何のためのイラストなの?イラストの目的を考えてみることから始めよう。
絵を描くことが好き。でも、お客様がその絵を好きかどうか、使えると思うかどうかは別ですよね。色柄にトキメイテ買ったものの、家に帰ったら「どこに着ていこうか・・・」と悩みの種になってしまう服もあれば、何の変哲もなく合わせやすいから、ついつい袖を通してしまう服も有ります。イラストも同じで、まずは適材適所であることが必要だと考えています。
アートなイラストレーションは、イラストそのものを作品として飾ることが目的なので、芸術的なセンスや技術的なテクニックがモノをいう世界です。一方、メディカルイラストは、どんなに写実的であっても、技巧的に優れていても、目的を果たす要件をクリアしていないと役に立ちません。
誰に対して何を伝えたいのか、そのための手段であり、伝えたいことを伝えることができるイラストが、良いイラストだと思います。
先日、人生何度目かの入院をしました。同じ病院にずっと通い続けていますが、それなりに大きな病院のためか、医療従事者はもとより設備機器等の入れ替わりも多く、毎回新鮮な思いでいます。
今回は、事務手続きが大幅に簡略化されていました。加えて、日用品のレンタルサービスもあり、手ぶらで入退院が出来るとは、なんて便利なんだろうと感心いたしました。治療に関しては、医療スタッフが代わるがわる丁寧に説明してくれ、合わせて自己紹介もしてくれるのでとても心強く感じました。麻酔医の先生は、硬膜外麻酔のしくみについて、簡単なスケッチを描きながら説明してくれたので、非常にわかりやすく、術後に残っている針とカテーテルが抜けないように、ベッドでの体勢に気を配ることもできました。
患者(私)がそれなりに理解でき、療養時の行動につながったという点で、麻酔医の先生の目的は達成できたのではないでしょうか。
イラストの目的は、絵としての出来不出来ではなく、伝えたい相手に正しく伝わり、その人の行動に変容を及ぼすことです。
メディカルイラストに対しては、嫌悪感を示す方も少なくありません。内臓や血が苦手という方はいますし、自分の手術だから「切られる説明なんて聞きたくない。」という方も。患者さんが見るかもしれないイラストの場合は、イラストで具体的に示す情報よりも色彩の心理効果が高くなることを考える必要があります。
医療従事者でも、その分野の専門家とそうでない方とでは見るポイントが異なります。以前、通常2本ある動脈を1本にして描いてくれ、という依頼がありました。イラストは、血液の循環方向を理解するのに使いたいとのこと。血管の本数を理解している方々が見るので、形状は省略し、循環方向を指し示す矢印を適宜入れて欲しい、とのことでした。素人には大事だと感じていた部分も、専門家の間で公知のことは削除したほうが分かり易いそうです。不要な情報を削り取る、そういうデザインの基本を考える事例になりました。
細密画を描くことは、自分の理解を深めることに繋がり、省略画を描くことは、相手に伝えることになると考えています。
私は、いつ・誰に・何を・どのように伝え、その結果がどうあるべきか、を考えて描くことを心掛けています。綺麗だけど心に刺さらない、正しいはずなのにわかりにくい、そんな悩みが出て来たら、何のためのイラストなのか?その目的を考えてみることで、解決につながるのではないでしょうか。