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【恋愛小説】苦くて甘くても。✾8mins short love story✾
それは決して、甘い思い出ではない。
けれども、苦い思い出でもない。
❁
アプリで知り合ったちょっと良いなと思っていた人から、友達との集まりがあると飲み会に誘われた。
そもそも大人数が得意ではなかったけれど、
彼の友達とあって、行かない選択肢は無かった。
彼の友達は気さくで良い人ばかりだったからすぐに打ち解けた。お酒も進んで、気づかないうちに楽しんでいる自分がいた。
「ちょっとトイレ行ってくる。」
『はーい』
彼が少し席を外した間に、彼が座っていたはずの私の隣の席はいつのまにか彼の友達が占領していた。背が高めで茶髪に少しパーマがかかっていて、少しチャラい印象だった。昨日友達が好きと言って見せてくれたアイドルに少し似ていた。
「お酒結構飲めるんだね〜」
『飲むの好きなんです。』
「いいね!じゃ、次俺の奢りね!」
『え!いいの!?やった!』
「何飲む?やっぱファジーネーブルとかそういうの?」
『ロングアイランド』
「まじか!じゃぁ俺もそれにしよ〜」
自然と会話も弾んで、別に嫌じゃなかった。
酔いが回っていたこともあって、緊張の糸も解けていた。
でもそのせいで、戻ってきた彼が寂しそうに斜め向かいの席に着いた事には気がつかなかった。
「はい!ロングアイランド!」
『ありがとう〜久々だ!』
久しく飲んでいなかったロングアイランドアイスティーを目の前に素直な口元がほころぶ。それも、奢りときたら尚更だった。一口含むと、爽やかなレモンの香りがふんわり広がり、アイスティー風味を後追うようにウォッカとテキーラが香った。甘さが無くて大人な味なのが好きだった。
「嬉しそうじゃん。かわいんだけどリアクション。」
頬杖を付きながら急に私の顔を見つめてくるから、心臓が小さく跳ねた。私は彼から目を逸らすようにして、お酒をもう一口喉へ流し込んだ。
戸惑いを紛らわす為に飲むペースが上がってしまい、気がついたら既にグラスの半分以下になっていた。
「大丈夫ー?顔だいぶ赤くなってるよ?」
そう言いながら、私の顔を覗き込んで軽く私の頭を優しく撫でてきた。
フワフワした気持ちで眠くなってきた私の視界の隅から、向かいの席に座っていた彼が席を立って行った。急に不安感が胸から押し寄せてきて、酔いが一気に冷めてきたように感じた。
『あれ、どこ行っちゃったのかな?』
「なんか、タバコ吸いに行くって言ってたよ。」
彼の後を追いかけようとして、立ち上がろうとした私の足元は気持ちとは裏腹に覚束無くて、バランスを崩してしまった。そんな私を受け止めてくれたのはやっぱり隣の彼だった。
「ったく。飲みすぎだっつーの。」
少し怒ったような口調とは裏腹に、私の肩を抱きかかえる手は優しかった。
『…もう帰りたい。』
「…てか、終電無くない?なぁ、アイツどこ行った?」
「外にいるんじゃない?」
「ちゃんと面倒看てやれよな。」
『私、別に一人で帰れるから…』
もう何もかも面倒くさいと思った。
私ももう、子供じゃない。例え酔っていても、自分で自分の面倒くらい看れる。彼が居なくなったせいで、誰が私を連れて帰るかなんて話している始末だった。
そんな彼等を尻目に、席を立ち出口へ向かって歩を進める。彼が呼び止めるのも耳に入って来ないフリをした。それなのに、あなたは千鳥足で歩く私に駆け寄って、肩を優しく持ってくれた。
「別に嫌じゃなかったら、俺のとこ来れば?」
私よりも結構背が高いのに、肩を貸しているから目線が近かった。奥二重でシュッとした目元に少し冷たい印象だと思った目元だったけど、近くで見ると少し茶色くて優しかった。
『大丈夫だから…迷惑かけたくないし。』
「迷惑とか思わないし、俺本当に何もしないよ。
………少なくとも、今夜は。」
横にいるあなたを振り向くと、少し意地悪そうに笑う貴方が何故かかわいいと思った。
『じゃぁ、助けてよ。』
あなたと二人、タクシーに乗り込んだ。
行き先は一箇所だった。
❁
カランコロン。
涼し気な音を立てながら氷が水面できらめいていた。
アイスティーストレート。
ストレートが一番ロングアイランドアイスティーに味が似てる気がする。そんなことを考えていたらいつの間にか白昼夢を見ていた。数年前の遠い記憶だった。
「ガムシロとレモン、いる?」
『レモンもあるんだ!欲しいな!』
私がそう言うと貴方は丁寧にガムシロを開けて私のアイスティーに注いでくれる。いつもの光景だった。
レモンをグラスの縁に可愛く付けてくれる貴方を見て、思わず微笑みながら眺めてしまう。
貴方の黒色の髪の毛が光を浴びて艶感が出ている。センターで分けられた前髪の下の大きな瞳にはレモンが映っている。それから、目元にある涙ボクロもかっこ良いなぁと思いながら貴方を見つめる。
「できたよ。どうぞ〜!」
貴方が大きめのクリっとした目を細くしてにっこり笑いながらグラスを差し出す。私の好きな笑顔だ。
『ありがとう。』
ストローに口をつけてアイスティーを一口飲んだ。
甘酸っぱい。
でも今は断然こっちが好きだと思った。
『苦くて甘くても。』FIN
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