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『希望の町』ミュージカルショートムービー製作〝友情〟裏話
ミチロー監督と一問一答:まぁやれるやろ!
【はじめに】 僕は高井道郎を〝ミチロー氏〟と呼ぶ。そんな仲だ。どんな仲だ? サンフランシスコで、危ないミッション地区で、同じにシェアハウスに住んでいた仲だ。奇妙な時代を共にした。道の反対側はワイルドなディスコで夜も騒がしかった。階下にはアラブ人たちがいて、何度か酒盛りに引き込まれタイコを叩いた。ミチロー氏は朝起き抜けに「ヨセミテ行かへん?」と言ったりする男だったのだ。「お!いいね!」と二人して雄大な国立公園まで泊りがけのクルマ旅に出たさ。一緒に引っ越し屋のアルバイトをしたこともあったな。そのうち僕は広告代理店のカメラマン職を見つけ、ミチロー氏はニューヨークに渡った(ギター弾きをやっていたと聞く)。何年前のことだったか忘れた。けしからんこともいろいろ知っている仲なのに、ミチロー氏はこの〝茶のみ対話〟前に「偉い人も読むかもしれへんから、言動には気を付けようか」などと言うのだ。いやいや、面白くしなきゃさ、ミチロー氏?!
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――で? 3年間かけてミュージカルショートフィルムを作り終えて、いまなにを一番に感じてる?
感謝しかない。ほんま「おおきに」のひと言。関わってくれた全員に頭下げたいわ。
――ほほう! ずいぶん殊勝だね?
そりゃそうや! そういうもんや。キヨ君もやってみればわかる。
――ミチロー氏は『希望の町』の監督なんでしょ?
編曲も編集もボク。なんでもかんでもやったな。資金集めもしたし、いろんな許可取ったりとか。なんにせよひとりでできることやないから、全員に「おおきに」や。
――ミュージシャンのミチロー氏が「ショートフィルム作る」って言いだしたときは、ちょっと驚いた。完成作品を観ると、きれいな画もあるし。がんばったね。
一般公開前に観てもらった人たちから「大変でしたねぇ」言われるなぁ。
――僕もさ、ずいぶん大変な方法を選んだなぁって思ったよ? 全編ロケ撮影だし?
そうでもないんやないかな? スタジオでやるのも楽なわけやないよ? 大きなところは借り賃も安うないし。
――にしても、これだけの大人数の移動、機材天気弁当お茶――ロケは大変だよ。ロケハン(撮影場所選び)とかもさ。
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ロケハンもボクがやった。〝地元の風景〟をバックにしてダンサーたちが踊るのを撮りたかったのが、まずひとつあったし‥‥‥そやな、まずいきさつ、話しとこうか?
――だね。僕も詳しく知らないし。読む人が飽きないように面白いことも話してよ?
ああ、そんな話もあるある。(笑)
■ まぁ〝村〟やな
――発端は親父さんの急逝ってことだったよね?
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その前に、2020年4月、コロナ緊急事態宣言が発令されたとき、〝先生〟(ミチロー氏は父君である高井良純氏をそう呼ぶこと多し)は、新作ミュージカルを手掛けているところやったんよ。
――当然中止だね~。
頓挫や。一年先の上演ホールも抑えてたし、曲も書きはじめてたし。全部が止まった。
――世間はあのときお先真っ暗だったね。
そう、いつまでつづくか、世界がどうなるのかわからんかったし。それでボクが、団員を励ますための先生のメッセージをiPhoneで撮って、みんなに送ったんよ。先生がピアノ弾いてるところを撮影してな。簡単な編集もしてな。そんでもコロナでどうもこうもならんから、上演できんのなら「ミュージックビデオみたいなもの作りましょか?」みたいなことを、ボクがチラと言ったんや。先生は「お前にそんなことできんのか?」て、笑っとったけどな。
――ちょい待ち。知らない人も読むと思うから、親父さんの高井良純氏、そもそもどんな人だっけ?
キヨ君会うたことあるやろ? 親父のミュージカル『御堂筋ストーリー』観に来てくれたとき?
