PT名古屋調整録 〜下手くそは丸く尖れ〜
1.はじめに
どうも、えむたろうと言うものです。
昨年9月のレガシーMOPTQを抜けてしまいPT名古屋に出ることになったタダの一般人です。
ここではPT名古屋の構築ラウンドで使用した黒単とテーロス還魂記のドラフト戦略について紹介と説明をしようと思います。
パイオニアやテーロス還魂記のドラフトの攻略というよりもプロツアーというものに向けていち素人プレイヤーがどういう思考で攻略を図ったかという過程を知っていただければ、と思います。
よろしくお願いします。
2.大会への雑感と目標
11月半ば、プレイヤーズツアー名古屋(以下PT名古屋と呼称)2ヶ月半前のこと。
この頃にようやく大会の情報も出揃ってきつつあり、目標と調整の指針を考えることにした。
まず大会に際しての本当の目標は二日目に進出してスイスラウンドを全て戦い終えることだった。
競技大会には参加するものの、基本カジュアルプレイヤーである私にとってPTに参加出来る機会はおそらく二度とないとすら感じていた。
まさに奇跡とも言うべき、天から降ってきた機会といえるのだった。
ゆえにDQにならず2日間全力で楽しみたいというのが素直な思いだった。
しかし今回のプレイヤーズツアーから初日抜けの条件は5-3と高くなっている。二日目に行けるのは高いレベルの参加者の中でも3割強に過ぎない。
この中で弱者の私が勝ち抜く方法を考えることにした。
GP初日すら突破したことのない私にはとてつもない目標だ。
レーティングも凄まじいことになっているのだ。
ただ、ドラフトにはそれなりの自信があったし、新セットが出てからの研究となるのでとりあえずは構築から着手することにした。
3.構築編
1月中旬。ここで構築フォーマットであるパイオニアのメタゲームの再確認をおこなった。
パイオニアは制定当初から単色デッキが支配する環境だった。禁止カードがいくつか出されながら、しかし赤単ミッドレンジ、黒単アグロ、緑単ランプなどの単色デッキを中心にメタは回っていた。
そこで、テーロス還魂記にてリリースされたUnderworld Breachを搭載した睡蓮の原野ストーム(以下ロータスストーム)が登場した。(正直何を考えて刷ったのか分からない)強力なエンチャントの登場により強化されたコンボデッキは安定して4-5tキルが狙え、PTでの仮想敵となりそうだった。
このデッキに構造上勝てないデッキは少なくともPTでは見られないだろうし、またこのデッキへの対策にひっかかってしまう墓地デッキも少ないだろうと予想した。(しかし、これはロータスストーム自体の割合が多いということではない。)反面、このデッキに相性の良いデッキは多くいるだろうとも考えた。
その条件を満たしているデッキの一つが5Cニヴミゼットだった。フェアデッキにめっぽう強く、ロータスストームにも白日の下にから漂流自我を打つことが出来るため得意なデッキは多そうに見えた。
ではロータスストームにも5Cニヴミゼットにも勝てるデッキなんてものはあるのだろうか?
最初に思いついたものは黒単だった。継戦性が極めて高く5Cニヴを圧倒出来る。ハンデスやサイドの黒力線等でロータスストームにも一定の優位性を保てると考えた。
もう一つは青白スピリットである。無論、時を解す者、テフェリーを擁する5Cニヴに勝つためには75枚の中に適切なカウンターが何枚か入っている必要があるものの、除去コンに強くロータスストームにもほぼ負けず、加えて天敵である赤単が5Cニヴとロータスストームの両方が苦手であることから数を大きく減らすだろうことも追い風となっており立ち位置は良いと言えた。
その中で青白スピリットは1月初めから握っておりMOリーグ5-0も複数回しており、加えて黒単に対して得意だという意識もあった。
PT2週間前。私はPTにて青白スピリットが最善であるとの結論を出した。
調整と練習は1月前半にかなりしていたので構築よりもドラフトに重きを置きながら、たまに構築リーグも回っていた。
最終調整で環境の主要デッキをさらに理解するために上記で挙げたデッキを回している最中、ふと気づいたことがあった。
青白スピリットが増えてきている。
それは必然でもあった。みんな同じことを考えるのである。プレリミナリーで結果を残し始め、それに加えて速い型での赤単の復権、5Cニヴの型の変化、ハサミなどの増加は必然とも予想された。
まずい、これは非常にまずい。青白スピリットはメタられれば直ぐに挫けてしまう脆さがあった。
このままではPTでの仮想敵になってしまう。こんなにメタの周りが早いとは思ってもみなかった。
しかしもう他にデッキはない。環境上のデッキでミラーを制せる自信のあるデッキはスピリットしかなかった。ではどうするか。
私は調整メンバーに聞いてみることにした。
「そもそも今の環境において一番強いカードは思考囲いだと思うよ。」
彼は言った。
「コンボであれミッドレンジであれ、あるいは5Cニヴのようなデッキだって、この環境のデッキは数枚のカードを展開、あるいは活かすために捧げられるカードが多く、初手依存がとても大きいんだ。1枚のカードを抜かれて何も出来ずに負けるデッキは想像以上に多いよ。」
では黒単が良いということか?
