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光路の夜明け

夜明け前の薄明かりが、雲海の上から滲むように広がっていた。僕と妻は小型スピナー――空飛ぶクルマのコックピットに肩を寄せ合って座りながら、高度を上げてゆっくりと周囲を見渡している。目的地は、かつてふたりで訪れた場所。しかし、既存のナビシステムにはもうその地名が残っていないのだ。
「見覚えのある光路、ないかな……」
妻はフロントウィンドウ越しに見える光の筋を目で追っている。かつては道路と呼ばれていたもののなれの果て。立体交差が進みすぎたせいなのか、あるいは重力制御技術が普及したせいなのか、交通の“道”が空間全体に広がった結果、“車線”の代わりにレーザーのような光路が空を縦横に交差している。この時代の標準的な移動手段は、空路を走行するスピナーか、より短距離なら無人ドローン。それが当たり前の世の中だ。

もっとも僕たちが乗っているスピナーは小型で、二人乗りが精一杯。荷物をたくさん載せるとなると、専用ドローンで別便にしなければならない。しかし、そのコンパクトさが何よりも愛おしい。かつてどこかの映画で観たような、まるで光の柱が連なった空を滑る感覚。あのとき僕らは、「いつか本当にこんな未来が来ればいいのに」と語り合った。それが叶ったのが今、こうして夜明け前の空をふたりで漂っている現実だ。

とはいえ、どうしてわざわざこの空間に“道”を引く必要があったのか。その背景を理解するには、数十年前の歴史を振り返らねばならない。地上の温暖化は急速に進行し、海面上昇や度重なる大規模台風により、多くの沿岸地域が壊滅的な打撃を被った。自動車専用の大規模インフラはメンテナンスが追いつかず、崩壊しかけた交通網を再構築するために、当時の政府や企業が投資したのが空中交通だった。重力制御の研究が発展し、巨大な浮遊プラットフォームや小型スピナーの普及が一気に進んだ。そうしていくつもの“光路”が空に設けられ、そこを交通網として流用することが常識になったのだ。

――懐かしい光景があるはずなんだ。
思い出すのは、まだ地上でもスポーツを楽しめた頃、たしかに巨大なテニスコート群があった場所。常夏のリゾートだった気もするし、東京の下町の上空だった気もする。いつの間にか世界は分割され、地域間の境界が空路や浮遊都市の形で複雑に再編されてしまった。あのコートはどこに消えたのか。

「少し高度上げてみよう」
僕はスロットルを引き上げ、スピナーの機体をそっと持ち上げる。ヘッドアップディスプレイには、周囲に存在する光路や地形の情報が立体的にプロットされるが、広大すぎて探し物は一筋縄ではいかない。そんな僕を見かねて、妻が柔らかい声で言う。
「ひと息つこう。夜明けが来るまで、あと少しあるから」

青く静かな空を背景に、スピナーの機体から細かな振動が伝わってくる。かつて夜明けを見た場所――それはどこだったのだろう。恋人同士だった頃、まだ未来が遠かったころ、そして空飛ぶクルマなんてただのSF映画の象徴だった頃……。
あの時の僕らは、お互いの存在だけで満たされていた。こんな世界が来るなんて本当に想像もしなかったのに。

「高い山が見えるわ。もうハワイ諸島の上空を通り越しちゃったみたい」
妻が指さした先には、雲海を突き破るように尖った山のシルエットが沈むように並んでいる。少し離れたところには、近未来建築の群れが青白く光を放ち、複数のビームが入港するドローンを誘導していた。
「ここはもう違うな……」
僕はため息をつきながら、スピナーをゆっくり旋回させる。

行く先々で目に入る光景は、どこも似通っているようでいて微妙に違う。ある場所ではビル群の上に巨大な太陽光パネルが林立し、別の場所では地熱発電所から空に向かって虹色の排煙が伸びている。そんな合間を縫うように走る光路の映像は、どうしても似たり寄ったりに感じる。

少し迷いそうになったとき、不意に妻がはっと目を見開いた。
「見て! あれ、テニスコートの整列じゃない?」
視界の先を拡大すると、連続する四角い敷地が青緑に輝いている。まるで何面ものテニスコートを隙間なく並べたように。光の角度から推測するに、地形自体はわりとフラットで、水際に近いようにも見える。
「確かに……でも今は全部浮上プラットフォームの一部になってる可能性がある。近づいてみるよ」

僕はスピナーを光路から少しはずし、目的の光点めがけて下降をはじめた。光路から外れるときには申請が必要なのだが、今はそんな規則を気にしていられない。かつてふたりで訪れた、あの思い出の地形を何としても探し出したいのだ。

