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精巣(精索)捻転症発生後の精巣機能
"Testicular torsion and subsequent testicular function in young men from the general population"
Human Reproduction, 2023
2023年、ホヤホヤの論文です!Testicular torsion(精巣捻転)と精巣機能に関する研究です。
精巣捻転とは
泌尿器科的緊急疾患である精巣捻転とは、精索が捻れることによって精巣の血流障害が起こり、早急に整復を行わないと組織の壊死が進行してしまう緊急陰嚢症のひとつです。
発生のピークは新生児と思春期男児の二峰性で、捻転の原因の80%は精巣鞘膜の付着異常(Bell-Clapper)によって起こります。
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右がBell-Clapper型。鞘膜が裏側まで付着しており、精巣がぶらぶらしているため捻れやすい。
(画:竹島)
早急な整復・精巣固定術を必要としますが、その後の精液所見やホルモン値のプロファイルについて、生殖能力が未知の集団を対象とした研究は行われていません。
対象と方法
対象は、デンマークの、若年男性の生殖能力を評価するためのコホート8,111人のうち、解析対象となったのは7,876人。
質問項目は以下のとおり
・生活習慣(喫煙、アルコール摂取、禁欲期間)
・既往歴(尿道下裂、停留精巣)
・原病歴(精巣捻転に関する質問:手術の有無、いつ受けたか)
・出生情報(出生児体重、早産か否か)
でした。
ホルモン値は
・FSH
・LH
・テストステロン
・SHBG結合グロブリン
・インヒビンB
・(テストステロン/LH比)
・(インヒビンB/FSH比)
統計解析
精巣捻転の有無と精巣機能のマーカーの関連を調べるために以下の3つのモデルで線形回帰分析で効果量(%β)の算出を行いました。1)未調整、2)ホルモン値は採血時間、精液所見は禁欲期間などで調整(層別?)、3)早産の有無を交絡として調整しています。
結果
7,876人中、精巣捻転で手術を行ったのは57人(うち5人は摘出)でした。
年齢中央値は捻転群・健常群ともに19歳で、手術年齢は13.4歳でした。
捻転群は対照群と比較し、尿道下裂の手術歴や停留精巣の既往歴が有意に高く、早産・低出生体重で生まれた割合が有意に高い結果でした。
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未調整モデル・調整モデル1・調整モデル2ともに捻転群は対照群より
・FSHが高値で
・インヒビンBが低値で
・インヒビンB/FSH比が低い
という結果でした。
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また、精液所見については捻転群と対照群では差を認めず、調整モデル2では
・捻転群で精子濃度が低い
という結果でした。
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しかし、感度分析で停留精巣で精巣摘出を行った5人を除くと、ホルモン値・精液所見の有意な群間差を認めませんでしたが、調整モデル2でインヒビンBのみ捻転群で有意に低い結果でした。
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本研究の強み
先行研究は対照群を持たないか、一般集団よりも精巣機能が良好な(妊孕性が確認できた)非理想的な対照群をもつ小規模研究、であり、本研究は同一の集団において、精巣捻転と精巣機能を評価した最初の研究であると筆者らは述べています。
解釈
FSHが高く、インヒビンBが低い(=セルトリ細胞機能の低下)はおもに精巣摘出を受けたサブグループによってもたらされたものであると考えられました。
また、精巣捻転を起こした患者は早産児や低出生体重児として生まれたことが観察されました。これは、精巣は妊娠37週に完全に下降し陰嚢に固定されることによります。したがって、早産児は精巣捻転のリスク因子であると考えられます。
コメント
精巣捻転で精巣固定を行った患者群では意外にもFSHや精液所見が対照群と有意な差を認めませんでした。これは今回の対象集団において適切なタイミングで固定が行われたため組織学的な障害が起こらなかったのではないかと類推されます。これだけ大きなデータベースがあれば他にもいろいろレトロで研究できそうですね!