映画「白雪姫」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第81回
忘れないで、あなたは陽の光でこの世界を満たせるんだから
1937年公開映画「白雪姫(Snow White and the Seven Dwarfs)」
文:〝美根〟(2024年1月25日連載公開)
2024年になりました。自分が何が好きで何をしたくて何が欲しくてどうなりたいのか、色々はっきりさせながら、前へ進んでいます。今の自分のことをたくさん話せる自分であることが、ひとつのテーマです。それでもどうしても心が塞がってしまうとき、今まで好きになってきたもの思い出して、楽しむんだけど、その一つが今回指輪にした映画です。子供の頃から慣れ親しんでいるけれど、みるたびに驚きと発見をくれる! それって、作り手のこだわりと愛によるものだなってつくづく思うのです。今回の連載タイトルは、私が大好きな挿入歌の一節を訳したもの。今年最初に紹介するのはどんな苦難の中でも、愛と優しさで世界を照らし、自分の道を照らしていく白雪姫の物語です。
【開始10分で殺されそうになる姫】
昔々、あるところに、白雪姫という美しく愛らしいお姫様がいた。だが、姫とは名ばかり、白雪姫の美しさを妬む継母の女王によって、ボロを着せられ、14歳にして城の掃除や家事と忙しく仕事をする日々。ある日「世界で一番美しいのは誰か」と女王が魔法の鏡に聞いたところ「白雪姫」と返答が。怒り狂った女王は狩人に白雪姫を殺すよう命ずる。しかし狩人は罪のない白雪姫を殺すことはできず「女王があなたの命を狙っている」と教え、白雪姫を逃す。森へ逃げた白雪姫は森の動物たちに助けられながら、7人の小人が住む家にたどり着くが、女王は白雪姫が生きていることに気がつき、姫を殺すためにある策を企てていた・・・という話。
【音楽と物語の融合】
改めて考えると、14歳の子供に嫉妬して殺そうとする女王、異常だわね。殺されそうになって森へ逃げていく白雪姫が恐怖に慄くシーンは、何度見ても可哀想で涙ぐんでしまう。暗い森が恐ろしい怪物に見えて逃げ惑いパニックになってしまう白雪姫。あんな高さ落下するプリセンス他にいるかな?結構過酷。でも殺意を向けられる恐怖、命を脅かされる恐怖ってあういう感じかもしれないから大袈裟とも言えない表現。でもその後、様子を見にきた動物たちに「驚かしてしまってごめんなさい」と謝る白雪姫の素直さ、優しさよ! これが彼女の秀でた部分なのね。そして家事経験値が並外れているので、炊事洗濯、超できる。ほんと何もできない恥の多い人生を送ってきました的な私なので、もう尊敬・・・。
そして物語を彩る音楽がまた素晴らしい。物語に誘い、喋れない動物たちの言葉となり、演奏シーンも最高に楽しい気持ちにさせてくれる。アニメと音が合わすのって私的に結構難しい作業だと思ってるんだけど、アニメーターの皆様どうですか。パーカッション乱れ打ちみたいなアニメ的コミカルな動きにも、音はピッタシあっているからすごい。
終盤、魔女が白雪姫にりんご食わそうとする場面と、動物たちが大急ぎで小人たちに知らせに行くシーンは、音楽でかなり時間の流れ方に差を作っている。これが抑揚になって、どうなる? どうなる?と誰もが知っている童話の物語なのに、さらに気持ちを高めてくれるのだ。
【手塚治虫も50回見た「白雪姫」】
100周年を迎えたディズニーの記念すべき長編作品一作目である「白雪姫」。「かさむ予算に倒産するのではないか」「ディズニーの愚行」と言われてしまうほどに、無謀だとされていた世界初のカラー長編アニメーション映画の制作。単なる娯楽、子供むけとされていたアニメーションで、人々を感動させることができると証明したのも、この「白雪姫」であると、100周年記念映像「Disney100 センチュリー・オブ・ドリームス」でも語られている。
