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肺アスペルギルス症と抗アスペルギルス抗体

ついに今月(2024年8月)アスペルギルス IgG 抗体(ELISA法)が保険収載されました(390点)!
注意点としては真菌の抗原検査と同時に出すと主たるもののみ算定されます。原則的には慢性(進行性)肺アスペルギルス症とアレルギー性気管支肺アスペルギルス症の診断にのみ用いる検査です。
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001276022.pdf

簡単に肺アスペルギルス症と抗アスペルギルス抗体について解説してみます。今回治療の話はしません。


肺アスペルギルス症

アスペルギルス(Aspergillus)は自然界にありふれたカビの一種であり、我々も普段から知らず知らずのうちに吸入しています。一部の肺に疾患のある方や免疫不全を有する方に感染し、肺感染症を引き起こすのが肺アスペルギルス症です。大きく分けると侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)と慢性肺アスペルギルス症(CPA)、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の3つがあります。

IPA

基本的には血液悪性腫瘍などの高度な好中球減少を背景に生じるため、気管支鏡検査などの侵襲的な検査が難しいことが多く、多くはCT所見と血清学的所見で診断されます。血管侵襲型と気道侵襲型に分類され、後者は軽度の免疫不全+既存の肺疾患というパターンが多く、画像初見もいわゆる気管支肺炎型をとります。ただ両者は別の病態というよりも連続した病態と考えた方がよく、境界領域のような画像パターンを呈することもあります。画像所見は非典型的なこともあると理解してもらえれば良いです。

血清学的検査はガラクトマンナン抗原が中心です。β-D-グルカンも陽性になることが多いですが、原因を絞れないので診断の役には立ちにくいです。
 画像所見のレビュー:Clin Infect Dis. 2021;72(Suppl 2):S79-S88.
 ブログの解説記事はこちら:深在性真菌症(IFI)改訂EORTC/MSG診断基準へのEvidence Supporting

EORTC/MSG基準:Probableで診断することが多い

CPA

海外と日本で少し分類方法が異なります。基本的に既存の肺疾患(多くは空洞性病変や気管支拡張)があり、そこにアスペルギルスが定着し増殖したものを言います。CNPAと先程の気道侵襲型の境界もやや不明瞭です。
診断は背景疾患・リスク+身体所見/画像所見+血清学的所見を総合して行います。後述しますが、ここで重要となるのがアスペルギルス抗体です。

ABPA(ABPM)

感染症とアレルギーの交差する領域といえるABPA(ABPM)は、気道に定着した真菌に対するI型およびIII型アレルギー反応により、喘息症状を呈します。画像所見としては中枢性気管支拡張や粘液栓が有名です。
いくつか診断基準が提唱されていますが、アレルギー・好酸球性炎症+画像所見+真菌そのもの、または真菌に対するIgEまたはIgGの証明というのが診断の基本軸になります。

抗アスペルギルス抗体

基本的にCPAとABPAの診断に用いる検査です

海外のガイドラインではアスペルギルス抗体検査はCPAの血清学的診断法として測定が推奨されていました。
CPAに対する感度としては、アスペルギルス抗体が80-90%なのに対して、ガラクトマンナン抗原は10-65%、β-D-グルカンは20-75%とされています(Int J Tuberc Lung Dis. 2021 Jul 1;25(7):525-536.)。
ただし、上述したようにIPAとCPAの境界は一部あいまい、というより連続した病態と考えられ、CPAの要素を多く持つIPAでは抗体検査が陽性になることも十分あり得ます(特に気道侵襲型)。実際こうした仮説を指示するようなデータもあります(Infect Drug Resist. 2024:17:2043-2052.)。

長らく日本では保険適応の抗体検査がなく、多くの施設では自分たちで測定、または費用を負担して行なっていました。しかも日本で使用できたのは非常に古典的な「Ouchterlony法」を用いた沈降抗体法でした。しかし、この測定キットが急に2022年初夏に販売中止となり、国内のすべてのアスペルギルス症を診療している医療機関が困ったことになったのでした。
2022年9月からBio-rad社のキット(後に保険収載される)が国内で使用できるようになり(研究用)、自施設や外注検査会社で測定が可能となりました。
そしてようやく2024年夏、本邦でも保険適応となったのです。

抗アスペルギルスIgG抗体

実際には抗体検査も複数の種類、キットがあるのですが、複数のメタ解析よりIgGキットが最も診断精度が優れていることが示されています。
PLoS One. 2020;15(3):e0222738. Mycoses. 2021;64(7):701-15.
ただし、気道の定着と考えられている症例でも上昇していることがあり得ること、非Fumigatus Aspergillusでは感度が低下する可能性があることには注意が必要です。
Microbiol Spectr. 2023;11(1):e0343522.
ことCPAでは疾患・患者の多様性がIPA以上にあり、単一の血清学的検査と画像所見だけで疾患の全体像を掴むのは難しいのかもしれません。可能な限り微生物学的検査を行い、菌の証明を行うことが重要だと思います。

肺NTM症+CPA

少なくとも肺NTM症からみて、CPAの合併は予後不良と考えられています。
(逆にCPA全体から見た場合にはNTMの合併は必ずしも予後不良というわけではないようですが…)
治療上も薬物相互作用の問題があり、治療方針に難渋します。
抗体検査が保険収載されたことで、難治性肺NTM症に紛れているかもしれないアスペルギルス合併例が見つけやすくなるかもしれません。


早期診断!

【まとめ】

  • IA、IPAでは1)背景疾患、2)画像検査(CT)、そして3)ガラクトマンナン検査(と血液培養も)

  • CPAでは1)背景疾患、2)画像検査(CT)、そして3)アスペルギルス抗体(気道の培養検査も)

  • ABPAでは1)喘息ないし好酸球性炎症、2)HAM・粘液栓や中枢性気管支拡張、3)アスペルギルス検査(IgE、IgG、Asp f1、培養検査)

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