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note Advent Calendar 2014.12.06
ならざきむつろさんの企画 note Advent Calendar 2014参加作品です。
<<12.05 捨文金五郎さん
#Xmas2014 #AC2014 #企画 #イラスト #小説
小さなクリスマス・マーケット
アドベンド最後の日曜日。
クリスマスを間近に控えて、街は綺麗に彩られていました。
街の広場にはクリスマスマーケットが開かれ、
クリームの入ったお菓子やキラキラとしたオーナメントなどが所狭しと並べられていました。
シャルロットはお気に入りの黒いうさぎのぬいぐるみと一緒に、それらを目を輝かせながら眺めていました。
まだ幼いシャルロットにはマーケットの棚はそれはそれは高く見えましたが、
爪先立ちをし、せいいっぱい背伸びをして商品を見つめていました。
おかあさんからおこづかいをもらっていましたので、そのお金でホットチョコレートを買い、広場に立てられた大きなクリスマスツリーの下に座って
きらきらした街を眺めながら熱いチョコレートを少しずつ飲んでおりました。
すると、ふしぎなことがおこりました。
隣に座らせていたうさぎのぬいぐるみ(名前はロビンといいます)がぴょこん、と地面に降り立ったのです。
少女が驚いて見つめていると、こちらをむいたロビンが話しかけてきました。
「やあシャルロット。いい夜だね」
シャルロットはびっくりしすぎてあやうくホットチョコレートを落としかけましたが、すんでのところで抱えなおしました。
とっさにあたりを見わたしましたが、みんなマーケットに夢中でこちらを見ている人はいませんでした。
「ロビン、あなた、しゃべれるの?」
紙コップをしっかり抱えて、シャルロットはロビンに話しかけます。
「話せるよ。だってもうすぐ聖夜じゃないか。しかも今日はアドベンド最後の日曜日だよ。ぬいぐるみだって動き出すさ」
そう言ってロビンは首をかしげます。
「…これ夢じゃないよね」
「頬をつねってみたらわかると思うよ」
そこでシャルロットは寒さで赤くなっている頬をつまんでみました。
確かに痛かったので、夢ではないことがわかりました。
「わかった、ロビン、あなたは今は動けるししゃべれるのね」
「そうだよ。こんなこともできるよ」
そう言ってロビンはその場でくるっと回って見せました。
「すごい、でもロビン、どうして今動き出したの?」
シャルロットは問いかけます。
「それはね…シャルロット、君は約束事を守れるかい?」
そう言われて少女は頷きました。
「まもれるよ。私は良い子だもの。約束を破ったことなんてないよ」
「そうだよね。近くで見てきたからわかるよ。ちょっと確認したかっただけさ」
そういうとロビンはシャルロットの手をとり、立ち上がらせました。
「君を僕たちのクリスマスマーケットに招待したいのさ。ただ、このことは秘密にしておいてほしいんだ」
「あなたたちのクリスマスマーケット?そんなものがあるの?それにあなたたちって誰のこと?」
「来てくれればわかるよ。本当は内緒なんだけどね、君は僕のことを大切にしてくれてるからそのお礼だよ」
ロビンに手をひかれ、シャルロットは人気のない路地裏へと入っていきました。すでに太陽は沈んでいたので、ところどころにある灯りだけが一人と一匹を照らしています。
くねくねと曲がった道を歩いていくと、突然視界がひらけました。
そこは家と家の間にぽっかりと空いた空地でした。
そしてそこには、小さいながらも立派なクリスマスツリーがあり、きらきらと電飾が輝いていました。
クリスマスツリーのまわりには小さな屋台がたくさん並び、さきほどまでいたクリスマスマーケットのミニチュアのようでした。
そして、その屋台のまわりにいるのは、大小さまざまなぬいぐるみや人形たちでした。
「ようこそ、僕たちのクリスマスマーケットへ」
驚きでその小さなマーケットから目を離せずにいるシャルロットへ、ロビンは恰好をつけてお辞儀をしました。
「すごい、ロビン、あなたたちはこうやってずっとクリスマスマーケットを開いてきたの?」
「そうだよ。ただ、僕たちのマーケットは人間のとは違って今日だけだけどね」
そこでシャルロットに気づいたらしいくるみ割り人形が近寄ってきてお辞儀をしました。
「こんばんは、お嬢さん。ロビン、この御嬢さんが君の持ち主かい?」
「こんばんは、アルベール。そうさ、シャルロットっていうんだ」
紹介されて、シャルロットはあわててお辞儀を返しました。
アルベールというそのくるみ割り人形はにこやかに(といっても表情は変わらないのですが)話をつづけました。
