1111②

第一話はこちら


23:30ごろ、宗田の自宅に着いた。消防隊と救急隊はもう帰っていて、警察が現場検証を行っていた。いろいろな質問に答える。警察はまだ、実家のほうに連絡はしていないと言った。
「貴女から電話しておいてください」
「え・・・無理です。絶対絶対無理です。警察から電話していただいて、それを私に連絡してください。そのあとで私から電話をします。第一報を私がするのは・・・本当に絶対、無理です」
「わかりました、では、署に戻って担当者から電話します。まだ現場検証が続いているので、深夜になるかもしれませんが、お待ちいただけますか」
なんてひどい提案をするんだろう。どちらでもいいなら、警察から第一報を入れるのが人情というものではないだろうか。どうして、私から電話することが可能だと思ったのだろう。私だって遺族なのだ。
私に事情聴取をしていた刑事は、引き続き事情聴取に戻っていった。深夜の住宅街にも関わらず大きな声で話す警察に、私は苛立ちを覚える。それが業務上利便性が高い音量なのはわかる。が、ただでさえ住民や大家は騒ぎによって不安を覚えているのに、深夜24時も近いような時間に話す音量ではないだろう。
「あの・・・夜も深いので、もう少し静かにしてください」
「えっ?」
「ですから、もう遅い時間ですし、ご迷惑ですから、もうこの時間は声を抑えていただけますか」
「ああ・・・。」
声量は小さくなったものの、了解する旨や謝罪の旨といった返事は、無かった。私はもはや苛立つ気力もなく、声量が下がった結果だけで納得しようと努める。なんだかよくわからないが、その無言の返答は、とても不誠実だと思った。女性で、遺族で、路上で次々に煙草を吸うような人間に、道徳を解かれたのが納得できない顔をしていた。私は、湧き上がる言葉を飲み込むためにまた煙草に火をつける。決して実際に言われたわけではないけれど、警察の無言の返答に”もっと迷惑なことしてるやないか”という非難めいたものを感じ取り、でもそれは実際には言われていないのだから結局私の内面から出てきたものであることに思い至り、また落ち込んだ。
もういいや、黙って終わるのを待とう。世界への違和感が今の私には少しも耐えられないと思った。また煙草に火をつける。7分かけて吸い上げたらまた次の煙草に火をつける。煙草越しでないと息が出来ないと思い、黙々と吸い続けた。友人への事情聴取が続く。18時半から数えて3箱目の煙草が無くなった深夜25時。警察が解散の旨を告げる。
「現場の保存のため、まだ室内には入らないでください。検死と現場検証が完了し、入室できるようになればまたご連絡いたします。我々は署に戻ります。病院にはご本人様はもうおらず、科捜研のほうに移送されますので、今夜はご本人様とはお会いできません。ご帰宅ください。」
こうして私と友人たちは終電の無い深夜の住宅街に放たれた。

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