――大阪中之島のでかいホールだったね。親父さんはミチロー氏と「双子か?」的な白髪紳士だった。
そんな似とらんわ! 親父は元宝塚歌劇の音楽家。作曲家や。同時に自分でミュージカル劇団やっとった。
――すごい方だったんだね~。
大学の卒業制作で、オペラの全編モノ作曲しとるしな。地元の有馬地方の活性化のために、劇団3つも4つも立ち上げて、長年活動しとったわけや。
――オペラ全編とかって話は、映画『アマデウス』のモーツァルトとかサリエリとかしか思いつかないけど、天才の所業っぽいね。
そんなん普通の人に言ってもわからんよ? 書くん?
――興味ある人もいるかもしれないし。で、急に亡くなって、ミチロー氏が劇団の後を引き継ぐことになった、と。JMAって名前だったよね?
そう、日本ミュージカル研究会。引き継いだいうても簡単な話やなかった。団員も大勢おるし。もう、急なことやったし、すぐ決めなならんかったし、葬式の場で発表したわ。「劇団は存続させます」て。妹(上松さや花氏)も、「お兄ちゃんがやるなら、やる」って言ってくれたしな。共同代表や。けど簡単な話やなかったでぇ! ちょっとゴメンな‥‥‥涙出てくる‥‥‥。
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――まぁ泣かないで。話が〝村〟からはじまるのは、そういう意図?
そういう意図ってどういう意図ですか~?(笑)
――ウソ泣きかい?! いや、親父さんの〝地元愛〟を引き継いだと?
そうやな、地元愛やな。ショートムービー作るんなら、地元を使ったロケしか頭になかった。有馬地方の、昔の〝山口村〟。有馬温泉の入口やな。親父のことを知っとる地元の人たちの協力があればできるやろうと。撮影許可取ったりで、地元の人たちの助けがなかったら絶対できんかったな。
――〝やる〟って話はクラウドファンディングの前にチラと聞いていたけど、クラファン、いきなり予定額達成したよね?
ありがたかったわぁ! 「おおきに」や。あれで〝流れ〟に乗った感じやな。ぜんぜん知らん人たちも協力してくれたけどな。親父の人脈、長年の功績があってこそや思う。有馬温泉もコロナで火が消えたようやったし、なんかやって地元に貢献したかったしな。映像作品撮るのはある意味必然やった。
――そこからタイトルは、コロナ禍での『希望の町』?
劇団名が『希望』ていうのもあるけど、まぁそうやな。こういうもの今までだれもやってないはず。あっても舞台をそのまま撮影したものやろう。こんなふうに劇団のダンサーたちが大勢、外の光の中で、衣装つけて、踊りまくっとるのなんて〝初〟や思う。親父もやっとらんことやしな。
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■ まぁやれるやろう!
――「監督やる」はいいけどさ、ミチロー氏はそもそもミュージシャンじゃない?
そうや、映像は素人。
――でも玄人はだしの作品になってたよ。きれいな画があちこちにあって、感心した。
キヨ君にそう言ってもらえると嬉しいわ。
――やっぱりニューヨーク生活で培ったって感じ? マンハッタンの音楽シーンに生きてたわけだし、ブロードウェイとか、いろんな感性吸収してたんだろうね?
いや、ないやろな。
――ないんかい!
ないやろ。映画は好きやで?
――森の空撮とか、自分で撮った素材でしょう? 水とか、夜桜とか、紅葉とかもさ、自然描写のカットがあちこちうまい感じではまってたけど、カメラマンはどうしたの?
カメラもやる団員や。
――団員か!?
素人やないな。器用なんや。ドローン撮影も「まぁやれるやろう」で、レンタルしてやったわ。一回テストしてみてな。山でも海でも「こんな画が欲しいな」というのになんでも挑戦した。山はちゃんと借りて。
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――勇敢だよね~、無謀だよね~。
やれんことないやろ?!(笑) 人が集まればなんとかなるわ。宝塚市はやっぱり〝芸〟が盛んなところあるからな、いろんな技術持った人たちがようけおる。ダンサーかてそうや。
――あ、作品内容に移ろう。ダンサーのことで聞きたいことある。
■ 飽きさせんことや
――短編6本のオムニバスで、〝少女の見た夢〟って全体のプロット構成は、黒澤明の『夢』が元ネタだったりする?
