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オーバードクター 博士浪人

 1970年代の田宮二郎さんのタイムショックで「オーバードクター、日本語で言うと」という出題がありました。当時は博士浪人と言ったそうですが、オーバードクターは博士学位を取得した後の、就職等の浪人という意味ではなく、博士課程後期課程の3年という修業年限を経たものの学位を取得できず、大学等の就職先も見いだせていない大学院生(正確には大学院研究員)を指す言葉です。私もオーバードクターでした。博士課程後期課程の3年間を終えたものの、学位も取得できず大学にも就職できずという状況で、在籍料を支払って大学院研究員という肩書だけをいただくという、非常に厳しい時代を過ごした経験があります。
 博士課程後期課程に進学し、昨今のように乙号ではなく甲号での博士学位が授与される時代になっても、3年で博士学位を取得できる院生は、文系大学院の場合、非常に限られた人数しかいません。私がこれまで指導した博士課程後期課程生でも、3年で実際に博士の学位を取得できたメンバーはせいぜい2割程度です。それ以外のメンバーは、必然的にオーバードクターになります。文系で博士後期課程に進学しても就職に苦労をするというのは、決して博士の学位を取得しても就職先がないという問題だけではなく、博士学位そのものが3年で容易に取得できるものではないという問題をも包括しています(かなり悲惨です)。社会人大学院生ではなく、学部を卒業してそのまま大学院に進学している大学院生(フルタイムの大学院生と言います)が直面するのは、まさにこれらの問題です。ゆえに、文科系の大学院に行ってもという主張になります。この主張には非常に説得力があります。
 翻って社会人大学院生の場合、博士の学位取得が遅れても、生活はそのままできますし、仮に大学等の研究職に転職を希望する場合でも、良い転職先が見つかるまでは、現状の勤務先で誠実に職務に励み生活の糧を得続けるということが可能です。また、文科系の学問でも実務や実践との関わり合いを無視することは社会科学の場合困難ですし、博士学位を取得する際には、相応の実務的な知見や経験を有していることが、社会科学の研究者としては重要です。こう考えてくると、社会人大学院生という選択は、オーバードクター問題を深刻にとらえず、少し楽観して研究に取り組むことができるという意味で悪くはないと言えるのです。
(2022.05.15)

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