迷信に惑わされない強い女のドライヤーは火花を散らす

黒猫が前を横切った瞬間、反射で、「よっしゃ、今日は絶対不幸な1日にしてやんねーかんな」と思った。清々しいまでのへそ曲がり。

「人間は幸せになるために生きてきた」とかの感動ポエムを見たら、「じゃあ心おきなく不幸になってやらぁ」と思ってしまう。人の思い通りになるのを極端に嫌いすぎ。
その点黒猫が横切ったりなんかしたら、その1日を幸せにしてやりたくて仕方なくなる。「見たか人間ども」と。「お前らは昔っから黒猫が横切ったら不幸になるだのなんだのと言うけど、ピンピン幸せに生きてる私を見ろ。間違っているのはお前らだざまあみやがれ」とばかりに幸せになる方法をめちゃんこ探した。

ただ、「幸せな1日にしてやんぞ」と思った時間が悪かった。18時半。もう1日半分終わっとるやないけ。
過ぎてしまった時間はしゃあないので、こっから巻き返そうとする。とりあえず帰宅してすぐ風呂。急用ってわけやないしな~と放置していた未読LINE、一斉に返信。「今度また~しよ!」っていうLINEには基本、「またな~」と返すところ、今日の私は一味違う。「おっけ! いつやったら空いてる?」。これよ。この違い。私は出来る限り家から出たくないから、友達からの誘いも片っ端から断るし、行かなくていい理由を考える。けど今日は違うぞ。何てったって私は今日「幸せな1日」を過ごさんといけんので。「幸せな人」は、友達の誘いを断る言い訳を考えたりしねーので。
一通りLINEを返信し終わったら、晩飯の献立の予定には入ってなかったけどエンドウ豆を茹でる。塩茹で。「幸せな人」は、晩飯のメニューを臨機応変に追加できるので。
ちょっと多くなった晩飯を準備して、濃いめのハイボールを入れて、それでもう今日は十分「幸せ」。見たか、人間ども。お前らの言う迷信なんてこんなもんよ。自分の不幸を何かのせいにしたいがばっかりに、可愛い黒猫に罪を押し付けやがって。口が利けんからって弱者に全てを押し付けやがって。何が黒猫だ。黒猫が横切った私を見てみろ。こんなにも「幸せ」やぞ。

そんなこんなで食って飲んで「幸せ」を噛みしめていたら、ドライヤーが火花散らしてぶっ壊れた。
そんなことある?
いや、お前。まだ買って1年経ったか経ってへんか、そんくらいやろ。何を「酷使されました!」みたいな演出でぶっ壊れてくれてんの? 乾かすのが一生分の体力使うくらい、私の髪の毛は剛毛か? あ? 言うてみろよ。文句があるんやったら言うてみろ。火花なんか出してねーでよ。もううんともすんとも言わんようになりよったやん。なんだてめえは。こんなくそ汚部屋の中から、保証書探してこいって言うてんのか? ええ度胸しとるやんけ。

迷信なんて信じてない。けどもうここまで来たら、多分黒猫は科学的な根拠に基づいて「不幸」を運んできてんとちゃうか。黒猫から微弱なフェロモン的なものが出ていて、それを吸い込んだら無意識のうちに「自分が不幸になる」動きをしてしまうとか。そういうのでもなければこの現象に説明つかんやろ。
私は絶対にこれを黒猫のせいにはせんけどもさ。それにしてもよ。こんな急に壊れられたら困るわ、ドライヤー。明日から風呂上りどうしよう。

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