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AIに複数のタスク処理をさせる『リードプロンプト』の威力:長文プロンプト・GPTsで重要

1. はじめに

AIに長文プロンプトによる複雑なタスクを正確に実行させることは、しばしば予想以上に難しいものです。高度なアプリケーションの作成には、どうしてもこの長文プロンプトの問題は避けられません。

この課題に対する革新的な解決策の一つが

「リードプロンプト」

というテクニックです。

リードプロンプトは、AIのプロンプト指示を円滑にし、より精度の高い結果を得るための方法論です。本記事では、このリードプロンプトの概念と、それがいかにAIへの指示プロンプトを改善するかについて、詳しく解説していきます。

※実践面は動画をご覧ください。理論面は、動画よりも本記事が詳細に書かれています。

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2. AIのアテンション機能の限界

2.1 長文プロンプトの問題点

AIモデル、特に大規模言語モデル(LLM)は、驚くべき能力を持っています。しかし、人間と同じように、AIにも「注意力の限界」があります。この「注意」のメカニズムは、AI研究の分野では「アテンション」と呼ばれています。

長い文章(プロンプト)を入力すると、AIはその全ての部分に均等に注意を払うことが難しくなります。これは、人間が長い講義を聞いているときに、途中で集中力が切れてしまうのと似ています。AIの場合、プロンプトが長くなればなるほど、重要な情報を見逃したり、指示の一部を無視したりする可能性が高くなります。

2.2 アテンション制御の落とし穴

この問題に対処するため、多くのユーザーは特定の部分に強調(ウェイト)をつけようとします。例えば、「重要」「注意」などの言葉を使用したり、特定の指示を繰り返したりします。これは、講義中に教師が「ここは重要です」と声を張り上げるようなものです。

しかし、このアプローチには限界があります:

  1. 過度の強調は自然な文脈を乱す可能性があります。AIは文脈から意味を理解するため、不自然な強調は逆効果になることがあります。

  2. AIの自然な言語理解能力を制限してしまう可能性があります。AIは文脈全体から情報を抽出する能力がありますが、過度の指示はこの能力を阻害する可能性があります。

  3. 予期せぬ結果や不自然な出力につながる可能性があります。強調された部分に過度に注目するあまり、他の重要な情報を無視してしまうかもしれません。

これらの問題を解決するために登場したのが、リードプロンプトというプロンプトテクニックです。

2.3アテンションは最終調整で


長文プロンプトのタスクが実行できないからと言って、安易にアテンションを序盤に用いてしまうと、本当に制御できないところでアテンションが分散してしまい、効果が低下してしまう可能性があります。また、アテンションの乱発は、AIの重みづけを狂わせてしまう可能性もあります。そうした意味で、以前のブログ・動画では、アテンションは最終調整で行うか、行わずに構造でタスク処理できるようにすることがよいでしょう。

序盤で、もし、アテンションを使う場合は、AIのアテンションが間違っている場合のみです。

このようにしていくために必要になってくるのが、リードプロンプトなのです。その奥深い仕組みを今から、じっくりと解説していきます。

3. リードプロンプトの仕組み

3.1 AIの言語予測能力の活用

リードプロンプトは、AIの強みである「次の単語を予測する能力」を巧みに活用します。この能力は「自己回帰モデル」「言語モデリング」と呼ばれ、AIがテキストの文脈を理解し、適切な応答を生成する基盤となっています。

人間の会話を例に考えてみましょう。「昨日、私は海へ...」と誰かが話し始めたら、多くの人は「行きました」や「遊びに行きました」といった言葉が続くことを予想するでしょう。AIも同様に、与えられた文脈から次に来そうな単語や文を予測します。

リードプロンプトは、この予測能力を最大限に活用します。適切な「導入」を提供することで、AIの予測の方向性を誘導し、望ましい結果を得やすくするのです。

3.2 効果的なイントロの重要性

リードプロンプトの核心は、タスクの概要を簡潔に示す「イントロ」にあります。このイントロは、以下の重要な役割を果たします:

  1. AIの「期待」を設定します:イントロは、これから行うタスクの性質や目的をAIに伝えます。これにより、AIは適切な「心構え」で応答の生成に臨むことができます。

  2. 後続のコンテンツの方向性を示します:イントロは、タスクの全体的な流れや構造を示唆します。これは、本の目次のような役割を果たし、AIが全体像を把握しやすくします。