せんな。
――せんのかい!
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少しはあるかもしれんけど、そんなん言うのおこがましいわ。先生の上演作品のな、『有間皇子物語』いうのがあるのや。それ全部は無理やしな、ブツ切れでも、〝夢〟ってことでつないだんや。巻貝を象徴にして出して。冬の寒い日に、少女が居眠りするシーンを最初に撮影したなぁ。
――あの木のそばのやつだね。〝夢〟の中に入ると、紅白の反物が敷き詰められて女の子が寝転がってたり、グルグル回ったり、凝った映像になってゆくけど、全部ミチロー氏のアイデアなの?
そう。「こんなんしたいなぁ」、「できたらいいなぁ」を、「どうやろう?」、「こうすればこうなるかなぁ」いう具合で進めた。みんなでな。
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――最初の『ある村で』が明るいカラフルな衣装でさ、次の『温泉旅行』もノリがコミカルで、ちょっと意外だった。出だしはもっとカッコつけてくるかと思ってたからさ。インディー作品って、カッコつけるのありがちだし。
いろんなもののゴチャマゼにしたかったからな、あんな導入。『温泉旅行』の「入浴、入浴♪」ってとこ、わかった人もおったな。キヨ君わかった?
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――ニューヨークでしょ?
ジーン・ケリーの名作ミュージカル映画のパロディなんや。『踊る大紐育』。音そのまま使うわけにはいかんし、似たようなメロディーをボクが作った。カッコつけてもおもろないやろ? とにかく〝飽きさせんように〟いう、テンポ重視。そこは舞台と同じなんや。
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――グループダンスシーンだけど、ダンサーの女の子で、ジュッテ(両足を前後に大きく開いたジャンプ)をずいぶん高く跳んだ子がいたんだけど、あれクラシックバレエの子? 劇団四季『ライオンキング』のガゼルくらいに高かった。
ああ、そんなとこ見てくれてうれしいわ。あれはバレエの子やな。いろんな人がおるんや。できる人たちが。
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――振付は妹さんのさや花さんでしょう? 全部が全部?
そう。他になんでもやってくれたわ。制作総指揮。
――さや花さん、ミュージカル女優だよね?
我が妹ながらよう出来る人なんや。芝居も歌もダンスも、タップも指導するしな。女性の多い世界やから、さや花がうまいことまとめてくれるんはホンマに助かってる。ボクが編曲で困ってるときは意見くれるしな。厳しいところは厳しいよ?
――そりゃ、〝芸事〟の世界だし、モノ作りはすべて〝精進〟の積み重ねだものね。衣装とかずいぶん凝ってたけど、そこは衣装デザイナーとかいるわけじゃなく? 金もかかってそうだわよ?
みんなでアイデア出し合った。みんなようやってくれた。それなりに費用もかかってる。衣装は大事やからな。演技も踊りも気合が入るし。けどな、舞台のときとフィルムのときと、衣装の〝見え方〟というか〝意味〟がちょっと違うなぁ――的なことは悩んだ。衣装博物館から借りた本物もあるよ?
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――後半のやつだね?『夜桜』とか、古代っぽい豪奢な衣装だったねぇ。
あれはさや花がデザイン決めて作ってもらったやつ。カッコよく撮れてた?『村人とやんごとなきピープル』にいろんな人が出てくるやろう? あそこは本物の衣装たくさん使ってある。祭りとかで使うやつ。高価なものを快く使わせていただけた。
――『夜桜』好き。夜間ロケ撮影で雰囲気たっぷりだったけど、照明はどうしたの?
あれは本職の人。舞台照明家の人が、あのロケ場所のお寺のご住職で、全面協力してもらえた。
――ほう? ライティング和尚? どっちが本職? ライティング? 和尚?
