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【恋愛小説】晴れ時々晴れ✾5mins short love story✾
「ねぇねぇ、あれ先輩じゃない?今日もめちゃかっこいい〜!」
「隣の女の子いつも一緒じゃない?彼女?」
「知らなーい!てかやば、今日天気予報雨だった?」
「そんなこと言ってなかったよ〜」
「傘なんて持ってきてないんだけど最悪ー!」
「走ろ走ろ!」
❁
7月も下旬、既に梅雨明けが宣言されたのは一週間前。それなのに台風のような大雨だった。
最近天気が不安定で、どんよりとした曇りの日も多く、気持ちが上がらない。当然、傘なんて持ってきていない。
「なんか雨、強くなってない?」
そう言いながら隣を歩く貴方。見たところ貴方も傘は持っていないようだった。
受講している講義が同じ時は決まって一緒に帰っていた。その時間が私にとって、たまらなく大事だった。
『傘、持ってないんだよね〜…濡れて帰ろっか!』
「俺、傘あるんだよね」
貴方はそう言うと肩掛けバッグの中から少し大きめの紺色の折りたたみ傘を取り出した。まさに備えあれば憂いなしというところだ。
大学の敷地内は建物の中を通れば雨に濡れずに済んだけれど、駅までは走っても5分以上かかってしまうから、ずぶ濡れ確定が宣告されたも同然だった。
「ねぇ」
『へ?』
しょうもないことを考えていて、全く周りの状況を見ていなかった。そんな私を振り返って貴方が続けた。
「傘、入れば?」
周りには講義が終わった生徒が沢山歩いていた。ただでさえ男友達とも群れたがらない貴方がそんなことを言ってくれるなんて思ってもみなかった。
しかも、私と違って他学年の人達からも一目置かれる貴方だったから、気が引けてしまった。
『え、でも…』
「なに?周りを気にしてるの?」
『その…逆に嫌じゃないのー?私と付き合ってるとか思われるかもよ?』
冗談交じりに言いながら、貴方からの返答が少し怖くて我ながら情けない。
「そんなことよりも俺が気にしてるのは、風邪引かないようにってことなんだけど?」
『は…入ります!!』
一言口に出すか出さないかのところで私はもう貴方の元へ駆け出していた。
貴方が私のことを気にしてくれているなんて。いつも男友達みたいにしか思われてないと思っていたから、気遣ってくれたことが素直にとても嬉しかった。
「なんで敬語なんだよ」
貴方はハハッと明るく笑いかけながら私が傘に入ったのを確認して歩みを進めた。
話をしながら歩いて時折貴方の方を見ると、横顔は鼻筋が通っていて、耳から顎までシャープな顔の輪郭がとても綺麗だと思った。長めの睫毛が囲う目は奥二重で少し冷たい印象だけど、笑ったときに伸びる目尻の皺が好きだった。
❁
「到着〜」
『傘、ありがとう!ホントに!』
「いいよ、こんくらい」
そう言いながら丁寧に折りたたみ傘を畳む貴方の右肩が濡れていた。私が濡れないように終始気を遣ってくれていたことに気づいて、心がじんと温かくなった。普段素っ気ないくせにこういうところが優しすぎて、どんどん貴方に堕ちていく。
だからまた、天気予報が外れて雨が降ってもいいかもしれない。貴方が隣に居るだけで、憂鬱な雨の日にも心がこんなにも温かい。
でもやっぱり、晴れの日に陽の光が当たって茶色っぽく見える貴方の瞳が私に微笑みかけてくれる方が好きだとも思う。
そこに貴方がいてくれたらどんな日も晴れるから。
『晴れ時々晴れ』 FIN
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