  3. AIの注意を自然に誘導します:直接的な強調ではなく、自然な文脈の中でAIの注意を重要な点に向けます。これにより、AIの言語理解能力を最大限に活用できます。

効果的なイントロは、AIとの対話の方向性を決定づける重要な要素なのです。

4. リードプロンプトの主要ポイント

4.1 簡潔なタスク概要の提示

効果的なリードプロンプトの第一のポイントは、AIに実行してほしいタスクを明確かつ簡潔に説明することです。これは、プロジェクトのブリーフィングのようなものです。全体の目的と主要な要点を短く、わかりやすく伝えることが重要です。

例えば、様々なタスク処理可能なブログ生成GPTsを制作しようとした場合、一応、文章は生成されるけど、あるタスクが処理できない、と言うことが起こります。このタスクを、イントロで明確に宣言させる、これがリードプロンプトなのです。

例えば、
「この後、ブログ記事を書くためのアウトラインを作成します。その後で、記事のタイトル・セクション・ハッシュタグ・イラストを生成します。」

というような形で、タスクの概要を簡潔に示します。

これにより、AIは全体の目的を把握し、それに沿った応答を生成しやすくなります。また、不必要な情報に惑わされることなく、核心に迫る回答を提供できる可能性が高まります。

4.2 明確な実行順序の指示

複数のサブタスクがある場合、それらの実行順序を明確に指示することが重要です。これは、料理のレシピのステップを示すようなものです。順序立てて指示することで、AIは構造化された方法でタスクに取り組むことができます。

例えば、「まず、主要な3つのポイントを挙げます。次に、各ポイントに対して2-3の小見出しを作成します。最後に、各小見出しに対する短い説明文を追加します。」というように、具体的な手順を示します。

この方法により、AIは各ステップを順番に実行し、体系的な結果を生成することができます。また、ユーザーにとっても、AIの応答をチェックしやすくなるというメリットがあります。

4.3 温度設定の調整

「温度」は、AIの出力のランダム性を制御するパラメータです。これは、AIの「創造性」の度合いを調整するようなものです。温度が低いほど、AIの応答は予測可能で一貫性のあるものになります。逆に、温度が高いほど、より独創的で予想外の応答が生成される可能性が高くなります。

リードプロンプトでは、通常、低い温度設定(例:0.1)を使用します。なぜならば、イントロの文章は毎回、安定した方がよいからです(もちろん、そこに創造性を加えたい場合は温度設定を高くするのですが)。

イントロのリードテキストが安定すると、後の被リードテキストも安定するのです。

このようにすることで:

  1. より予測可能で一貫性のある応答が得られます:低温設定は、AIがイントロで設定された期待に忠実に従いやすくなります。

  2. 誤った情報や不適切な内容が生成されるリスクが低下します:低温設定では、AIは「安全」な応答を生成する傾向があります。

  3. タスクの構造や指示に忠実な出力が期待できます:創造性よりも正確性が求められるタスクに適しています。

ただし、創造的な文章作成や新しいアイデアの生成など、より自由な発想が必要な場合は、適宜温度設定を上げることも検討する必要があります。

5. アウトロのリードプロンプトとしての活用

5.1 次の会話への影響

アウトロ(結びの文)もまた、重要なリードプロンプトとして機能します。適切に構成されたアウトロは、現在の会話をまとめるだけでなく、次の対話の方向性を示唆する役割も果たします。

例えば、「この記事を反映したイラストが生成されました。次のチャットでは、Advanced Data Analysisを使用してイラストにCo-Creation with Motohiko Sato & AIと中央下にテキスト入力します」というアウトロは、次の会話の方向性を明確に示しています。

このようにすると、次のチャットでは、「実行してください」などの短いプロンプトで、イラストへのテキスト入力が行われやすくなるのです。
また、「この記事を反映したイラストが生成されました。」というテキストを生成することで、AIは一貫性を保持するために、イラストを描こうとするのです。

このようなアウトロは:

  1. 現在の会話をまとめる:これまでの議論の要点を簡潔に整理します。

  2. 次の対話の方向性を示唆する:続く会話のテーマや焦点を暗示します。

  3. AIの次の応答を間接的にガイドする:AIが次に何を話すべきかの指針を提供します。

5.2 効果的な使用方法

効果的なアウトロ・リードプロンプトを作成するためには、以下の点に注意が必要です:

  1. 簡潔で明確であること:長すぎるアウトロは、かえって焦点をぼやけさせる可能性があります。

  2. 現在の会話の主要ポイントを要約すること:これにより、AIは重要な情報を記憶し、次の応答に活用できます。

  3. 次に期待される行動や話題を暗示すること:直接的な指示ではなく、自然な流れの中で次の話題を示唆します。

6. 温度設定の重要性

6.1 低温設定 vs 高温設定

AIの「温度」設定は、その応答の性質を大きく左右します。これは、人間の思考の「モード」を切り替えるようなものです。

  • 低温設定(0.1など):これは、論理的で構造化された思考に似ています。より予測可能で一貫性のある応答が得られます。事実に基づいた情報や、正確な計算が必要な場合に適しています。

  • 高温設定(1.0以上):これは、ブレインストーミングやクリエイティブな思考に似ています。より創造的でユニークな応答が生成されます。新しいアイデアの創出や、芸術的な表現が求められる場合に適しています。

6.2 適切な設定の選択方法

温度設定の選択は、タスクの性質に大きく依存します。適切な設定を選ぶことで、AIの能力を最大限に引き出すことができます。

  1. 事実に基づく回答や構造化されたタスク:低温設定が適しています。例えば、歴史的事実の説明や、数学の問題解決などが該当します。

  2. 創造的な文章やブレインストーミング:高温設定が適しています。小説の執筆や、新製品のアイデア出しなどに有効です。

  3. リードプロンプト:通常は低温設定を推奨します。これは、AIに明確で一貫性のある指示を与えるためです。

ただし、同じタスクでも段階によって適切な温度設定が変わる場合があります。例えば、記事の構成を考える段階では低温設定を使い、具体的な文章を書く段階では少し温度を上げるといった具合です。

温度設定は、AIとの対話を微調整する強力なツールです。適切に使用することで、より目的に沿った、質の高い結果を得ることができるのです。

7. まとめ

リードプロンプトは、AIとの長文プロンプト指示を改善する強力なツールです。それは技術的なテクニックだけではなく、AIの思考プロセスを理解し、それを効果的に導く方法論と言えるでしょう。

適切に使用することで、リードプロンプトは以下のような利点をもたらします:

  1. 複雑なタスクをより効果的に実行させることができます:明確な指示と構造化されたアプローチにより、AIは複雑な要求にも正確に応えられるようになります。

  2. AIの自然な言語理解能力を最大限に活用できます:過度なアテンションの制御ではなく、AIの強みを生かすアプローチにより、より自然で文脈に沿った応答を引き出すことができます。

  3. より一貫性のある、目的に沿った応答を得られます:適切なリードプロンプトは、AIの「思考の流れ」を整理し、一貫した論理で結論に至るよう導きます。

  4. 効率的なコミュニケーションが可能になります:指示プロンプトをイントロやアウトロにリードテキストとして埋め込むことで、被リードテキストが誘発され、AIとのやり取りの回数が減少します。より短時間で望む結果を得ることができます。

  5. 創造性と制御のバランスを取ることができます:温度設定の適切な調整により、タスクの性質に応じて、AIの創造性を引き出したり、正確性を高めたりすることが可能になります。

リードプロンプトは、AIの自己回帰モデルを使用し、アテンションを補完するテクニックです。アテンションを使用せずにAIの文脈を誘導するのがリードプロンプトの利点でもあります。これにより、アテンションを最終調整に残しておける、もしくはアテンションを使わず自然なアテンションの維持を可能にするものです。そうした意味で、リードプロンプトは、AIを自然にリードし、自然な文脈を保たせる指示プロンプトだと言えるのです。

【プロフィール】
ワンダー・佐藤源彦(さとう もとひこ)
医療系の研究所、心理学の研究所の勤務を経て独立し、AI・心身に関する研究をしている。
主著『東洋医学と潜在運動系』、2年間専門誌に連載、など執筆業を行いつつAI共創ライティングを開発中。
心理学・カウンセリング・コーチングをAIに技術転用し、AI共創学を開発している。

https://linktr.ee/motohiko.sato

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