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【先逝く妻から受け取りしバトン】

【先逝く妻から受け取りしバトン】

これは
とある夫婦の物語。
悲しくて悲しくて
あったかい絆の物語。

妻に癌が見つかったのは
今から2年前のこと。

青天の霹靂だった。と
夫が振り返る。

ただ幸いな事に手術は成功し
効果絶大な抗がん剤も
存在するという。

治ると信じていた。
きっと元気になる。
そう思い疑わなかった。

ところが、、、
妻の運命に
あまりに残酷な風が吹いた。

その【確実に効く】抗がん剤は
妻の体質にどうして合わないと
突きつけられたのだ。

それでもなお
妻は果敢だった。

死ぬわけにはいかない。
絶対にいかない。
死にたくない。なんて
そんな甘っちょろい想いじゃない。

まだ中学生の息子がいるのだもの。
娘もまだ成人していない。
しなきゃいけない事がある。
してあげなきゃいけない事がある。

私は絶対に生きる。
何がなんでも生きるんだ!

数種類の抗がん剤を試した。
ただただ
前を向き
生きる為に
苦痛と闘った妻。

その背中を嘲笑うように
残酷な風は吹き止まず
手術も放射線治療も困難な場所に
転移して行ったガンという悪魔。

そこまで打ちのめされても
妻は必死に前だけを見た。

cvポートを埋め込み
歩く事すらままならなくなっても
悪魔との闘い一歩もひかず
国立ガン研究センターで行われる
治験にまで
果敢に挑もうとしたんだ。

上京するだけでも
体力を使い果たす。
数時間の移動も命懸けだ。

傍らには夫の姿があった。
しっかり者だった妻。
家の事は全て任せきりだったという。
改めて妻の支えの偉大さを
思い知りながら
闘う妻を支えなければならなくなった夫。

妻と共に一筋の光に
祈りを込めた。
もしかすれば妻以上に
その祈りは必死だったかもしれない。

でも。
夫婦の願いは
夫婦の祈りは届かなかったんだ、、、。

「残念ながら治験参加は出来ません。
 緩和ケアへ、、、」

まるで死刑宣告のように響く
医師の言葉に
とうとう泣き崩れた妻の背中を
さするしかなかった夫。

ただ、、、

やりきれない気持ちを抱え
帰路へ着こうとした時の事だ。

涙を封印し
東京土産を
選び始める妻の姿がそこにはあった。

留守番をする子どもたちへ。
お世話になっている方々へ。

嬉々として
笑顔すら見せた妻。

そんな妻の姿から
夫はバトンを受け取った。

「もう生きられない」という
宣告を受けた直後すら
他の誰かを想う妻の姿から
心で受け取ったバトン。

妻の大切にしてきたものを
みんなみんな
こぼれ落とすことなく護ることを
約束したバトンだった。

それから数日後
妻は静かに目を閉じた。

上京は最期の最期の
チカラの一滴だったのだろう。

今、夫は優しく生きている。
遺された子どもたちを護りながら
試行錯誤しながら
優しく生きている。

出会った人を
あたたかく包み込む
空気をまとい
何人とも優しく向き合う。

妻のバトンを握り締め
精一杯
現在を生きている。

息子に作るお弁当は
妻の作っていたそれには
まだまだ遠いけれど。

それでも
出来る限りの手を尽くす。

夫の周りに出来る陽だまりの中に
いつだって妻がいる。

これは私の
心優しく生きる友人の物語。
強く生きた夫婦の軌跡。

✨もうじき
一周忌を迎える奥様に
この投稿を捧げます✨

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