私的「夏」解説/PROJECT_SF※ネタバレ
僕たちが壊した「夏」って結局何だったんだ?
ヨツミフレーム@y23586氏 作成のVRChat内イベントワールド
PROJECT: SUMMER FLARE
一緒に遊んだお友達の感想として「凄かった!」「楽しかった!」と同時に多かったのが「結局俺達は何をしたんだろう」「夏を壊した気はする。でも結局夏って何だったんだろう。」といったもやもや感。
このnoteはそうしたプレイ済みプレイヤーさん達のもやもや感を、自分なりに解釈した物語を解説する事で「スッキリ」させられたら良いかなという自己満足記事です。
はじめに
PROJECT: SUMMER FLARE(以下PSFと記載)には事前に公開された
夏が始まる一日前。なるワールドが存在します。
該当ワールドはPSFのコンセプトアート展とされていますが、此処に展示される内容は物語全容を把握するにあたり非常に有用の為、まだ訪れていない方は是非訪れる事をお勧めします。
当note内容はPSFと夏が始まる一日前。の両ワールドを既に訪問された方へ向けての記載としています。
「夏」その実、「冬」
私達は劇中で何らかの作戦を実行しており、その結果として「夏」と表現される何かを止めた・解決したことが示唆されます。
そしてそれにより未来の人類が滅亡から救われた事も示唆されます。
「夏」とは未来の地球、未来の人類に発生した重大なトラブルです。ではそれは実際には何なのか。其れを説明するためには未来の人類が置かれた状況を理解する必要があります。
前提として、未来の地球は氷河期に陥っており、人類は「サテライト」と呼ばれるシェルターの様な閉鎖空間施設の中で何とか生存をしています。
少なくともこの氷河期は2090年頃には発生しており、又劇中の時代は2141年まで経過しています。
氷河期の原因は明示されませんが、劇中で発生する核攻撃が「七発目」と表現される事などから大規模な核戦争などにより核の冬が訪れた物であると示唆されています。
未来の現実は夏どころかいつ終わるか解らない永遠の冬。
未来の人類は仮想現実に救いを見出している
外には無限に続く猛吹雪と氷の世界。空間の広さに限界がある閉鎖空間。解決どころか閉塞していく一方の未来。
これに対する救いとして、「サテライト」の中で未来の人類は特殊なHMDを装着し仮想現実に救いを見出しています。さながら、VRCをプレイ中の私達の様に。
※劇中に展示があるHMD、LUNA。これを「外す」瞬間は非常に印象的。VRChatで私たちが使っているQuest2やValve等のHMDとの違い、脳神経にも作用し視覚聴覚だけでなく全ての五感を仮想現実に合わせ上書き(オーバーライド)出来る凄い奴。
この仮想現実を「サテライトリアリティ」と劇中では呼称し、そのコントロールは「サテライト」が行っているとされています。
サテライト施設にはその中に生きる人類の希望として「サテライトリアリティ」という仮想現実があり、それをコントロールする「サテライト」というAI的なものが存在する事が示されています。
サテライトのコントロールをしているAI自体をサテライトと呼称する為少し分かりづらくなっています。このnoteでは以降「サテライトAI」と呼称します。
「サテライトリアリティ」
サテライトリアリティはサテライトAIによってコントロールされています。このAIと脳神経迄接続されるHMDは非常に優秀で、ユーザーが望む物を読み取りそれを仮想現実に自動で生成して五感に感じさせてくれます。
VRChatで例えるならQuest2を被り、ほしいワールドやアバターを想像したらそれを自動でVRC運営がテレパシーで読み取って勝手に実装して楽しませてくれます。とてもすごい。
毎食同じディストピア飯でも、HMD LUNAが味覚や食感をオーバーライドし様々なメニューを食べている様に感じる。荒廃し不衛生な閉鎖空間でも、お洒落で清潔で心地よい自室に五感をオーバーライドしてくれる。狭い空間でも感覚器と運動神経に作用する事でかってに無限歩行になり運動できる。
触覚を含めすべての感覚器に影響できるので、間接的に人間をコントロールさへできる。
※目の前に壁が見え、触れるように触感も感じれば仮に実際には壁が無くても壁があるように感じそこを通らなくなってしまう。
ディストピアな閉鎖空間にあって、五感をオーバーライドできる仮想現実は確かに非常に有用です。未来の人類は舞台となる2141年にはめっきりサテライトリアリティ漬けになり、最早サテライト無しでは存続できなく反抗する事も出来なくなっています。
リアリティ内に存在する「狂気」
劇中「夏」を含めていくつかの事象・物品が「狂気」と表現されます。
「デュランダル」や「夏」は全てサテライトリアリティ内に存在します。
