ポリファーマシーと「Low-value care」
地域医療ジャーナル 2022年4月号 vol.8(4)
記者:syuichiao
薬剤師
2010年代の後半に、日本でも関心を集め始めたポリファーマシーは、未だに解決困難な臨床課題の一つと言えます【1】。薬の処方数が多いことは、潜在的な薬物有害事象のリスクを増加させ、個人の健康にも悪影響を及ぼすという理屈が分からぬでもありません。実際、薬の副作用が明らかな事例が存在することも確かでしょう。しかし、ポリファーマシーの文脈でいう有害事象「リスク」に対する介入が、人の生活にどのような影響をもたらし得るのか?と考えてみれば、その評価が容易ならざることに気づくはずです。
例えば、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの効果を考えてみましょう。同ワクチンには感染リスクを95%も低下させる効果が知られています。一般的に「効果がある」と認識されることの多いスタチン系薬剤でさえ、心臓病リスクの低下効果は2~3割ですから、感染リスクに対するワクチンの影響が極めて強いことが分かると思います。
一方で、この驚異的なワクチンの効果を実際の生活の中でどれほど実感できるでしょうか。感染症が予防されたということは、現実には何も起きていないわけで、むしろワクチンを接種した部位の晴れや発熱・倦怠感など、副反応の方が経験としてリアルなものです。ワクチンにしろ、スタチンにしろ、あるいはポリファーマシーであっても「リスク」に対する効果は、個人の生活というよりはむしろ、集団を観察して初めて理解できるものでしょう。ワクチンを接種しなかったからといって、現在の生活が今すぐに激変するわけではないように、薬を減らしたからといって今すぐに健康状態が改善するわけでもありません。
【減薬介入を行っても処方薬剤数すら減らず……】
ポリファーマシーに対する介入とその効果について、2022年1月に報告されたランダム化比較試験【2】の結果は示唆に富みます。
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