どっちやろな。どっちもやろ。親父の古い〝仲間〟の人で、京都の福知山市にあるお寺で境内の桜を毎年ライトアップしてはるから、そこで撮らせていただいた。いつも甘えさせてもらってる。ありがたいことや。ウチの檀家寺でもあるし、頭上がらへんよ。
――桜きれいに撮れてたよね~。
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カメラマンが「夕暮れのあと15分間の空が濃紺できれい」て言うから、そこを狙ったんやけど、そんなうまく行くわけないわ。(笑) 日舞の先生に遅くまで踊っていただいた。舞台とフィルムと、照明は質が違うんやけど、ご住職は電子工学の専門家やからな、工夫してもらってなんとかなった。それにあの年は桜が少なかったんやけど、編集で手を入れてなんとかしたな。
――なんでも〝なんとか〟してるねぇ。短めの一編にきれいにまとめてあるのがよかったよ。舞も質が高いし。みんなノーギャラなんでしょ?
そう。だからこそこんなの作れる。集めた資金は制作に使わんとあかんし。けど演者もクルーもノーギャラやからこそ〝いい加減に作るわけにはいかん〟という面もある。団員は全員出てもらうことに決めてたし、みんなの〝いい時間〟にもしたいしな。まぁ、怒鳴ったりしてしまったこともあった。反省や。
――言うならさ、そういう〝出資の回収をまったく視野に入れてないモノ〟ってのがさ、観る価値あると、僕なんかは思うわけなんだよね。人のピュアなパッションが集まってできているわけでさ。予定調和ではない、売らんかな主義でない、PV集めるために〝媚びた〟ものでもない〝純粋さ〟がね。アヴァンギャルドだしアートだよ。これ読んでから観直してもらえば、たぶん違うものが見えてくると思うよ?
そういう意味ではあまり忖度はしたくなかったな。協力者への感謝はあっても。
――回収の目途、ないでしょ?
ないなぁ。編集に手を入れた『完全版』を作ろうとは思うけど。もう少し尺長くしての上映とか、短くしてスポットにとか、ナニヤラな考えはないこともないけど。
■ 忖度はしたくなかったな
――ポストプロダクション(撮影後の作業)の火花とか隕石とか、ずいぶん自分勝手なことやってるね? ポスプロも全部ミチロー氏ひとりなんでしょ?
そうや、全部ボク。
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――『なんか飛んできた』は特に自由なことやってたねぇ? 白黒だったり色調変えたり。ピンクとグリーンがサイケデリックで、エレクトリックで、親父さんとは関わりない〝ミチロー氏の味わい〟を感じた。
どこ? ピンクとかあったかな?
――あったわ! サイケSF映画っぽくなってたシーンあったじゃん?
ああ、あれはAI使った。なかなか思い通りにいかんのやけど、なんとかなっとった?
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――うん、僕はあれが一番ミチロー氏らしいと思って好きだった。ビル街とかコンクリートの雰囲気とか、やっぱりニューヨーク生活の影響あったんじゃない?
ないなぁ。
――あるって言ってよ!
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(笑)意識はしてないなぁ。「こんなんしたいなぁ」、「なんとかできんかなぁ」ばっかりで、YouTubeとかいろいろ調べて、結局編集に一年かけた。たくさん撮影したから、一時は尺がどんどん長くなってしまいそうやったけど、考え方を変えて、最終的に30分に収められたのは、良かったと思う。
――あそこのリードダンサーやった女性、金髪ショート。蜘蛛女みたいな動きの。迫力あって大好きだな。筋肉鍛えてるし、僕のイチ推し。もっとたっぷり観たかった。
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キャラ濃いやろ? あれにはタップも入れてるしな。人数多いし、衣装も揃えてるし。けど舞台とはまた違う見せ方を意識した。長いだけではあかん。ロケ場所のひとつは手塚治虫記念館の横なんよ。レオ像の前足の先だけ映ってる。全体は見せられない。著作権あるし。
――地元の人にすると日常の風景だから、〝非日常〟的な感覚があるだろうね。最後の『海とお姫さま』、きれいな画があるし、彼女、歌うまいね? なんで?
知らん。
――知らんとか言う?!
練習してくれたんやろ。(笑) 本人に言っとくわ。喜ぶよ。音に関しては、ボクは熟知している方やと思うから、それなり以上の処理はしてあるけどな。観る人によって見るとこちがうなぁ。音楽家の友人なんかはやっぱり音に関するコメントくれるし。
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――僕は写真やってたし、絵を描くからね。きれいな画がいくつかあればそれだけで認める。あの、海辺の彼女の立ち姿がさ、風になびいた羽衣の感じとか、うまいこときれいに撮れてたねぇ。
何度も撮ったなぁ。うまいこといったんは一回だけや。白良浜(和歌山県白浜町)で一日で撮った。朝4時に着くように家出て。
――クルーは何人?
