【恋愛小説】月曜日❁3mins short love story❁
初めは好奇心。本を背表紙で選ぶみたいに、読書をする貴方の後ろ姿を見て、どんな本を読んでいるのか気になった。
たまたま受講していた講義で席が隣同士になった。それなのに、教授から指名を受けて発言する場面以外で、貴方の声を聞く機会がなかった。静かに講義を受ける横顔を見て、どんな風に笑うのか気になった。
きっかけは、ほんの些細な出来事。暇を持て余した私がプリントの余白に描いた落書きだった。
「なにそれ。上手いね。」
講義中なのもあるけれど、貴方の低くて落ち着いた小声が私の耳を通って、胸で聞こえたようだった。初めての会話は、喜びよりも困惑の方が大きかった。
『私が好きなアニメの。』
聞きたいことも話したいことも沢山あったし、頭の中では何度も尋ねてきたのに、いざ、その時が来ると言葉が出てこなかった。
貴方は頬杖を付きながら、講義中だけかけている眼鏡をゆっくり外すとこちらに目線をよこした。
「アニメとか見るんだ、意外。俺も好きだけど。」
それから私達は、お互いに話をするようになった。
人に流されず自分を持っていて、素敵な人だということを知った。
好きなことの話、面白い話では目を細めて優しく笑うことを知った。
私が困っていたら、助けを求めなくてもいつも助けてくれていることに気づいた。
そして、いつからかいつも隣に貴方がいることに気づいた。
❁
金曜日の最後の講義が同じで、二人一緒に帰るのがお決まりだった。どちらが誘うでもなく、それでも私が帰り支度が遅い時には、貴方は黙って待っていてくれていた。
その日、私はアルバイト先がある二つ先の駅に置いた自転車を取りに行くために、歩いて帰ろう思っていた。
『今日は、向こうの駅に自転車取りに行くから、ここから歩いて帰るね。』
大学の最寄りの駅と、私が目指す駅への分かれ道で伝えた。私が駅へ半歩歩みを進めたところで、貴方が呟いた。
「俺もそこまで歩くよ。」
一人の時間を好み、あまり人と一緒に居たがらない貴方からの一言に、驚きと嬉しさで心臓が高鳴る。歩くと二十分ほどかかる近くはない距離なのに、貴方が隣にいるだけで、一瞬に感じられた。
時折横にいる貴方の顔を見ると、夕陽に照らされて、黒髪が少し茶色に見えた。その少し伸びた前髪がかかる貴方の瞳が、貴方が笑うたびに陽の光を受けて輝いていた。今この瞬間、目に入る物全てが眩しくて、私は目を細めた。
あっという間に駅に着いて別れの時間。毎日会っているのに、毎日寂しい気持ちになる。また明日も会えるって、あと何回あるんだろう。
今日は金曜日。
明日は貴方がいない土曜日。
『一緒に来てくれてありがとう!
じゃぁ、私行くね。』
私は名残惜しさを振り切って、思いっきり手を振りながら笑顔で言った。
「うん。また月曜日。」
改札口へと続くエスカレーターを上る貴方が振り向いて、私よりも大きな手をひらっと振って言った。
こんなにも待ち遠しい月曜日。
貴方がいる月曜日。
貴方の月曜日にも私がいるなんて。
別れの言葉で「サヨナラ」ではなく、
「またね」が特別なのは、
貴方も「次」を待っているってことだから。
「月曜日」 FIN