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経口第3世代セフェムはDUだからダメなの?

以前にXでポストして、それなりに反響があったテーマです。
noteでもまとめておこうと思います。


確かに吸収効率は総じてよくない

 DU=だいたいう○こ、と呼ばれる所以ですが、確かに経口第3世代セフェムの腸管から血中への吸収(≒いわゆるバイオアベイラビリティ)は低く、最も高いバナン®️(セフポドキシムプロキセチル)でも50%弱程度で、それ以外のフロモックス®️(セフカペンピボキシル)やメイアクト®️(セフジトレンピボキシル)などは14-20%程度しか吸収されません。
 そうすると、血中や感染局所に対して十分な薬物が到達するのかどうか実際のところわからないわけです。そうなると懸念されるのは
1)抗菌薬が効きにくい
2)耐性化しやすくなる
の2点です。現時点でこれら2つについて確実なデータは乏しいです。仮に到達した薬物濃度が低くても、原因微生物の最小発育濃度を大きく上回る濃度が維持できるなら問題ないわけですから。
DUだから悪いとか問題ないという議論はやや稚拙な気がします。

DU云々ではなく、そもそも抗菌薬が不要

 経口第3世代セフェムが外来で処方、頻用される場面としては、中耳炎、副鼻腔炎、肺炎、気管支炎、軽度なCOPD増悪、膀胱炎などがあります。
これらの疾患の少なくとも一部は自然治癒しうる(self-limited)であり、外来レベルでは抗菌薬が不要なことも多いです。また感冒(急性上気道炎)に対してもしばしば経口第3世代セフェムが処方されてきた過去があります。つまり「抗菌薬が不要な場面で経口第3世代セフェムが処方されていたことが多い=経口第3世代セフェム(DU)は悪」であるという議論にスイッチしてしまったのではないかと思います。

経口第3世代セフェムを使わない本当の理由

Strong evienceに乏しい

上記の疾患群でペニシリン系抗菌薬との比較試験が行われているのですが、ほとんどが「非劣性試験」だったり、endpointが主観的な指標だったりするので、ペニシリン系抗菌薬に優ったとするstrong evidenceがないのです。加えて上述のとおり、これらの疾患にはself-limitedな症例が含まれていることが想像されますので、非劣性試験の結果さえ疑わしくなってしまいます。

ブロードスペクトラムすぎる

 中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎は(少なくとも外来治療する典型例では)肺炎球菌とインフルエンザ桿菌、咽頭炎では溶連菌が主なターゲットとなりますが、多くはペニシリン系抗菌薬(AMPCやAMPC/CVA)でカバーできます。H.influenzaeの薬剤耐性(BLNARなど)については懸念されるものの、少なくとも初手でこうした薬剤耐性菌を考慮した抗菌薬選択を行う必要は乏しいと考えます。むしろ反復する肺炎や中耳炎、副鼻腔炎では抗菌薬選択“以外”に考えなくてはいけないことがありますからね。
 尿路感染では陰性桿菌がターゲットとなりますが大半は大腸菌など、いわゆるPEK(プロテウス、大腸菌、クレブシエラ)と若年者だと腐生ブドウ球菌ですので、外来治療において第3世代セフェムまでのスペクトラムは不要か、あるいはESBL産生菌のため微生物学的に無効です。 どうしても初期治療をブロードに行うとしても、AMPC/CVAがほぼ上位互換となるために、あえてセフェムを選択する理由がほとんどありません。

稀だけどやっかいな問題:カルニチン欠乏

多くの経口第三世代セフェムでは低い吸収効率を補うためピポキシル基を有していますが、代謝・排泄にカルニチンを必要とするため、乳幼児など元々カルニチン不足の患者に低カルニチン血症を引き起こす可能性があります。低血糖、痙攣などを生じ、後遺症が残ることもあります。

DUだからではなく、選択すべき場面が少ない

まとめると第三世代セフェムは
・吸収効率が悪い(=DU)
だけでなく
・そもそも不適切使用が多い
・有効性が微妙
・副作用

といった問題があり、
ブロードに治療したい場合も上位互換が存在するのであえて選択すべき状況、患者が想定しにくいので(めったに)使わないわけです。

でもDUだって貴重な抗菌薬の一つ

 ただし、近年抗菌薬の流通が滞ることが多く、適切な抗菌薬を選択しようとしてもそもそも薬局に在庫がないという場面がしばしば認められます。これはこれで適切な薬価の設定や国内製造量を増やすなどの対応が必要なのですが、選択肢がない中で経口第3世代セフェムを選ぶ場面というのは十分ありえます。またBLNARなど耐性菌に対して、副作用などのために他の抗菌薬の選択がしにくい状況もあります。
 経口第3世代セフェム=悪ではなく、必要な場面もあり得ますので、選択肢を多く持っておくことは重要なことではないかと思います(選べるならセフポドキシムプロキセチルなど非ピポキシルかつそこそこのバイオアベイラビリティのある薬剤を選択したいところですが)。

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