仮想現実の一種でしかないですが、「狂気」と定義される物の共通点は劇中の資料を総合すると「超現実的な性質を持ち、かつそれがリアリティ内全ての人間に共通して認識されている。」という点です。
五感すべてをオーバーライドできる世界ではどんな物でも実現していると感じさせることが可能です。「絶対に折れない剣」もそう。
さらに全ての人類がそのサテライトリアリティ内の認識を共有する。
全人類が「これは絶対に折れない剣だ。」と体感して認識を共有すると、それが本当はただの鉄で出来た棒っ切れだろうと無敵の剣として存在する事になります。
だからこそサテライトリアリティでは過度に超現実的な存在を発生させることは禁忌で(恐らくはその表現に有限である現実のリソースを無尽蔵に消費する事になってしまう為)、それをコントロールする組織であるルナティックコントロール(以下LC)が存在します。
始まりの切っ掛けとなった当人については言及されていませんが、誰かがそれを望み(そしておそらくはその当人がサテライトのAIに関与できる立場の人間だった為に)サテライトリアリティ内に複数の「狂気」が発生し広がっていく事になります。
この事は劇中でFASが実はしっかりとネタバレしているのですが、丁度長い梯子を上るタイミングの為読み飛ばしてしまいやすいようになっています。以下にそのSS。
デュランダル
ダイダン(正確にはその素体のだいだらぼっち)とLupi(神託機械)
「夏」の正体とオペレーション・サマーフレア
これが「夏」という未来人類が直面しているトラブル。
誰かが永遠の冬を忘れたいと望み、サテライトリアリティ内に「夏」という狂気が生まれる。
それは五感をオーバーライドして実際の体がどんなに冷えていようと「むせかえるような夏」を感じさせ続ける。当人の肉体が凍死するその瞬間まで。
この「狂気」は電波の様に広がるらしく、複数のサテライトのサテライトリアリティに広がってしまい全ての未来人は
「暑いなー!夏だなー!」と思っているうちに緩やかに凍死していくという危機に瀕しています。
これに対し、リアリティ内の「狂気」の監視とコントロールを行うLCが「夏」を止める作戦を行う。これが
Operation: SUMMER FLARE (以下OSF)
ただしサテライトは破壊できない。サテライト無しでは人類は存続できないので、バグって暴走しているサテライトAIの電源中枢へ侵入し、一度電源をシャットダウンして再起動する。
これが劇中で私達が実行している作戦の内容になっています。
OSFとPSF サテライトリアリティとVRChatの関係
これで劇中の作戦や解決目標は理解できていました。
しかしまだ残っている謎として、劇中の随所に未来の2141年ではなく「120年前」の人類である私達VRChatプレイヤー当人や、プロジェクトサマーフレア(PSF)というVRC内ワールド自体が関与している表記が出てきます。このOSFとPSF、SRとVRCの関係は「夏が始まる一日前。」に展示されている写真に解りやすい図が示されています。
※PSF OSF y121(121年) M.L(Meridian loop)
OSFは未来の人類の力では達成できない
未来のオペレーションサマーフレアに120年前のVRChatプレイヤーが関与するのは、未来の人類の力だけでは作戦が成功しない為です。
FASとLupiは最終エリアの自己紹介で見れる通りブレードサーバやスマートスピーカ・チューリングマシンなどの形状のAIであり、作戦を実施する身体を持っていません。
なので本来はオペレータの指示に従い未来人が頑張る筈でしたが、
未来人はサテライトリアリティ漬けでサテライトに抵抗できない為、作戦を実行できません。
ここにあって、FASとLupiは
施設の設計図や構造図はあるから作戦は立てられる。
だが実行班が居ない為作戦を実施できないという問題に直面します。
そこで用意されたのがM8PR。
このロボット?は名前の通り「プレーヤー(再生機)」。
入力した過去の人間の動作記録を忠実に再生・再現する機械です。
しかしこれを使うには実際に作戦行動と同じ動作を行う人間の動きを「記録」しなければいけない。
それもサテライトAIの邪魔が入らない場所で。
どこかサテライトAIの邪魔が入らない場所で
構造が判る建物の形状や作戦を仮想空間、VRに再現出来て
その中で作戦行動を試走して動きを記録させてくれる人間がいるどこかに
その場所として白羽の矢が立ったのが、120年前のVRChat内。
つまりPSFを遊んだ私達VRchatプレイヤーの動きを記録して、120年後その動きをM8PRで再生(リプレイ)して実際に作戦を成功させる。それが、PSFとOSFの繋がり。
この物語にはVRCやPSFのワールド、そしてそれを遊ぶ私達VRCプレイヤーも組み込まれています。勿論、ワールド作成者のy23586さんも。