「そうだね。この条件の中では黒単はかなり良い方の選択肢だと思う。でも黒単は1枚のバリューが少ないからね。受けることもできないから、思考囲いがあっても押し負けることも多い。」
「除去も良質で継戦性もあり横の押し付けが出来る黒単は今のところ第一選択肢だけれど、もっと思考囲いを攻めだけでなく受けにも使えるデッキがいい。」
そんなデッキがあればの話だけどね、と彼は言う。
結論から言えばそのデッキに心当たりはあった。それは青黒のタッサの神託者と真実を覆すものの2枚コンボデッキ。(青黒覆すものとでも言おうか。)
結果から言えばこれが最大勢力だった訳だが、1週間前の時点ではあまり馴染みのない人も多かっただろう。私はこれを環境のソリューションだと考えていた。青黒という環境への対応に優れた色の組み合わせにより受けに関しては十分と言えた。そもそもこのデッキはコンボを内蔵してはいるがロータスストームのように4ターンキルを狙うデッキではない。優れた妨害手段を駆使し相手をコントロールした後、そのフィニッシュ手段として上記の2枚コンボを使うだけなのだ。
これなら思考囲いを攻めにも受けにも使える。まさに理想的なデッキに見えた。
実際、友人はこのデッキを選択した。しかし、私は表題にもある通り私はこのデッキを選択しなかった。私が選択したのは黒単であり、これは私が1月初めに調整を一度放棄していたものだった。
何故黒単を選択したのか?
まず調整を一度放棄した理由であるが、これは青白スピリットの方を優先したためである。
そして結局黒単を選んだ理由は自らのプレイスキルへの諦めとも取れるものだった。
メタ読みからのデッキ選択をしても、またデッキの素力としても青黒覆すものがベストだろうと私は考えていた。
黒単は天敵である鎖回しを擁する赤単という明確に不利な相手がいる。また黒単はPTにおいて真っ先に仮想敵として置かれるため決してベストなデッキではない。
しかし黒単は環境当初から常に勝ち続けてきたデッキである。決してバカ勝ちする訳ではないが、他のデッキと違いメタによって負け組となることがなかった。それは黒単の地力の高さを示している。ベストなデッキではないがベターなデッキを握るという発想に至った訳である。
ここで、安定したデッキは一見上手い人間しか勝てないように感じられる。しかし、私はPTにおいて腕がないのにデッキ相性のみが良いため勝ち抜くことは不可能だと考えていた。
地力の相対的な低さを相性でひっくり返していくデッキはそれなりに扱いを心得ていなければ回せない。青赤ハサミのようなデッキを選ぶ気が起きなかったのはそのためだ。
しかし黒単ならば地力が高い。そして同じく地力が高いデッキの中で一番プレイが上手くできるように感じた。これは私が競技mtgでずっとアグロやビートダウンを使い続けてきたためであった。加えて初のPTで時間がかかるデッキを使う気になれなかったのも一つの要因ではあった。
身の丈にあったデッキ選択をするということがメタ読みより大事だと考えたのだ。
これは決して消極的な理由によるものではなく、むしろ自分の能力でのベストデッキを積極的に探しにいった結果だと考えている。
ここからは黒単の構築について話す。メインボード60枚について複雑にするつもりはなかった。4枚の思考囲い、4枚の致命的な一押し。これらを変えるつもりは特になく、せいぜい1マナ域の追加に戦慄の放浪者を1-2枚程度追加するか、除去スペルの枚数が2枚か3枚か程度の問題だと考えていた。その中で1マナ域を追加せず騒乱の落し子を2枚取ったのはサイドの入れ替えと好みの問題であった。
サイドボードは少し考えた。私が構築のサイドボードを考える時は、75枚の中にこの役割のカードが何枚欲しいか書き出してメインの調整枠の数枚と合わせて組むようにしている。当然下環境のサイドボードは足りなくなりがちなので複数の役割を果たすカードは必須である。
しかし、ここはGPではない。PTだ。ローグデッキの数は少ないだろうし、上位5つのデッキの合計使用率は50%を超えるだろう。その中ではなんとなくPWや高マナ域クリーチャーを突っ込んでサイド後に調整するやり方はあまり意味がないと感じた。
メタ上のデッキは当然一大勢力であるこちらにも効くサイドボードを用意するはずだ。優位に立つためにはその上を行かなければいけない。
