鼠社長の事務所にて
小学6年の春に夢だった画家を諦め、
画家の母に夢は諦めたと告げ了承を得て、
母が買ってきたビートルズのテープ2本が僕の運命を変えた(この話は面白いのでnoteにも機会あれば書きます)ことによって、僕は妹のピアノを触り作曲を始め、中学に入ると母から少年ジャンプに広告を出してる¥9800で1セットのエレキが買えるのを買ってもらった。それ以前にもエレキは許さないがフォークギターならいい、というよく分からない父の許可を得てフォークギターを買ってもらったが、地味でつまらない気がしてすぐ触るのをやめてしまった。
その為せっかくだからと母がエレキを買ってくれたのだ(親父はこの時期深酒のせいかちょっとおかしくなっていて夕飯時に食べ物を何度か落とした為、俺を裸にして冷水シャワーを浴びせマンションの廊下に放り出した。時期は2月、扉には鍵がかけられたので俺は数時間深夜に扉の前にうずくまっていた。やがて同じ階のひとが親父を説得し部屋に入れてもらった)。
その頃母と2人でマンションのゴミ捨て場で捨ててあったエレクトーンを回収、リズムはなるし、足でベースもできる、左手右手の鍵盤が別になっていてそれぞれ違う音が出せる!そもそもピアノも弾けるから、これは最高だ!(激貧乏だった為ピアノ教室とかは行ってない)
これとギターと自分で買ったカセットMTRで音楽を作り音楽レーベルに送ろう!僕は天才だから一発合格確実だ!(今この歳で当時にワープして、それを実現するにはコネとか学校とか大人とかコンテストとか書けないこととか、が一杯あるんだよ、と言っても、才能があれば大丈夫なはず!レコード会社は才能を求めている、って広告に書いてあった!デモテープを作れば才能を拾ってくれる!というだろうから、もう何もかも仕方がない)
エレクトーンに内蔵されたリズムは全部で10個、しかも同時押しで合体したリズムを出せる。シンプルだけど変なリズムから今でいうトライバルまで、なんて不思議なリズム、デ・ラ・ソウルみたいだ!
リズムを流しながらMTRに録音。リズムトラックを作り、ギターを繋げてhighかlowしかないのでhighを0にしてlowをmaxにしベース音を作り、Aメロでデラのような日本語の奇妙なラップを載せ、Bメロからメロディアスにして、サビで盛り上がるスケールを作ってリズムトラックを完成させた。
鍵盤はそのままエレクトーンを使い、サイケデリックに仕上げ、ギターはセットで付いてきた踏んだらフランジャー(ジェット音)になるディストーション(音をロック風に歪ませる)でアート・リンゼイみたいなプレイをして、サビメロはトーキングヘッズを参考にした。
さて、デモテープが完成。
神保町三省堂に行きレコード会社の住所が載ってる本を立ち読みして、その場で全てメモに控え帰宅。
インディーズ(この時点ではよくわかっていないがレーベルと書いてあったから送ることにした)にも送った。
3ヶ月がたったがどこからも連絡はなかった。
絵で賞を連発していたことを考えると、
やはりこれは判断誤ったか、と思ったが、
それから少し経って、都内の某インディーズレーベルから連絡が来た。
電話で話したいと書いてあったので電話したら、
中学で声が幼かったので「お兄ちゃんいるかな?」
とか言われたが自分である旨伝えたらビックリしていた(年齢書けと書いてあったが舐められたくないので無視した)。
親御さんと当社に来てほしい、と言われその場で母さんに訊いたら、いいよ、ということだったので、
1週間後レーベル住所に向かった。
レーベル事務所は外見からしてとにかく汚かったし、
廃ビルに無理を言って入れてもらってるらしく、
手入れらしいものはまったくされてなかった。
階段を歩きながら、
母は汚いのが全くダメで、早くも、
あーもう!階段がぬるぬるしてる!くさっ!、などと言い出していた。
事務所ドアをノックすると中から、
かなりやられた風のサラリーマン男が出てきて、
「奥村さんですね!お待ちしておりました!」
事務所内は1週間ぐらい濃縮させたような衣服と汗の汚れの匂いがした。
これは、まずい、僕は直感で気づいた。
長椅子に座らされたがところどころ穴だらけで、
僕がその穴を気にして指を入れたりしてると、
「あー、ねずみがねえ、齧るんですよお」
「ひい!!」と母。
「じゃまず契約と行きましょうか」
すると母が「契約書は詳しくみさせてもらいます」と言ってとても頼もしかった。
そもそも僕が中学生だと明かしてないが、
雇用法的にokなのか、それともこれは雇用ではないのか、など考えていると、
母が「印税は全体の1%!低すぎませんの?!」
社長?「奥さん、それが普通なんですよ
こんなお子さんなんて聞いてなかったし、
お子さんならこの条件ですよお」
母が「印税は最低20%!あとうちの子は中学生なんですけど、どうやって売り出すつもり?!」
社長?「20%!それでは当社が潰れてしまう!」
ここで僕が初めて自分の意見を述べた。
「正直、この事務所の会社に作品を預けるつもりはないです。著作権も持っていくんでしょ?」三省堂書店できっちり立ち読み勉強済みなのだ!
すると社長?は急に壮大な態度になり、
「うちで出したくないならいいんだよ、
こっちから願い下げだ、さあ、帰ってくれ!」
というと尊大なオナラをした。
母は帰宅中ずっと罵っていたし、
僕もずっと暗い気持ちだった。
地元の駅についても母の怒りは収まらず、
口汚く罵る中、
折悪く夕方の帰宅の寂しい音楽が流れて追い討ちをかけた。
「お母さん、今日はありがとう。
多分何かが間違っていたかタイミングが悪かったんだよ。お母さんは悪くないよ。」
母は「あなたも悪くないの。あの社長?だけが悪いの。あとあの汚い事務所!」
と言って抱きしめた。
母が何度も僕の体を軽く叩きながら抱きしめている間、
これは長い戦いになる気がするな、と感じてた。