手をつないでいい？

さっき見た夢をClaude 3.7 Sonnetが小説にしました。出だしと最後だけが夢で覚えているところです。

日常の光

「別の店でお惣菜を買っていい？」

スーパーの野菜売り場で、敏子はカゴを抱えながら公也に尋ねた。

「いいよ」

公也は何気なく答えながら、特売の大根を手に取っていた。

普段は敏子が料理を担当していたが、三ヶ月前から公也も少しずつ家事を手伝うようになっていた。それは公也が突然の胸痛で倒れ、緊急手術を受けてからのことだった。

「あの店の煮物が食べたくて」と敏子は言った。「ここよりちょっと高いけど...」

「気にしないで。今日は特別な日だし」

退院して一週間。医師からは「無理をしなければ普通の生活に戻れますよ」と言われたものの、公也の心には不安が残っていた。仕事も、まだデスクワークのみ許可されている状態だ。

レジを済ませた二人は、スーパーを出て商店街へと足を向けた。少し肌寒い春の夕方、人々が行き交う通りは活気に満ちていた。

敏子は惣菜屋に入り、煮物と焼き魚を選んだ。公也は店の外で待ちながら、ふと通りの向こうに見える中学校に目を留めた。子供たちが通っていた学校だ。今では二人とも大学生になり、長男は東京の大学へ進学、次男も来年には家を離れる予定だった。

敏子が買い物を終えて出てくると、公也は中学校を指さした。

「ちょっと寄り道しようか」

二人は商店街を抜け、中学校の方へと歩いた。フェンス越しに見える校庭では、部活動をする生徒たちの元気な声が響いていた。

「懐かしいね」と敏子が呟いた。

公也は頷いた。二人はこの中学の同級生だった。入学式の日、クラス発表の掲示板の前で偶然隣り合わせになった二人は、そのまま同じクラスになった。

「あの頃は、こんな風に二人で買い物するなんて想像もしてなかったな」

公也の言葉に、敏子は微笑んだ。学生時代の思い出、結婚、子供たちの誕生と成長。共に歩んできた日々が、ふたりの間を流れていくようだった。

「ねえ、覚えてる？」敏子が言った。「この中学校の前で、初めて手をつないだこと」

公也は恥ずかしそうに笑った。高校生になったばかりの春、勇気を出して告白した日のことだ。

「君の返事が怖くて、手が震えてたよ」

春の風が二人の間を通り抜けていく。公也は改めて敏子の手を見つめた。入院中、何度も彼女の手に救われた。点滴の管が刺さった彼の手を、彼女はそっと握りしめてくれた。

そして今、日常が少しずつ戻ってきている。スーパーでの買い物。惣菜を選ぶ些細な会話。それらが愛おしく感じられた。

「帰ろうか」と公也が言うと、敏子は頷いた。

夕暮れ時、二人は歩きながら、ふとした衝動に駆られた。

「てをつないでいい？」

公也は少し照れくさそうに敏子に問いかけた。まるで初めてのデートのように。

「いいよ」

敏子は微笑みながら答えた。公也はその小さな手を優しく握った。

「苦労をかけるね」

公也は入院中の心配や、これからのことを思いながら呟いた。

「いやだよおまいさん」

敏子は昔ながらの言い方で公也を諭した。その表情には愛情と信頼が溢れていた。

敏子と公也は子供たちが通う中学校の前を通りながら家に向かうのだった。