「お嬢さん、人間がこのマーケットにくるのは本当に久しぶりだ。楽しんでいきなさい。ただ、この場所のことは秘密にしておいておくれね」
そう言うとアルベールは他の店の方へ歩いていきました。
「すごい、すごい、本当にみんな動いてるのね」
シャルロットはとても楽しくなって、興奮しながらロビンに話しかけます。
「すごいでしょ。じゃあいろいろ見て回ろうよ」
ロビンに誘われ、シャルロットは小さなマーケットを覗きこみました。
なにせお客はぬいぐるみや人形ばかりでしたので、お菓子などはありませんでしたが、そのかわりにボタンやガラス玉、鉱石のかけらやラジオのコイルなどが並べられていました。
その中で、ひときわシャルロットの目をひくものがありました。
それはまるで星空を閉じ込めたかのようにきらきらとひかる、トナカイの形をした小さなブローチでした。
「ロビン、わたし、これが気に入ったわ」
そう告げてシャルロットは大変なことに気づきます。
「どうしよう、ロビン、わたしもうお金がないよ」
そう、さっきホットチョコレートを買ったため、もうおこづかいが残っていないのです。
「ここではね、物々交換が基本なんだ。僕たちがお金を持っていても仕方がないからね。だからシャルロット、なにかと交換にすればブローチをもらえるよ」
ロビンはそう言って黒すぐりの実のような瞳を煌めかせました。
シャルロットはなにか渡せるものがないか考えました。
そしてそうだ、と思いつきました。それは髪飾りとしてつけていたちいさなリボンでした。
「ロビン、このリボンと交換できないかな?」
そう言ってシャルロットはリボンをほどき、ロビンに見せました。
「大丈夫だと思うよ!」
ロビンはリボンを受け取ると店主に話しかけます。
「このリボンとそこのブローチを交換してくれないかい?」
「どれどれ…はい、いいですよ。どうぞどうぞ」
くまのぬいぐるみの店主は確かめるようにリボンを眺め、そしてブローチを渡してくれました。
「はい、シャルロット。これでブローチは君の物だよ」
ロビンからブローチを受け取り、シャルロットはそれをブラウスの衿元へつけました。
「どう?かわいいかな?」
「すっごくかわいいよ。お似合いさ!」
ロビンから褒められ、シャルロットはすっかり舞い上がってしまいました。
そして二人でいろいろなお店をまわって、また元来た場所へと戻ってきました。
「ロビン、このクリスマスマーケットが終わったらあなたたちはどうするの?」
シャルロットは尋ねます。
「僕たちが動けるのは今日と、あとは聖夜だけなんだ。聖夜の夜にはみんなが家から抜け出して、僕たちだけのミサをするんだよ。
そして夜のうちにね、僕たちのところにも小さなサンタクロースが来てくれるのさ」
小さなサンタクロースと聞いて、シャルロットは興奮して言葉をつむぎます。
「本当にサンタさんがいるのね!毎年私のところにも来てくれるけど、ロビンのところにもきてくれるのね!すごい!」
「すごいでしょう。靴下はないけどサンタクロースはいつも僕たちが欲しいものをくれるのさ」
そういうとロビンはシャルロットの手をとりました。
「今日はとても楽しかったよ。君はどうかな?」
「私もとっても楽しかったよ!連れてきてくれてありがとう!!」
シャルロットはロビンの手を握り返し、満面の笑みで答えました。
そして二人はもときた道を戻っていきました。
くねくねと曲がる路地裏を抜けて広場へ戻ると、横から大人の男の人の声がかけられました。
「シャルロット!だめじゃないかこんな遅い時間まで出歩いたりしたら」
それはシャルロットのお父さんでした。帰りの遅いシャルロットを心配して迎えにきてくれたのでした。
シャルロットは慌ててロビンの方を見ました。
すると、そこにいたのは動かなくなってすっかり元のぬいぐるみにもどったロビンでした。
まるで夢を見ていたみたい、と思いましたが、襟元のブローチが夢ではないことを物語っていました。
「ごめんなさい、むかえにきてくれてありがとう」
「見つかって良かった。さあ帰ろう。お母さんが夕食の準備をして待っているよ」
シャルロットはお父さんと手をつなぎ、逆の手にロビンを抱え、家への道をたどりました。
12月24日の夜、お父さんとお母さんはシャルロットがいつも抱えているロビンがいないことを不思議がっていましたが、シャルロットはロビンとの約束を守って何も言いませんでした。
お母さんが作ったごちそうを食べ、降りしきる雪を見たあと眠りにつきました。
そしてクリスマスの朝、シャルロットは見慣れない立派なベストを着たロビンが枕元にいるのを見て、にっこりと笑って、ロビンを抱きしめたのでした。