あそこは演者がいて、他に6人やったかな。トヨタ・ハイエースと、一人は中型バイク。みんなで羽衣をなびかせてくれた。
――ロケはやっぱ大変だ。
あれの撮影許可取るのに何カ月もかかった。当日撮ろうと思っていた砂浜に修学旅行生が大勢来て、足跡だらけになって使えなくなったし、熊手でもあればみんなで直したんやけど、そんなん持ってなかったし。天気がもっと良かったらって思いもあるし。
――あれ? 案外青空だったんじゃない?
後処理で直したよ。とにかく全部の色処理が大変やったな。カラーグレーディング言うそうやけど、映像は素人やからな。雨に降られて出直したことも二度、三度あったし、予算があれば天気のいい日に再撮したいところもある。西宮市のゆるキャラ〝みやたん〟も、あんな小さい青い人形やなくて、本物の着ぐるみ着て妹が思い切り踊るつもりやったんや。
――さや花さんが? そりゃおもしろくなっただろうね。見たかったね~。
惜しかった。とにかく、コロナでできんかったこと、残念なこともたくさんあるし、細かい事言うたらキリないわ。ここのタイトルは『お姫さまと海』のほうがよかったかな?
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――ゴロで言えば『海と~』のままがいい。
そうかな?
――やっぱり細かい事悩みまくってる~!
■ どう? またやりたい?
――ディテール詰めたらキリがない。よく完成させた。
ほんまキリない。撮影や演技指導ではみんなの意見も聞いたけど、編集と特殊効果はボクの自由にやった。そうするのが監督の責任みたいに感じてた。
――それは正しい。もっと奇妙なことやっちゃってもいいくらいだと思う。
そうかな?
――役所が公的に作った凡庸な地域紹介ビデオなんかじゃないわけだからね。〝ミチロー監督作品〟にするのがいいし、そうなってるよ。
そうか? 出資者や演者への敬意も感謝もあっても、〝変なもの〟にしたいていうのは編集段階で譲らんかった。その分自分を追い込んでしまったわけやけど。
――でさ、最後に聞かせて?
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はい、なんでしょう?
――〝当初の目的〟があったわけだけど、それは達成したとして、3年かけて作っている間に、どんなこと考えた? 別の目的が生まれたりしたんじゃない?
キヨ君変なこと聞くなぁ‥‥‥そうやなぁ‥‥‥生まれたかもしれんなぁ。
――なに?
大げさなようやけどな、これを完成させるまでは死ねん――てことなんよ。コロナの前に一度大病して、一カ月間入院してたことあって、実は指もよく動かんようになってるんやけど、編曲とか頑張れたしな。どう言うのか‥‥‥これを最後まで作ることが〝運命〟だったような気がしたかもしれない。
――なるほど~。
たぶん感じたのは、生きてるうちになんかやり遂げること――なんやろうな。親父もやっとらんことをやれたという少しは誇らしい気持ちもあるけど、主役は親父の曲なんや。親父の大きさをあらためて感じることができたし、いろいろ得たものは大きいと思う。
――親父さんの遺した膨大な譜面も、人脈も、ミチロー氏たち兄妹に託されているわけだものね。また、やりたい?
やりたいかも~。ていうか、とりあえずは劇団の次の舞台ミュージカル、練習始まってるから、それを上演するまでは「死ねません!」いう気持ちでおります~。(笑)
――いいじゃん、笑っとこう。『希望の町』の決まってる上映は?
実は今日(11/05 '23)、YouTube一般公開と同時に、初めてホール上映させてもらった。西宮文化祭で。
――どうだった?
いやぁ、緊張したわぁ! 心臓に悪いな。長いエンドロールが終わったところで、観客の皆様に拍手してもらえてなぁ‥‥‥初めてホッとしたんや。涙出たわ。
――いい話で〆るんかい! ミチロー氏らしいからいいけど、ふふふ。
<幕>
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