ドラマじゃないなら死にたい。
神田沙也加が死んだ。
舞台公演のため、訪れた札幌の宿泊ホテルにて、14階から飛び降りたらしい。
救急車から運び込まれた時点では意識不明の重体、情報が錯綜する中、暫くして死亡が確認された。
2021年12月19日、午前1時過ぎ頃のことだった。
さかのぼること今から35年前、一人のアイドルが所属事務所の屋上から飛び降りた。
岡田有希子という18歳のデビューして3年目のアイドルだった。
当時、彼女は「ポスト松田聖子」と呼ばれた人気絶頂のアイドルで、今後のサンミュージックを背負って立つ看板アイドルだったという。
そして、彼女はその松田聖子が妊娠発表をした次の日、自ら命を絶ったのだ。
生前に書いたという遺書あるらしいが、今日まで公開はされていない。
中には某俳優の名前と(これは当時記者会見するまでだったらしい)、
神田正輝、つまり亡くなった神田沙也加の実父の名が書かれたという噂も流れたが、最初にそれを目にした事務所の社長は最後まで遺書の内容について口にしなかった。
神田夫妻以外は社長含め渦中の人物は既に亡くなっているため、真相はいまだ闇の中のままだ。
岡田有希子が自殺してからというもの、
彼女を追うように主に若者が次々命を絶った。
そのほとんどが飛び降りだった。
のちにこの現象は「ユッコ・シンドローム」と名付けられ、併せて30人余りの人間が、みずからこの世を去った。
そして神田沙也加は享年35歳だった。
SNSではなんの因果なのか、とまことしやかにささやかれているが、まあ偶然の産物に過ぎないだろうな。
ここ1、2年で芸能人の自殺が相次いだのは記憶に新しい。
誰もがうらやむ美貌の女優が、俳優が、凡その人々は手に届かない成功を手に入れた人たち。
今ほど、死が身近な時ってないんじゃないかと思う。
SNSでは「神田沙也加ほど恵まれた人物でさえ耐えられなかった人生が一般人に耐えられるわけない」なんて声が飛び交っているが、
私は逆に、自分がもし飛び降りるとしたら「あの人もこの恐怖に耐えたんだ」と思ってしまうかもしれない。
背中を押されてしまうかもしれない。
華々しい人生を送っていたように見えた彼女たちが、今わの際に何を思ったのだろうか。
もし、私がいざ飛び降りようとした瞬間彼女たちの死が救いとなる、そんなような気がしてならない。
緩いシンドロームが、じわじわと既にはじまっている気がする。
このまま歳を取る一方で、人混みはどんどん怖くなり、世間の記念日はひっそりと息を殺して過ごして浅く首を絞められ続けるようにゆっくりと死んでいくのだろうか。
今私を救うものはドラマティックに死ねる、それしかないような気がしている。
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