【Part1】「怖い話」を緩和していけば「面白い話」になるのか?

「面白い」と「怖い」は紙一重である。

……みたいな話は結構有名なんやけど、詳しくはググるかこっちの記事で。私のnoteを伸ばしたくない人はググッてね。
もし、「面白い」と「怖い」が同じ軸にあるとするならば。
「怖い話」のチューニングをずらしていけば、「面白い話」になるかもしれないな?

と、いうわけで「怖い話」もどきを書きました。サクッと書くつもりが4000文字超えの大作になってしまった。

今回書いたのは「怖いコント」みたいな話。最近ハマってるもんで、芸人じゃないのに作りたくなってしまった。何度も言うけど「芸人じゃないので」、これが面白いかどうかとかコントであるかどうかとか、そういうツッコミは大丈夫です。あくまで「怖いコント風」ね。

ちゃんと説明しておくと、最初は普通のネタっぽい感じで進み、最後で怖い話になる……といった雰囲気。もちろんこれが「怖い」かどうかもツッコまないで。ごめん。打たれ弱いの、こう見えても。厚顔無恥甚だしい顔に見えるかもしれんけど。

というわけで、次回はこのお話の「怖い要素」を緩めていくことで「面白い話」にできるかどうかやってみる。

<親友>


〇薄暗い部屋
   登場人物はここでは仮にAとBとする。
   二人とも30歳前後。
        A、足を伸ばして座っている。B、床に胡坐。
B「ねえ、風呂入った時、頭先に洗う? 体先に洗う?」
A「うーん。お前は?」
B「体かな。初手で顔が濡れるの嫌だし」
A「風呂入ってる時点で一緒だろ。俺は頭かな。意味はない」
B「ふーん。でもさ、頭先に洗うとさ、体洗ってる間に冷たい水滴が髪の毛からさ、落ちてくんのが嫌なんだよ」
A「まあそれはあるな。でも、何で急にそんな話?」
B「いや、何となく。聞きたくなっちゃって」
A「じゃあ俺も質問するわ」
B「いいよ」
A「もし100万円あったらどうする?」
B「今更そんな話?」
A「いいじゃん。夢があんだろ?」
B「そうだなぁ。とりあえず、食うかな」
A「美味い飯を?」
B「いや、金を」
A「は?」
B「だってさ。お前、万札の味知ってっか?」
A「知らねえよ。知るわけねえだろ」
B「知っときたくない?」
A「思ったことねえよ」
B「そっかぁ。俺はさ、多分さ、今俺は、金の中で一番価値のある奴を食ってるんだーっていう気になって、めちゃくちゃ美味しいと思うんだよ」
A「さっきから何言ってんの?」
B「天ぷらなんかにしたら意外と食えると思うんだよね。パリッとしててさ。海苔天みたいな。100枚も万札あるんだったらさ。1枚くらい食ったっていいでしょ?」
A「……まあ、使い方は自由だけど」
B「そういうAはどうなんだよ?」
A「そうだなぁ……やっぱ俺は、家建てたいな。便利な家」
B「へえ、例えば?」
A「廊下が自動で動くんだよ、スイッチ一つで」
B「それ、100万で足りんのかな」
A「全部平屋にしてさ。なんなら部屋ごと動いてもいいな。ほら、立体駐車場で車がエレベーターみたいな部屋に入って動くやつみたいな」
B「いよいよ足りねえんじゃないかな」
A「足りないかぁ」
B「でもさ、俺さ、もしお前がそういう家建てたいっていうならさ、俺の100万あげてもいいよ」
A「なんで二人とも100万ゲットしてる計算なんだよ」
B「いいじゃん、夢はでっかくでしょ?」
A「まあな。……って、こんな話したって、もう意味ないのにな。まさか俺達の街が、ゾンビだらけになっちまうなんて」
B「まるでアニメみたいだよね」
A「俺らがまだ見つかってないのが奇跡だよな。たまたま食料庫に逃げ込めたのも奇跡だし」
B「でも、もうすぐ食料尽きちゃうね。食料庫のくせにあんまり貯蔵されてなかったし」
A「そうだな……もし食料尽きたら、どうするんだ?」
B「分かんない。その時考えればいいよ」
A「だから、もう『その時』なんだよ。呑気だなお前は」
B「なあなあ、また質問していい?」
A「なんだよ」
B「もしも、もしもさあ」
A「うん」
B「ここから出て、元の世界に戻れたら、何したい?」
