作・絵 太田 大八
文字がない絵本。
そしてこの絵本には主人公の女の子がもつ「傘の赤」しか色がない。
女の子を取り巻く世界は最初から最後までモノクロの世界。
どんな話だと想像しますか。
絵をたどると、女の子が雨の中、傘を忘れたお父さんのために駅に迎えに行くというシンプルなストーリー。そこに風景や女の子の心境を語る説明(文字)が一切ない。
しかし、女の子が駅に向かう道中の様々な音、例えば公園や池に降る雨の音、通り過ぎる親子の会話、濡れたコンクリートを走る車の音、街の騒音などがモノクロの世界から生き生きと鮮やかに聴こえてくるのだ。それと同時に、そこには色彩のある風景が広がってくる。傘の赤色しかない絵本なのに。
文字がないからこそ、読者の想像する音がそのまま絵本の世界と同化して奥行きのある世界がつくられる。
絵を見ながらどんな言葉を当てはめてもいい。
詩のような言葉を並べても、小説のように背景を詳細に語るのも自由だ。
不思議なことに、絵本の中から雨音が絶えない。
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