劇中のy23586氏
劇中、私たちの動きを再現するM8PRは最後にSUMMER BREAKの平文をモールス信号で送信します。FASは言います。信号を送信して、このループを完成させて、と。
あれは未来から121年前に信号を送っているシーンとなっています。
此処で改めてこの画像。
※OSFの終わりにy121(year121 121年前)のy23(y23586氏)へ信号を送る。そしてPSFが作られOSFとのループが完成する。
実際にy23586氏は劇中に登場しています。それが最終エリアのホワイトボード裏に隠されている之と
「夏が始まる一日前。」に展示されている之。
なんで「ボブ」なのかについては暗号通信分野等でプロトコルについて説明する場合の通例に基いています。
技術分野にて、信号の送信者をアリス、受信者をボブと表現します。
この裏付けとして、同ワールドに設置されているLupiのガラスピクチャーにはa.k.a The anonymous alice(別名:匿名のアリス)の記載があります。
因みにFASにはa.k.a Meridian channel(別名:頂点のチャンネル)。AliceがChannelを通じてBobにBREAK SUMMERを送信した、という事なのでしょう。
※アリスとボブ 参考記事リンク
物語全体年表
これらを加味して全体の年表を整理したのが下記となります。
2019.12.01 121年後からの信号モールスをy23586さんが受信。
2020.01.?? この信号を元にFASとLupiと連絡が取れるようになったy23586さんがOSFの為にPSFのワールド作成を開始。
2021.09.23 PSFワールド公開。
2021.09.23~今 VRChatプレイヤーがPSFをプレイしOSFを成功させるための動作データを(そうとは知らずに)蓄積中。
~
2051 並行世界説の否定(OSF90年前)
208? この頃までに後にLC本部として転用されるムーンベースが月世界開発として建設される。
209? 後に地球が氷河期へ向かう切っ掛けの何かが起こる(核戦争?)
2103 最初のサテライトリアリティHMD SATELLIT PHOBOSが完成。
2109 改良型のサテライトリアリティHMD SATELLITE DEIMOSが完成。
2110 地球上にサテライト施設建築開始。(OSF30年前)
2116 完成型のサテライトリアリティHMD SATELLITE LUNAが完成。
2116 同年完成型のサテライトリアリティが稼働。
2116 ルナティックコントロールが発足。サテライトの影響を避けるために本部はかつて月世界に開発されたムーンベースに置かれる。
※恐らくサテライトリアリティ稼働と同時にデュランダルが発生する案件が発生したため。
2141 この頃までに未来人類はサテライトリアリティ漬けになる
2141.06.20 「夏」が始まる一日前
2141.06.21 「夏」が発生。LCが対策を開始。M8PR開発。
2141.08.12 OSF実行、成功。
※ヨツミさんのエラッタはココ。銃が置いてあるところの日時ブロックの曜日が間違っていた。
2141.08.19 OSF作戦成功一週間後。121年前へモールス信号を発信。
補足
今回のワールドは自分達の見ている視点の持ち主が途中で変化しているので解りづらくなっています。
確証が有りませんが、私は視点の持ち主は以下のように変遷していると思っています。
1.PSFワールドin直後:VRChatプレイヤー並びに未来人(「夏」の実感。)
2.球体3つをセット→核攻撃→インスタンス脱出迄:VRCプレイヤー。
(「インスタンス」という単語が出てくる。)
3.再度ワールドin→トンネルを抜けてきのこ雲見る瞬間迄:VRCプレイヤー
4.直後、未来のサテライトに戻ってから電源オフまで:リプレイで動き実際に作戦を遂行しているM8PRの視点
5.ムーンベースで目覚めてから:VRCプレイヤー
ムーンベース以降は成功すればこうなる筈、とFASとLupiからのお礼とネタ晴らしをVRCワールドに仕込んだモノ
6.クリア後砂浜:VRCプレイヤー
4のタイミングが肝で、このシーンのみFASはVRCプレイヤーではなくM8PRに話しかけています。
※「あなた達はすでに死んでしまった人たちの記憶をリプレイしてこの施設に侵入している~」の下りなど。
蛇足
もやもやしていた方が多少なりともすっきりしましたら幸いです。
とはいってもこれは全て私の解釈なので、正解は公式からのアナウンスを待ちましょう。
おおよそ二年間弱のツイートまで伏線となっているwebとVRCを舞台にした壮大なインスタレーション作品だと思います。素晴らしい作品に拍手と感謝を。
かいたひと Mazzn1987