スピナーのフロントスクリーンには、小さな警告ランプが点滅し始める。光路から外れる行為は管制システムに即座に通知される仕組みだ。けれど僕は妻の手をそっと握り、彼女もぎゅっと握り返してくれた。それだけで、まだ見えない目的地への意志を確かめ合うには十分だった。

やがて雲を抜けると、朝日が水平線の向こうから浮き上がるように顔をのぞかせる。真っ赤な光が海面を照らし、まるでそこだけ別世界のようだ。大昔のハワイも、東京の水辺も、あの頃はこんな風に朝焼けが美しかったに違いない。海面はずいぶん変化してしまったが、空の色は変わらず美しいままだ。
「ほら、あそこ……!」

妻が示す先には、いくつものテニスコートが列をなしている浮上プラットフォームがある。コートの周囲には小さなカフェや施設らしきものが並んでいて、さながらリゾートの中心地のようだ。スピナーをそっと降ろすと、プラットフォームには幾重にも連なる発着ランプが灯り、誘導してくれる。
どうやら、ドローンやスピナーの利用客向けに整備されたスポーツ&レジャー施設らしい。もしかしたらこの場所こそ、僕らが昔訪れた場所の痕跡を残しているのかもしれない。

「ねえ、覚えてる? 昔、地上でテニスコートを見つけたとき、ふたりで計画もなく遊んだよね」
妻は僕の手を離さないまま、懐かしそうに遠くを見る。いつの間にか日が昇り、世界がゆっくりと明るくなるとともに、周囲の人々も動き始めたようだ。浮上プラットフォームのあちこちでドローンが飛び交い、時折、旅客用の大型スピナーが着陸してはカラフルなスーツを身にまとった観光客が降りてくる。
「あのときの僕らは、こんな未来が来ることなんて思ってもいなかったけれど……」
言いかけた妻の頬には朝の風がそっと当たり、長い髪を揺らしている。

僕はスピナーのコックピットを後ろ手に、妻を軽く抱き寄せた。
「未来がどう変わっても、君と一緒なら、どんな道でも必ずたどり着けると思うんだ」

喧騒から少し離れた場所、プラットフォームの隅に並ぶテニスコートの一画を見つめながら、僕らは静かにその余韻に浸った。二人の記憶の中の“あの場所”が、果たして正真正銘ここなのかは、もはや確信がない。それでも、こうして探し続けたこと、そしてこの世界を共に生き抜いてきたことが何よりも尊い。空飛ぶクルマや光路がありふれた時代でも、僕らの心はあの頃と同じ空気を共有していた。

そして、スピナーの後部座席から荷物を少し取り出す。中には二本のラケットと、テニスボールが数個。
「こんなに軽いなら、専用ドローンを飛ばす必要はなかったかもね」
妻はあどけなく笑って、僕の手からラケットを受け取った。

そう、僕らの目的は、ただ「昔のように一緒にテニスをすること」。それだけだった。高々と昇る朝日に照らされて、僕らは静かにコートに足を踏み入れる。浮かび上がる白線、少し人工的な感触の地面、それでも、ラケットを握る感覚は昔と変わらない――まるで若かった頃に戻ったようだ。

遠く、空には多数の光路が交差している。重力制御技術がもたらした新しい日常。嵐に沈んだ街、変わってしまった地球の風景、そして世界の形も一変してしまった。でも、こうして穏やかな朝の中で、ふたり寄り添って笑い合い、ラケットを振り、テニスボールの弾む音を聞く。それだけで、この世界に生きる理由をもう一度思い出せる。

いつかまた、スピナーで別の場所も探しに行くだろう。だけど僕らはきっとどこに辿り着いても、変わらずこの手を離さずにいられる。刻々と動いていく未来の中で、愛する人と過ごす何気ない時間こそが最大の宝物だから。

夜明けを迎え、世界が明るさを取り戻す頃、夫婦の深い愛情をのせたテニスボールが、高く澄んだ空気を切り裂いて、コートに弾んだ。


夜明けが近い。妻と2人で2人でスピナー、空飛ぶクルマに乗っている。以前見た場所に行きたくて、その場所を探している。道路、といっても平面ではなくて光路みたいなものなのだが、記憶では、ある程度のトラフィックがあった。いったん高度を上げて近い地形を探している。高い山を見下ろすところまで来たが、この辺ではないらしい。ハワイ諸島、東京の下町を探ってみるか。そういえば、テニスコートがいくつも並んでいるような光点があったような。スピナーは小型であまり荷物が運べない。二人乗りだとギリギリだ。荷物があるときは専用ドローンを別便で飛ばす。こちらは光路を飛ばなくても良い。さて、僕らの目的は……。

こんな情景を織り込んで、未来SFの短編として描いて。このような状況になった必然性、科学的背景を盛り込み、エンターテイメントとしても面白いものにして、夫婦間の深い愛情も読み取れるものに。

上記のプロンプトでChatGPT o1 pro modeが執筆

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