だから75枚のうち特に赤単、黒単ミラー、5Cニヴ、青赤ハサミには4枚以上の入れ替えられるサイドボードを用意し、そのうち2枚は局所的に効くカードを採用することにした。
デッキ自体の強さを担保しつつサイドで差をつける。逆に相性がいいデッキにはサイドを変えないぐらいのつもりで対戦する。弱者の刃は丸く尖って然るべきなのだ。
そのため以下のようなサイドボードの枠組が取られた。
サイド仮組み
3 ハンデス枠
3 墓地対枠
3 対アグロ枠
1 (メインと合わせて2枚の確定のスペル除去が欲しかったので)確定除去枠
5 局所枠
局所枠とはいえ2×4のスロットは用意できなかった。
さて、上記のデッキのうち5Cニヴだけ対処方法が明らかに異なる。2枚の自傷疵はそのためだが、向こうもある程度知られたサイドカードである自傷疵の耐性が全くない構築をするとは考えづらいので実は過度に期待はしてなかった。とはいえそれ以外のサイドカードが思い浮かばなかったので採用に至った。ニヴが多いと考えているため、追加のハンデス枠には脅迫ではなくドリルビットを採用している。
次に昨今の赤単は果敢クリーチャーを用いた速い形が主流であるため、特に後手で返すためには集団的蛮行が良いと考えていた。どぶ骨は集団的蛮行と非常に相性が良く、戦慄の放浪者と散らしていない理由はそこにある。サイドではどぶ骨以外のタフ1クリーチャーは抜き切りながらサイド後のデッキが歪にならない必要があったのも1マナクリーチャーを12枚にした理由である。
次に黒単ミラーとハサミであるが、この二つには共通点があると考えていた。それはインスタントタイミングでタフ1を効率的に除去することでテンポ差をつけられるカード。それにピタリと合致したのが菌類感染だった。PTはリスト公開性なのでサイドで見せておくだけで向こうが自由に動きづらくなる。もちろん打っても効くが、存在だけで向こうのテンポを削げることが潜在的な強みともいえた。
そういう訳で以下のように構築が決定した。
PT用という特殊なリストであるし、大まかな解説はしたので個別のサイドボードガイド等は割愛させていただく。
当たり前ではあるがメタ外のデッキだとしても、基本的に75枚混ぜ合わせていらないカードを抜いて先手後手を考えマナカーブを整えれば完成すると思う。(そして黒単はその取捨選択がわかりやすい。)
このデッキは基本的に受けが出来ないので攻めながら相手のアクションを捌くつもりでやるといい。行動指針もそのぐらいである。妨害を何ターンに打つかというところから、プランニングとリーサルの計算を緻密にやれば良いと思う。
結果としては4-5だったが、私は着想自体は悪くなかったと考えている。
あまりマジックが上手くない私が1週間前に急遽握ることになったデッキでこのゲーム展開、この結果だ。満足はいかないが、初めてのPTにしてはそれなりだと感じている。
4.ドラフト編
ドラフトの攻略記事は他に溢れているため、本稿ではドラフト巧者でもない素人がPTでのドラフトにどうアプローチしたかということについて書き記す。
ドラフトラウンドをやる上で私が心がけたことはただ一つ。それは「3-0は狙いすぎず0-3は絶対に避ける」ことである。
それは変わったドラフトで崩れるのを避けることであり、そもそも弱くなりがちなアーキタイプは基本的に選ばないということである。(今回については黒白、白緑、赤緑だろうと感じていた。)
私は環境理解を一通り終えた環境でのドラフトにはある程度の自信があったし(正直テーロス還魂記のドラフトは最後まで割と苦手な部類ではあったが)、0-3デッキを組まなければ7割方2-1すると思っていた。
ただ、3-0は運と噛み合い次第だろう。そこを無理に狙わなくてもいいのだと考えた。
逆に1勝は何がなんでも拾う。サイドボードで有利アーキタイプにきちんと差をつけていくこと含め、0-3をしないことを考える。
結果的に2日目のドラフトは過去稀に見る大失敗をしてしまったのだが(スペックでいうと間違いなく0-3デッキ)、諦めることなく早い赤白や除去の少ない青緑に対して勝てる構成を選んだことで1勝を拾うことができた。(実はすんでのところで2-1しそうだったのだが、ブタコフの神がかり的なトップ連発を前に膝を屈した。プロプレイヤーはやはり持っていると感じた。)
次に、PTのドラフトで大事なのは相手のスペックを見極めることである。この人はドラフトは出来そうか、出来なさそうか。それを考えるのは大事だ。特にPTのドラフトは初戦は対面に当たるのでそこの実力を推し量るのは戦績にかなりの影響をもたらす。
