"アルバム紹介 "the O "nightmerica"

アメリカのバンド(ユニット)the Oの1st。それまでに1stシングルにm3、続いてm5が出された。自主のどインディーだったが、1stシングルが本国で話題になり日本の西新宿の輸入レコード屋群に品が入るや否や一気に話題になった。このm3は強烈すぎた。最高を超えて至高。当時の俺と同じようなキッズたちは挙ってこのシングルを買い求めた。内容は単純なヴァース、コーラスの繰り返しなんだが、上音のアレンジのレベルがずば抜けており、加えて音符の動きは少ないのに誤りがない為、感情が持ってかれる聴きやすいメロディの素晴らしさ、そしてなんと言ってもこの少ないコードで世界観を作れる進行力。レコ屋で聴いて驚愕したこの曲、買って最初にやったのは盤を聴きながらの採譜だった。シングルは西新宿の先鋭的な店で狂ったように店内でかかりまくり売り切れ続出で途中から購入するのは非常に難しい盤になってた。レコ屋で仲良くなった耳が早い友人の間では彼らの次の作品の話題が尽きなかった。ヤバいに違いない。全会一致だった。数ヶ月後に2ndシングルm5が発売。客たちは試聴など一切せず即座に手に取りレジへ持っていった。レコ屋も1stの売上実績を認識していたから多めに入荷しており、今度は売り切れ騒動は起きなかった。だが飛ぶように売れていた。さて、m5もめちゃくちゃ良くて僕は聴き狂った。かなりポップに寄せたがそういうのもできるんだよ、っていう感じで余裕すら感じた。そろそろ出るんじゃないかと思っていたアルバムに期待を寄せる。しかし、なかなかアルバムは出なかった。2年ほど経って僕らがthe Oを忘れつつあった頃、初のアルバム、今回紹介する作品が出た。内容は完全に気を衒ったものだった。まずヒップホップがかなりの量入っていたことでヒップホップ嫌いの人は離れた。そして、あまりにも様々なジャンルが入っていたので、消化しきれず離れる人も居た。レコ屋界隈では瞬く間にこの落胆は広がり、どの店に行ってもthe Oの1stはあまり動いているようには見えなかった。店員もあまりこのアルバムを積極的には展開していなかった。当時僕はヒップホップもよく聴いていたが、the Oのそれはオルタナティブヒップホップで、ノイズ、即興的な要素もあり、当時若かった僕の許容範囲を超えていた為、僕も買ったはいいがこの1stをどうしていいかよくわからなかった。本国でも散々だったみたいで、一旦消えたという記憶がある。

というわけでthe Oは海外最先端の音楽を漁っていた当時の西新宿レコ屋界隈の連中からタグを外されたのだが、僕は突然数年前に彼らを思い出し、シングルではなく、あのアルバムを聴いてみた。すると当時は分からなかったことが沢山わかった。m1,m2があまりよくないという評価は変わらずだが、m2はあまりにオルタナティブだったからついていけなかったが、今の耳で聴けば全然理解できる。ああ、今はいるよね、こういうラッパー、という感じ。多分早すぎたんだと思う。

さて、当時の耳の早いキッズを熱狂させたm3がスタート。うわー、やっぱり凄まじい。未だに未来を歩いてる。これは別次元だな、と改めて認識。今クラブで流れても全く違和感ないしブースにジャケ見に行く子は多数だろう。m4はオルタナヒップホップ。このアルバムに入ってるヒップホップの中では一番いい。上音のセンスの良さはこの人なら当然として、ライムも取ってつけた感はなく音楽に馴染んでる。ヒップホップ全部このクオリティなら評価は変わっていたろうな。そしてシングルm5。やはりずば抜けている。素晴らしいコード進行とメロディスケール、7thの上手い使い方、m3もだが、かなり強引なコード進行なのに、次の展開で載せるメロディスケールがハマっているので逆に気持ちいい転調になってる、と当時キッズだったけど気づいていて、その頃作曲を勉強し始めていたがこれを聴いてからは馬鹿らしくなり辞めた。m6は哀愁漂うグランジソング。これもコードの進行が本当に素晴らしい。強引だが天才的。作曲やってる人は是非聴いてほしい。当時もこれはよく聴いた。美しい以外に言葉が出ないブリッジへの展開。これシングルにすればよかったのに。m7,m8はサイケデリックソング。当時はエレファント6などのサイケデリックポップ勢が勢いあったが、彼の作品には独特の毒がありエレファント6勢のそれとは全く違っていた。細かく聞くと絶妙な転調などで遊んでいるのがわかりニヤリとしてしまう。m9はヒップホップ。明らかにBECK(loser期)の影響を感じるがリズムが単調。他のラップ曲で聴かれるトラックの抜き差しが少なく残念。改めてやはり彼はポップソングの方に才能があると思ってしまう。

m10はよくあるインディーロック。珍しくコードのこだわりがなく何かへの隠喩なのかな。コードが動かないもんだからメロディスケールも単調。彼ならもっといいのを書けるはずなんでこれも残念。m11-13は純粋なパンク曲だが質は高い。グリーンデイが火をつけ、続くノーダウトもスカコアの火をつけ、しかしそれらの火も消えシンプルなパンクをやるのはダサいとなっていたこの時期に、曲が良ければ終わったブームもダサくならないんだよと言わんばかりの暴れぶり。マイナースレッド辺りのusアンダーグラウンドパンクの印象もあって好感が持てる。

長くなってしまったけど、the O "nightmerica"とその先発シングルのことを書きました。
興味を持ったら聴いてみてください。特にポップソングが好きな人には彼のポップソングの側面を聴いてほしい。


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