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ビートルズ最後の新曲 ナウアンドゼンの徒然


ビートルズ最後の新曲「ナウアンドゼン」について徒然と書いてみようと思う。
本当はナウアンドゼン特集を全部書き上げてから最後に書きたかったのだけど、ミュージックライフが今月末にナウアンドゼンと赤盤青盤の特集誌を出すそうだ。尊敬する研究家さんやライターさんが書かれているから、新しく知ることも共感することもいっぱいあると思う。で、読み終わった後に自分の記憶をいいように刷りかえてしまいそうな気がするので、読む前に思うところを書き残しておこうと思った次第です。

🍀🏵️🍀
ナウアンドゼンの存在を知ったのはいつだったのかなあ。アンソロジーセッションの幻の3曲目の存在と、カールパーキンスがマイオールドフレンドをポールに聞かせたとき、「時々僕のことを思い出してくれよ」というフレーズがジョンと最後に交わした会話と重なってポールが泣いた、、という逸話は同時に知った気がする。

レノンマッカートニーファンな私はどうしてもそれが聴きたくなって、西新宿かなんかに行って安いブートレッグを買って聴いた。いまならYouTubeとかでサクッと聞けるあのジョンのデモと一緒のやつだ。すごく好きな曲でもなかったけど、逸話が逸話だしポールが仕上げてくれたら美しくなりそうでいいのになあとぼんやり思ってた。

ジョージが気に入らなかったっていうボツ原因があるに関わらず、ポールも時々インタビューでナウアンドゼンの存在を語ってきたから、語るならやってくれよって思いつつ、でも期待もしてなかった。


🪷🌻🪷
去年の春、突然ポールが「ビートルズ最後の新曲」リリースを公言した。ポールはインタビューの中で曲名を言わなかったけど、その発言を引き出したBBCがほぼ確定情報のように「ナウアンドゼン」と言いふらしていたし、それしかないだろうなと思ってた。でも期待して違ったらショックが大きすぎるから、ちょっと気持ちの余白を残しつつ(笑)

そして焦らされ待たされること約半年?、これまた突如リリース日が確定した。タイトルは「ナウアンドゼン」だ。やっぱり!
本リリースまでに、youtubeにはホンモノかニセモノかいろんなバージョンが上がったし、ネット上にもいろんな情報が流れてた。
当日朝にショートフィルムが公開されてもちろん公開と同時に見た、ら音の断片が思った以上に入ってた。で、ちょっと「あれ?」ってなった。
そして夜の全世界同時リリース❗️
「あれ、おわっちゃった」
って思った。

なんかもっと、完璧な壮大な曲に仕上げてくるかと思ってた。そういえばメディアの事前レビューで「冒頭ジョンとポールのコーラスに感動」「壮大すぎない美しさ」っていう評があった。その通りだ。

sns上のコメントをみてても、ビートルズファンはどちらかというと戸惑いなのかなという印象を持った。称賛の声はあまりみなかった。Bメロがないことへの苦言は多かった。ポールの自己満的な感想もよく聞いた気がする。ただ悪いとも言えない空気感も感じた。翌々日ピータージャクソンによるMVが公開されると、こちらは素直に評価が高かった印象だ。

🪲🐞🪲
個人的な想いを書くと、ナウアンドゼンはそのストーリー性だけで好きな曲だ。例え覚えていようと覚えてなかろうと、それが真実だろうと誇張だろうと、ジョンとポールの最後の会話がその曲のタイトルなのだから。

そしてジョンの不完全なデモに、歌詞とコードと構成をポールが補完して完成させた、クレジットこそ違えど「レノンマッカートニー」を踏襲した、紛れもないビートルズの曲なのだから。
これはサッカリンさんの解説を観た後特に思いを強くした。

ポールはずっとこの曲を完成させたかったのだ。アップルコアCEOのジョナサンが言うように、ポールがジョンとレコーディングをするのはこの方法しかなくて、もう一度ジョンとレコーディングがしたいというポールの願いが叶うなら、それだけでこの曲が存在する意味があるのだ。

