さようなら、全ての原ジャイアンツ

2001年秋から始まり、2023秋に終わった原ジャイアンツ。世代交代の前に、なにが原ジャイアンツを終わらせ、そして、振り返らないためにはなにが必要なのか、考えようと思う。

原ジャイアンツの偉業の歴史

それは同時に巨人というブランドの歴史でもある。他球団ファンから忌み嫌われるFA補強、ドラフトの理念に反するような指名戦略。「巨人に行くのはお金がほしいから」という選手への批判や牽制は、シーズンオフの定型文だった。実際、負けがこむと巨人は大々的な補強をし、そして勝ってきた。

それは高橋由伸という、まさに新世代監督が躓いたときにも発動する。3度目の原ジャイアンツが生まれるやいなや、日本を代表する選手を獲得、前年からのV字回復で優勝、連覇させた。

そして3期目の3年契約最終年、2021。巨人は3位に終わる。
「ここまでか、次は誰だ?」そういう空気が流れる中、原監督が新たに3年契約を結ぶと発表される。これには驚きが広がったが、コーチ陣を見て皆が納得する。
当時の二軍監督、ポスト原と目される阿部慎之助さんが一軍のコーチに就くことになった。そして前年の投手陣の混乱の責任を取り投手コーチトップの宮本和知さんが退任すると、桑田真澄さんがスライド昇格のような形で重い職に就く。
「なるほど、次世代を育てるんだな」という、わかりやすい人事だった。
ご存知の通り、それは現実になる。

2022、やはり新しいコーチ陣の難しさか、チームは低迷し、Bクラスに終わる。
個人的には「この失敗を受け止めるための原ジャイアンツ。コーチは育つ。」と受け止めた。事実、桑田コーチの進言はチームを支えることになり、それは今でも続く。

しかし巨人はそうはいかない。責任を求める声に巨人は原監督を残し、責任ある職には実績あるコーチを多く招聘した。ここでも阿部さんや亀井さんは残しており、将来性が潰えたわけではないが、桑田さんが一軍から外れるのは意外だったし、方針の転換を感じた。勝つことに傾け、原ジャイアンツという看板を世代交代全体を守る壁から一部を守りながら勝ちに行く姿勢に変えた、と。

やはり巨人ファンは結果に厳しい。というより、結果に右往左往する。新人だろうが関係なく退団を求めるし、当然それは監督にも及ぶ。原監督への批判は大変大きいものだった。他方で、待望論に切り替わるのも早い。
原さん以外が負ければ原ジャイアンツを求めてきたように。

その空気の流れの早さ、鋭さは原監督の指揮そのものとも言える。まずは打つことという起用は打率への批判とリンクするし、聖域のないバントサインは、ファンの「バントは誰でもできる」という錯覚を強化する。若手は少ない打席で打たなければいけない、主力はスランプが長く長く続かなければ仕事が絶えることはない。その起用はファンが実績重視で選手評をする土壌を作ってきた。

17年も見ていれば必然、賛否の立場を問わず誰だって " 原ジャイアンツチルドレン " になる。そういう原ジャイアンツの呪縛の中にある巨人ファンも多いと思うが、その中で2023は勝つんだという意思が伝わってくるコーチ人事は納得感もあった。

逆に言えば、勝たなければいけない年。しかし近年のFA市場の停滞やドラフトの透明化により、そうは勝てない。どうするか。とても興味深かった。

大補強できない巨人、名将・原辰徳はどうするのか?

その答えはこうだった。

  • 20打席当たりがない主力2人を抱えたまま走る

  • オープン戦絶好調の新戦力を開幕直後外す

  • 代わりに数年前のFA戦士である梶谷隆幸選手を怪我不安が残る中で抜擢

  • 投手は安定した活躍をしていても、今日打たれれば明日は二軍降格

  • 延長の打ち合いを想定してか、代走は消極的

  • 身体的な不安がつきまとう主力を使い続け、痛みを訴えれば二軍に帯同させるが、痛みが残っていても最短で引き上げる

  • 守備の不安があるスタメンでも攻撃で押す

  • 結果という割に、主力ではない中堅や若手が活躍を見せても次の日は試合に出ない

本当にそんな1年だった。
強迫的に長打を求め、投手にはとにかくここを抑えろという飢えた起用。春にはもう「これで優勝できたら凄い」と思うほど、難しさを感じさせるものだった。

とくに、主力とそうでない選手の起用バランスは欠けていた。主力の方が試合に出る、機会は平等ではない。それは当然のことだけれど「主力はスランプでも代打要員、今日打った若手・中堅は明日の1打席すら立てず、打てなきゃ即二軍」というのはさすがに極端だった。投手起用にも同じことが言えた。

その中で強化指定のような扱いを受けた選手もいた。
その象徴が門脇誠である。
新人とは思えない守備で活躍を見せながら、打率の低さから新人とは思えない批判も受けた。
しかし原監督は彼を使い続けた。ファンの気まぐれな批判をよそに、原ジャイアンツ史上稀に見る " 打てないけど守れて走れる若手 " がスタメンに定着。結果的には、最終年にして歴史的な場面を目にしたことになる。
その成果は周知のように、門脇選手の打撃開花、坂本勇人の三塁転向を呼ぶまでの存在感を見せ、ファンからは称賛の嵐。
若手を我慢することの重要性がよくわかる…はずだが、ファンはまた違う標的を見つけて成績が上がらない、印象的な失敗をした若手を苛烈に批判している。

原ジャイアンツチルドレンは、原ジャイアンツらしからぬ門脇誠という異質な存在に学ぶべきだと言える。そしてまた、来季からの新生阿部ジャイアンツにも続いてほしい流れである。

原ジャイアンツを終結させ、呪縛を解き、乗り越えるためには、「負けを我慢し続ける」わけでもなく、「勝たないと無意味」という姿勢も取るわけでもない、二軍で活躍する選手の活用という【 補強 】に取り組む必要があるだろうと、ぼくは思う。その上で阿部慎之助、二岡智宏という近年の二軍監督が2人並ぶ一軍ベンチは楽しみが大きい。
なにはともあれ、阿部さんは新人監督なのであり、原ジャイアンツチルドレンもまた、親離れの時である。
碇シンジのような葛藤と成長と覚悟で、 " 親 " を乗り越えてほしい。

最後に、たくさんの思い出を共にした17年という時間、原辰徳監督、本当にお疲れ様でした。


ありがとう、全ての原ジャイアンツ

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