クソデカおやゆび姫
むかしむかし、あるところにデカおやゆび姫という人がおりました。
デカおやゆび姫はその名の通り、親指のデケえ人間でありました。
その大きさたるやいなや、近所のおばちゃんの遠慮の無さくらいのデカさを誇っていました。
デカおやゆび姫は生まれたときから親指が人一倍デケえ人間で、 指相撲で彼女に勝てる人間は1人もおりませんでした。
デカおやゆび姫の父である国王は、デカおやゆび姫のかわいさの余り、このような法律を作ってしまいました。
”指相撲で勝った人の言うことには従わないといけない”
その時は、あのような事態になることは想像もしていなかったのです。
そこからのデカおやゆび姫のワガママ三昧といえば、何せ指相撲で負け無しですので、何もかもが彼女の思い通りになっていくのです。
デカおやゆび姫はその親指と同様、大きくなるにつれて人に対する態度までデカくなっていき、そのワガママを止めることが誰にも出来なくなりました。
ついには王様も動き“指相撲で勝った人の言うことには従わないといけない” 法律を変えようとしましたが、そのためには、デカおやゆび姫を指相撲で倒さなければならないという欠陥を抱えた法律だったため、もうどうにもなりませんでした。
「親指の小せえ下民どもを屈服させるのは気分が良いですわ~」
もはや親指以上にデケえ態度のデカおやゆび姫は、すっかり暴君と化していました。
困り果てた王様はいよいよこのようなお触れを世に出すことにしました。
デカおやゆび姫に指相撲で勝ったものには賞金1億万円”
その噂を聞きつけ、よその国から腕自慢ならぬ指自慢が大量に集まってきました。
「言うてワンチャンあるやろ、 言うてワンチャンあるやろ」
それが挑戦者達のシュプレヒコールでした。
ですが、誰も彼もがデカおやゆび姫の親指未満のデカさでしかなかったため、 全くデカおやゆび姫には歯が立ちませんでした。
「どなたもこなたも雁首揃えてクッソ弱えですわね~」
デカおやゆび姫も得意げに親指を立てて挑戦者達を煽り散らかすばかり。
すると、そこへ、
「わたくしが行きますわ~」
と、大手ならぬ大指を振ってアピールをする挑戦者が現れました。
その大指たるやいなや、 デカおやゆび姫の指のデカさにも引けを取りません。
「あなた、何者ですの?〜」
デカおやゆび姫の問いに挑戦者はこう返します。
「わたくしはクソデカおやゆび姫、 クソデカおやゆび姫と申しましてよ~」
挑戦者ことクソデカおやゆび姫は自信に満ち溢れた様子でした。
「あなた、わたくしとキャラがモロ被りでしてよ~?」
「ええ、存じ上げておりましたわ~。 だからこうして真のデカおやゆび姫を決めにまいりましたのよ~」
対峙するやいなや、2人ともデカい親指を向け合って互いを牽制し合いました。
デカおやゆび姫は思いました...... もしも、わたくしを倒す者がいるとすれば、それは自分と同じくらい指のデケえ持ち主のみだと。 しかし、 姫という立場まで同じ者がその持ち主だとは思わなかったですわ。 わたくしを倒す者は、白馬に乗った指のデケえ王子様だと思っておりましたのに•••••• しかも、わたくしを前にしてクソデカですって? まるでわたくしよりも親指がデケえみてえな名前を名乗るなんて、この勝負、負けられませんわ。
クソデカおやゆび姫は思いました••••••指のデカさはほぼ互角、しかし、わたくしはどうしても負けられないのですわ。
そして、 指相撲が始まりました。
開始早々、デカおやゆび姫がクソデカおやゆび姫に猛攻を仕掛けますが、 クソデカおやゆび姫はそれを軽々いなしていきます。
「わたくしの速攻戦法が通用しませんわ~!?」
焦るデカおやゆび姫をクソデカおやゆび姫は鼻で笑いました。
「これまではその指のデカさに任せたゴリ押しをすれば勝てたのでしょうけど、 そんな、おチンパンジー戦略は、同じ指のデカさを持つわたくしには通じませんわ~!」
デカおやゆび姫は生まれて初めて互角以上の相手と出会ってしまったのです。 その焦りと苛立ちは募るばかりです。
「名前からして明らかにわたくしに被せてきてるくせに生意気言ってんじゃねえですわよ~! わたくしが勝った暁には二度と朝日を拝ませませんわよ~!」
すると、 クソデカおやゆび姫は。
「その通りですわ~! このクソデカおやゆび姫という名前は、 あなたに対抗して自ら改名したのですわ~!」
と、 正直に答えました。 そして続けます。
「そう、この名前は不退転の覚悟! わたくしにはどうしても負けられない理由がありましてよ~!」
互いに激しく指を弾き合いながら、 クソデカおやゆび姫は語り始めました。
「一際指がデカく生まれてしまったわたくしは、 皆からそのことを揶揄されてすっかり内気になってしまった。
けれども、ちょうど同じ年に同じく指がデケえ姫が生まれたというではありませんか。
わたくしは独りでは無い、 そう思うと勇気を貰えたようでしたの。
しかし、それも長くは続かない。 あなたは指相撲が強いことを良いことに毎日ワガママ三味。 その悪評は隣国のわたくしの国にも轟いてきましたわ。
結局、 同じ指がデケえやつのやらかしのせいで、わたくしまで馬鹿にされ始めましたわ。
••••••だから、 わたくしはあなたを超えるんですわ~!
だから! ここで! テメエをぶっ潰して! 悪行を止めないと! わたくしはいけないのでしてよ~!!」
デカおやゆび姫の一瞬の隙を見逃さず、クソデカおやゆび姫は親指を被せ、 がっちりとホールドしました。
「やめ、 放し、 放しなさいな〜!」
デカおやゆび姫の抵抗も虚しく、 5カウントのホールドは成立しました•••••• クソデカおやゆび姫の勝利です。
「よっしゃあですわ~!!!!」
クソデカおやゆび姫はそのクソデカ親指を立てて、 勝利のポーズを取りました。
「クッソですわ~!!!!」
デカおやゆび姫は地面に突っ伏し、 心底悔しがりました。
しばらくは双方共に勝負の余韻に浸っていたのですが、 先に声を掛けたのはデカおやゆび姫でした。
「負けることがこんなに悔しいなんて、わたくし、 初めて知りましてよ……」
その手は前に突き出され、 握手を求めているようでした。
「あなたのおかげで、わたくしの指が大きく生まれた意味がわかりましたわ」
クソデカおやゆび姫の手も、それに答えるように前に手を差し出し、
「こうするためでしたのね」
デカおやゆび姫とクソデカおやゆび姫は固く握手を交わしました。
その親指は、互いの指を避けようとした結果、双方共に天高くサムズアップされていました。
その後、デカおやゆび姫のワガママはナリを潜め、すっかり大人しくなりました。
“指相撲で勝った人の言うことには従わないといけない” 法律は残り続けましたが、 誰もそれを悪用しようとする者は現れませんでした….... すっかり善政を敷く優しくも厳しい王女様に逆らう事になるからです。
そして、賞金の1億万円は、デカおやゆび姫の国とクソデカおやゆび姫の国の友好の証として造られた巨大な像に使われました。
もちろん、デケえ親指の目立つ2人の姫様の像です。
めでたしめでたし。