッと落ち着いた気分になったりする。
そんな鬱々としやすい時期、気分転換として最近は植物を育てている。野イチゴ。芽が出たんだけれど、まるで時が止まったかのように一向にそこから育たない。しかも、制作活動に追われていたら、水やりをすっかり忘れてしまい、ゾンビ野イチゴになってしまった。ごめん…。あなたを育てて大きくしてあげようなんて、私は傲慢でした。「Wild Strawberry」だからといって、ワイルドすぎる扱いをしてしまいました。今かすかな命の灯をどうにか繋ごうと、水道水をぶっかけているけれど、どうだろう…頑張ってくれ…。今だ時が止まったまま。
今回指輪を作った映画「永遠に美しく…」は、時が止まったような美しさ、若さを求める女性2人が主人公のホラーコメディ。犬猿の仲、腐れ縁のヘレンとマデリーン。フィアンセを落ち目の女優となったマデリーンにとられたヘレンは、復讐を誓い、14年後、実年齢からは考えられない美貌を手にして、マデリーンの前に現れる。マデリーンもまた美貌や若さに執着し、負けじとある“秘薬”に手を出すが、それは絶対に死ねない不老不死の薬だった。物語は次第におぞましい方向へと進んでいく…。もう一つの「ダイ・ハード」と言っても過言ではない。
マデリーンをメリル・ストリープ、ヘレンをゴールディ・ホーン、アーネストをブルース・ウィリスが演じている。監督はロバート・ゼメキス(第17回「ロジャー・ラビット」もこの監督)。しわを気にしたり、老いを嘆き大げさにわめいたりと、誰もが隠したい“老い、執着”の演技が特徴的で興味深い。メリル・ストリープもゴールディ・ホーンも十分美しいのに!
ふふっと笑える“謎”演出も良い。異常に膝から血を出し、ひんまがったテニスラケットを手にした男性、滑るように歩くシスター、目をヒクヒクさせる院長。また、階段から落ちそうで落ちなかったり、壁を爪で引っかいたり…といった漫画的な描写が、生死を扱うグロテスクな内容をポップにしていて、より狂気めいた雰囲気が生まれて、癖になる。
CGも面白いのだが、このころのCGが一番怖いかもしれない。人の部分は人でやってる?というか、当時の技術もすごい(若返るところとか)んだけど、メイクの力ももちろんすごくて、なるべく本物でやろうとしているからか不思議なリアルさを感じる。そして当時のCGの若干ぽよぽよ?してる感じと相まって良い意味での気持ち悪いさが面白い。今の凄すぎるCGとはまた違う“味”がある。
まだ20代の私は、若さを失う怖さはあまり感じていない。でも少し時間が経ったらどうだろうか。でも秘薬には手を出さないだろうな。“あんな”になったら嫌だもの。
なぜ若さを保ちたいか。社会が若さに価値を置いているから?死に近づきたくないから?
永遠。それは魅惑的で空恐ろしい。今を愛し愛されたいね。
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モチーフ:スコップ、ペンキスプレー、
マデリーン、ヘレン、
○○から秘薬を渡そうとするリスルの腕
音楽:「Death Becomes Her」Alan Silverstri オルゴールver. cover