見ても見なくてもどちらでもいいけど見てくれたらなんか嬉しい話

母方の祖母が亡くなった。
ずっと病気で、死ぬような病気になったけど生きてたり。
死ぬ死ぬ騒いでいて、結局生きているような、そんな祖母だった。
祖母との会話なんて、ほぼなくて。
俺が物心つく頃には、もう病気で、会うって言ってもそんなに会わなかった。
だから、俺は祖母が亡くなってもそんなにショックは受けないと思っていた。
が、やはり俺は孫。
それなりのショックはあった。

祖母が亡くなった話は、仕事の帰り道、兄からのLINEだった。
「亡くなったよ」と言われ、驚いた。
帰りのバスの中。
俺は驚きすぎて、少し笑った。
そして、少ししてから祖母とのことを思い出そうとした。
どんな人だったか、とか。
だけど、全てに靄がかかっていた。
顔、仕草に。
声には雑音。
つまり、俺は祖母がどんな人だったか、思い出せなかったのである。
酷い孫だ。
しばらく会わなかっただけで忘れてしまうのか。
ほんの少しだけ自分を責めてみた。
だが、自身を責めたって何もない。
無である。
だから、責めるのをやめて。
外の景色を見てみた。
ぼんやりと。
その内来るだろうとは思っていた。
ただ、今回も死ぬ死ぬ詐欺で終わると思っていた。
亡くなるとしたって、明日か明後日か。
明日になったら、病院に行こうと思っていた。
仕事もないし、予定もないから。
だが、それは今日で。
人間、死ぬタイミングはわからないものなんだな、と思った。

家に帰って、家事をして。
やっと一人で、ぼんやりと考えられるなあ、というとき。
兄が帰宅した。
実家を出た兄が。
兄と話しながら、やはり今日は仕事を休んで病院に行くべきだったと思ったが。
行ったとて、俺は亡くなった瞬間は笑ってしまうと思った。
それも大笑い。
最低だと思う。
人が死んだのに。
悲しいというよりも、衝撃で。
どこかで、これは夢なのだろうなんて思って。
笑い飛ばしてしまう。
夢ではなく現実で。
笑い飛ばせる話などではない。
だけど、笑い飛ばしたかった。
いや、蹴飛ばしたかった。

今、ここでこの話をしていても。
俺は悲しいという思いが出てこない。
出てくる気配すらない。
どうか、俺に対して最低だと言ってほしい。
身内がなくなったのだから、悲しめ、と。
悲しむのが正しい、と。
俺は身内が亡くなったとき、どんな感情でいるのが正しいかわからないから。
誰か教えてほしい。
俺は今、どんな感情になっているのだろう。
うっすら視界がぼやけている。
きっと泣きそうなのだろう。
特に関わりのない人だった。
知り合い程度である。
それでも、祖母だから、と。
俺はもしかしたら、どこかでほんのり悲しんでいるのかもしれない。
が、あまりよくわからない。
ただ、今は誰かに話を聞いてもらいたくて。
でも、話を聞いてほしくない。
そんな面倒くさい感じだ。

声に出して、話をしようとしても。
ため息ばかりが出てしまう。

祖母からしたら娘の母は、何だか落ち着きがない。
親が死んだのだ、きっとショックはあるだろう。
本人に自覚はないが、かなり参っているように見える。
これからのこともあって。
今、家にいるのは俺と母だけ。
だから、俺が母を支えなければならない。
ずっと母を見てきた兄が、ぽつりと「母さん、きっとだめだからさ。よろしくな」と言った。
初めてに近い。
兄が俺に「よろしくな」と言ったのは。
最初、よくわからなかったが。
病院から帰宅した母を見て、ああ、そういうことか、と思った。
これからしばらく、俺はネットを見ている暇があまりなくなるだろう。
母のこともあるから。
その時、俺はしっかりと正しい感情でいたい。
正しい判断をしたい。