ジョージの想いはという人もいたが、それを誰よりも承知しているからこそポールはオリビアに、迷いながらそしてかなり気を遣いながらリリースの是非を問うたようだ。

そしてこの曲は、私の人生において最初で最後の「ビートルズの新曲」だ。
だから私にとってこの曲は、曲の自身の良し悪しとはかけ離れたところで既に特別な存在なのだ。

🎸🥁🎸
ただ一つの音楽として聴いた時にどうかと言われると、すごくまとまらない。

サビは最高だ。ジョンとポール(とリンゴ)のコーラスがマイナーなメロディでその歌詞のままに懐かしさと寂しさの入り混じった感情を震わせる。snsリールで何度もこのサビを聴いたけど、聴けば聴くほど泣きそうになる。(てか実際何回か泣いた)

ただオーケストラはチープな気がする。ジャイルズが父ジョージの手法を真似しすぎたような気もする。
ポールのスライドは、わざとらしいけどかわいくて好きだ。変拍子はいかにもビートルズを再現させたポールらしい。
そしてピアノが泣ける。ジョンのピアノをポールがなぞって、さらにBメロを「転生」させているところなんか泣けすぎる。

わけがわからないのがミックス・マスタリングだ。専門家じゃないからどういう表現が正しいのかわからないけど、とにかくノッペリしている。一つ一つの音がはっきりしない。MALでせっかくジョンのボーカルを抜き出せるようになったのに、わざと境目を隠したいのか?というくらいいろんな音がごちゃごちゃに聞こえる。

隠したいものとして思い当たる節はある。ジョンのデモに加えてポールのコーラスやジョージの演奏など、1曲にいろいろな時代のレコーディングが詰め込まれてすぎている。その区別や、ジョンからポールにボーカルが切り替わる箇所をボヤかしたかったからそうしたのだと言われたらそうかもと。

ポールがコロナ禍一人で製作したマッカートニーIIIや、最近ポールが共同プロデューサーを務めたビヨンセのブラックバードなんかを聴いたら、音の深みも鮮明さもハンパない。カップリングである62年レコーディングのラブミードゥだって鮮明な音に再現している、、
そう考えるとやっぱりわざとごちゃごちゃノッペリ音にしたんだろうか。
これは個人的にこの曲最大の謎ポイントだ。

✒️🗒️✒️
ナウアンドゼンは期待すらしなかった突然のプレゼントだった。
後世代への「ビートルズ新曲」という体験のプレゼントなんだとか、コロナ禍や年月を経る中で近しい誰かを喪ったみんなへのレクイエムなんだとか、ポールの終活なんだとか、AI時代の先駆けなんだとか、いろんな解説を目にしたけど、どれもごもっともな気もするし、しっくりこない気もする。

ただもう一度ジョンと曲作りがしたい、レコーディングがしたいというポールの願いが叶ったなら、それが唯一で最大の理由でいいんじゃないかと思う。
何よりもその想いが、寂しさをも包み込んだ懐かしい感情を聴く人にもたらしていて、愛おしいから。


👾⚡️👾
さいごに余話として。ポールはナウアンドゼン発表前後この曲に関して多くを語っていない。プロモーション用のインタビューで製作の経緯を語り、発表後のブラジルツアー中に「何人かの人がジョンが僕に宛てた曲じゃないかって言ってくれたから、(ヨーコ宛かもわからないけど)僕はそう受け取っておく」と話しただけだ。
だけどビートルズの曲が常にそうであったように、この曲には表向きに伝わる郷愁だけではない、革新的な何かを含有しているのではないかという気もする。それが何かは全くわからないのだけど、革新性をポップソングに昇華してきたのがビートルズであり、ポールがソロになっても継続していることだから。そして本当に何かを込めた時、ポールは多くを語らない傾向がある。
ただの考えすぎかもしれないけれど、数十年の時が経ってからその答えが出るのかもしれない。楽しみにしようか。


マガジンには引き続き、曲の解体、関連インタビューやメディア情報のまとめを上げていくので気長にみてやってください。


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