全て手書きのアニメーション、奥行きを出すために間隔をあけ絵を重ねて撮影する技法も発明されたという。質感や動き、色合いの独特さは、現代でも類を見ないものだ。
私が特に好きなのが、材質ごとの動きの表現の違い!風がふくシーンでも、木々の揺れ方、動物の毛並みの方向の変化、白雪姫のドレスの布の揺れ方、小人たちの帽子や袖の動き・・・どれも細やかに滑らかに違和感なく動いている。水の表現にしても、井戸の水の波紋、滝や川の流れ、雨が降りかかるものによっても光り方や揺れ方の描写が違うのだからすごい!自然界の表現だけでなく、コミカルにアニメらしい動きをする動物たちの表情や質感もまた見ていて気持ち良い。動物たちがモチモチ動くのだ!このモチモチ具合がたまらない! 可愛すぎる・・・。一方で白雪姫や魔女といった写実的な人間のアニメも共存させるのだから、素晴らしい。全部あざとくない、というのもポイント。丁寧に描き込んでますよ〜、ここ描きこんだから意図はないけどスローで見せつけちゃうよ〜、可愛いだろ〜?みたいなのがない。さりげないから、そのさりげなさが、素晴らしい高度なテクニックなのだと感じる。
全体的にシックで落ち着いた暖かい色で統一されているが、女王が登場するシーンや森のシーンと、おどろおどろしい描写も多く、独特な怖さの表現が、グリム童話らしい雰囲気というか、子供の心にも大人の心にも引っかかる怪しげな魅力がある。女王が老婆に変身するシーンの周りがぐるぐるして液体がぼこぼこなる場面、気持ち悪いヤバさがあって好き。
宝石やシャボン玉の表現も必見です。何を持ってして人は輝いていると視覚でとらえるのか、パチンとシャボン玉が割れる瞬間をコマ送りにするとどういう動きの流れなのか。突き詰めて理解しないと表現しきれないことばかり。人間の動きは、実際のモデルの動きをコマ送りにしてデッサンし、作り上げていったらしいが、、、どんだけ気の遠くなる作業なんだ! でもこれ、自然に表現できた時の喜びって本当に最高なものなんです!とコマ撮りをかじったものが言うてますけども。コマ撮りで自分のMVをいくつか作ってきて思うのは、ゼリーをぷるんと揺らせられた!とか、んパッ!って花を咲かせられた!っていう楽しさが、大変さを上回ってきちゃうから、恐ろしいってこと。きっと、映画という一つの壮大な作品が完成した時、たくさんの携わった偉大なアニメーターたちもそんな喜びを、計り知れない想いを噛み締めたんじゃなかなって想像する。
白雪姫の一挙一動に、たくさんのこだわりと苦しみと愛が込められているんだろうな。
【物語は続く】
現代において、ディズニー初期のアニメが実写化されることが増えているが、コンプラ的に改変される場合や、物議を醸す場合もある。白雪姫もまた、実写化にあたって色々言われていて、もう実写化しなくて良くないか・・・と心配になるばかりだが・・・。一番最初のプリンセスということもあって、自分で戦ったり冒険したり恋愛のない現代的なプリンセスたちと対極に置かれることもある白雪姫。でも、彼女の世界を広く照らす心、めっちゃ殺されそうでも、恐怖を受け入れ、微笑みと唄を忘れず、生きる力を発揮するエネルギーは、現代に生きる私も見習いたい。今回、白雪姫といえば、な毒林檎でなく、グースベリーパイを大きなモチーフにしたのも、彼女の優しさを表したかったから。作品の中では生焼けでしたが、焼き上げました。
たくさんの愛と挑戦によって作り上げられた「白雪姫」。この作品を見た、世界のたくさんの子どもたちも大人たちも、自分の物語を紡いでいく。今年も初心を忘れず、今を生きていこう。心に潤いを与えてくれる作品にまたさらに出会っていきたいし、私も大きな愛を胸に作って届けていきたい。
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モチーフ:Grumpyへ作ったグースベリーパイ、小鳥とうさぎとリス、心臓を入れる箱、毒林檎
音楽:「With a Smile and a Song」