何故ならそれはピックとプレイングに直結するからである。弱そうな人がいたら痩せたゴミビートへの回答を1,2枚持っておく。プロであれば各アーキの完成形から崩したデッキを組まないはずなので、セオリー通りの組み方を想定して戦う。
また、卓にプロが4,5人いると強い色の組み合わせを選んで被るのを避けるかもしれない。流れてくるカードを見ながら慎重に吟味して卓のカラーリング予想と当てはめながら、時には大胆に強い色を攻める。
以上がPTで特別に意識したことだろうか。ドラフト全般の基本的なコツ、応用的なテクニック等は割愛させてもらったが、おおよそPT特有のドラフト戦略は理解していただけたかと思う。
私は2日連続強めのカラーリングである黒緑をやることになった。しかし、これは卓を読みながら少しでも勝ち星を拾いにいった結果である。
1日目は2-1スペックで上振れ3-0。2日目は0-3スペックを特定のアーキタイプに有利がつく形にして1-2。引き運もあるがパック運はまるでよくなかったので戦略勝ちの側面はそれなりにあると思う。メインデッキは以下の写真で、上から1日目、2日目の順。
5.結果と今後について
ということで結果としては以下の通りだ。
PT Nagoya
Day1
1st Draft BG
R1 BR ×○○
R2 UG ○○
R3 RW ×○○
3-0
Pioneer:Mono-Black
R4 BW Aura(Ken Yukuhiro) ××
R5 UB Inverter ×○○
R6 UB Control(Masayasu Tanahashi) ○×○
R7 Big Red ×○×
R8 Mono-White Devotion ×○○
R9 UB Inverter ×○×
3-3
Day2
2nd Draft:BG
R10 RW ○○
R11 RG(Lee Shi Tian) ×○×
R12 UG(Dmitry Butakov) ×○×
1-2
Pioneer
R13 Mono-Black Aggro(Yam Wing Chun) ○×○
R14 UW Spirit ×○×
R15 UR Ensoul ×○×
1-2
8-7, 49th Place
目標は無事達成。15回戦を戦い抜いて8-7と勝ち越しでマネーフィニッシュもすることが出来た。途中までかなり上位だったのに最後で負け続けることになったものの、特に2日目はどこまでも運が悪かったし、サイドボードを意識した戦い方で高いサイド後勝率を叩き出せたのには満足している。これは一見手広く強い戦略の中に差別化を図る鋭さを持たせたことが要因だろう。
さて、上位卓にいったことで行広さん、リーシータン、ブタコフに当たることも出来た。(そして全員トップ8……)普段当たることの出来ないプロと真剣に対戦できてとても楽しかった。
テキストフィーチャーも経験できた。プロツアーのフィーチャーテーブルでMPLメンバーと対戦しているのを記事にしてもらえて、最高の一瞬だった。(記事URL: https://mtg-jp.com/coverage/ptnag20/article/0033685/)
総じて今回のプレイヤーズツアーにはとても満足している。魂の震えるような15ラウンドを通してこんなにも贅沢な経験をさせてもらった。本来なら他に何も言うことが出来ない。
しかし勝ち切ることが出来なかったのも事実だ。私には次の権利はない。そして、ここまで贅沢な思いをさせてもらったのに、否、だからこそ人間は欲を抱いてしまう。
またこの舞台に立ちたい。この舞台で、次は勝ち切りたい。
少し悩んだが、私は競技マジックを続行することを決めた。思えばここに導いてくれたのはひとえに憧れの舞台への熱意だった。その熱意が私を勝たせて、プレイヤーズツアーの権利を与えてくれたのだ。
今、戦いを終えてなお、心は燃え続けている。ならばまた走り出すしかない。この火が消えるまで戦いつづけるしかない。
勝利への執念とは少し違う。栄光への渇望とも違う。全ては次に訪れる最高のグッドゲームを経験するため。至高の戦いを繰り広げるため。
私は走り続ける。その中で色んなものを見ていきたいと思う。
憧れの舞台を終えて、しかし道は続いている。この先にどんなワクワクがあるんだろう。それは分からない。分からないが、この心の情熱はきっとそこに連れて行ってくれる。
えむたろう