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就職と大学院進学のコストパフォーマンス

2021年度の大学進学率は54.9%で過去最高だった一方,大学院進学率は女性5.6%,男性14.2%(2020年度)に留まっている。

大学卒業後の進路のほとんどは就職大学院進学が占めるが,大学院への進学率は近年減少傾向にあり,それだけ大卒で就職を希望する学生が増えている。

その原因はどこにあるのか?

コストパフォーマンス

最近の学生は合理的で,なんでもコスパで考えたがる。

進路を決める際には,「大卒で就職する代わりに院卒で就職するメリットは?」ということを考えている。

高卒と大卒の比較はシンプルで,就ける職種や給料が明確に異なる

大学の細分化された学部に応じて就ける職の分野や立場が異なるのは当然だし,職種が異なるので給料が異なるのも受け入れやすい事実だ。

高校生からしても,選択肢も給料も増えるなら授業料を払ってでも大学に行った方がコスパが良いと感じるので,今の高い大学進学率に繋がっているのだろう(親からの勧めもあるだろうが)。

一方で,大卒と院卒を比較するのは難しい。

日本では大卒が総合職に就くことが多いが(中小では総合職と一般職の区別がないこともあるが),総合職の場合には大卒と院卒の役割に大きな違いが生まれにくい

総合職では広く様々な業務ができることが重視されるので,そこまで高度な専門性が求められず,大学院で培った研究能力や専門知識が活かされない傾向にある。

また,給料にもそれほど大きな違いはない。

例えば国家総合職の場合,大卒は2級1号俸で186,700円,院卒は2級11号俸で213,000円で(令和元年度),その差は10%程度しかない。

大学院では授業料がかかるので(国立大学では年間535,800円),短いスパンでは大学院の方が収支は悪い。

海外では日本よりも専門職を重視する傾向にあるので,専門性の高い院卒者が優遇され,大卒と院卒で給料が1.5倍程度異なることもざらにあるようだ。

日本の場合,職種と給料だけで考えると大学院進学はコスパが悪いと言わざるを得ない。

比較は難しい

それ以外の面ではどうか。

博士まで修了した自身の体験や多くの大学院生を見てきた経験から,大学院独自の活動が大きな成長に繋がることは間違いない。

より専門的な授業,海外の大学との交流や海外インターン,高度な研究活動や国内外での学会発表など,貴重な機会で溢れている。

大学4年生の1年間と大学院も含めた3年間では期間が3倍も違うのだから,ある意味で成長を実感できて当然だ。

話を難しくしているのが,コスパの比較対象が社会を2年間経験した社会人であるということだ。

「厳しい社会に揉まれた社会人としての実践的な2年間の経験値は,大学院での経験とは比べものにならない」などと言われたら,反論のしようがない。

どちらがより成長できたかはその環境個人の素養に依るので,比較がとても難しい。

確かなこと

ひとつ確かだと思うことは「大学院生には時間がある」ということだ。

社会人は決められた時間に働く必要があり,年間の休日数も決まっているが,大学院生は自由な時間に起きられるし,いつでも休める。

これは紛れもない事実で,その余暇時間をどう使うかにかかっている。

資格の勉強をしても良いし,留学に行っても良い。色々なバイトを試してみても良いし,田舎でボランティアをしても良い。筋トレに励んでも良いし,映画を観まくっても良い。

いずれにしても,自身と向き合うことができる貴重な2年間であり,これは社会人となってしまっては得難い期間だ(できないとは言わないが)。

近い将来,定年が70歳以上になることが確実な中で,活力のある20代前半の2年間に投資をして,成長のために自分自身と向き合う時間を設けることは果たしてコスパの悪いことだろうか?

コスパで考えること自体は否定しないが,今の高校生や大学生には一度もっと広いスパンでコスパを捉えてみて欲しい。


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