A「そうだなぁ。まずはアレかな、ゴッドタンを見たい! ここ来て大体一か月……くらいだっけ? そうなったら、四週間分、四本は溜まってることになるからな。後は、ちゃんとした風呂にも入りたい。やっぱ温泉なんかに浸かれたら最高だよな。あと、そうだな……いや、やっぱ変な期待するのはやめとこうぜ。悲しくなってくるよ」
B「そうだね。やめよっか」
A「うん」
   B、 おもむろに立ち上がる。
B「じゃ、俺ちょっとまた視察に行ってくるよ。今日は酒持って帰ってくるの目標!」
A「お前ばっかりに行かせて悪いな」
B「大丈夫、親友だろ?」
A「ああ、そうだな。ありがとう。よろしくな」
   B、 階段を上がって姿を消す。
A「はぁ……あいつには悪いことしてるな。いくら親友だからって、あいつにばっか危険な目に合わせるなんて。俺は友達失格なのかもしれない……ほんと、この一か月安心して生きられたのも、全部あいつのおかげだよ。あいつの即座の判断で、俺達はここに来られたんだし。まさかあんなに世界がパニックになるなんて……もし逃げ遅れてたらって考えたらゾッとするな……」
   B、騒がしく戻ってくる。
A「うお! びっくりしたぁ……静かに帰って来いよ、状況分かってんのかお前」
   B、何やら階段の上で騒がしく右往左往する。激しい金属音と共に火花が飛び散る。
A「おいおいおい何やってんだよお前!」
B「いやー、ごめんごめん。ちょっと追いかけられちゃって。もう大丈夫」
A「大丈夫って、ほんとかよ……押し入られたりしねえよな? 俺すぐには逃げらんねえよ」
B「うん、もう大丈夫。そうそう、今日はなんか近場で酒が手に入っちゃって。はいこれ」
A「ゾンビに追いかけられた後だってのにさっぱりしてんな、お前……何これ。なんかすげえ高そうじゃない?」
B「高いよ多分」
A「すげー。こんなの金払わずに飲んじゃっていいのかよ。……なんか、俺はあの後この部屋から出てないから、全然実感湧かねえや」
B「あ、駄目だよラッパ飲みは!」
A「なんでだよ」
B「風情が無いだろ!」
A「この期に及んで風情とか関係ねえだろ」
B「駄目だって! ほら、ちょっと待って」
B、奥に走っていってグラスを探す。
A「もういいだろー、今更。回し飲みすりゃいいじゃん」
B「駄目だってばー! 盃交わさなきゃ」
A「言い方気を付けろよ」
   B、盃を持って帰ってくる。
B「あった!」
A「なんでほんとに盃あるんだよ。そんなのちょっとずつしか飲めねえじゃんか、めんどくせえ」
B「はいはい、これ持って。(B、酒を注ぐ)はい、かんぱーい!」
A「風情はどうしたんだよ風情は。こういうのはなんか、知らねえけど、なんかこう、静かにこう盃を掲げて、目線をこう交わして会釈したりし……先に飲んでんじゃねえよ!」
B「うわー、うめえこれ! やっば! とろっとしてる! そういやさあ、昔給食の時間に八宝菜出たらさ、『うわ、鼻水だ!』っていう奴一人はいたよね」
A「なあ、今その話いるか? なあ。今絶対要らなかったよなその話」
B「ところでさ、さっきの話の続きなんだけどさ、質問していい?」
A「なんでもしろよ質問くらい」
B「もしも、もしもさ。この部屋の外は、今までと同じ世界だとしたらさ、どうする?」
A「それはさっき言っただろうが。俺はゴッドタン見て、温泉浸かって、美味ぇ飯を食うんだよ。でももうやめろよその話は」
B「じゃあさ、じゃあさ、この状況が、全部俺の嘘だったらどうする?」
A「……は? 何言ってんの? それでも一緒だよ。その代わり、お前の頭をぶん殴るってのが追加されるだけ」
B「じゃあぶん殴っていいよ」
A「何の意味もなく親友を殴る奴があるか」
B「だって嘘だもん」
A「……は?」
B「ゾンビなんかいないよ? 全部俺の嘘。このドアの向こうは、Aが知ってるいつも通りの世界」
A「……お前ほんと嘘ばっかつくんだな。……ん? どっちがほんとでどっちが嘘なんだよ」
B「ゾンビが嘘。いつも通りが本当」
A「は? 待て待て待て、は?」
B「Aさ、人生にさ、未練ある?」
A「は? あ、あるよ、当たり前だろ。だから言ってんじゃねえか、ゴッドタン見れてねえって」
B「俺さあ、無いんだよね、未練」
A「な、なんだよお前、いきなり……」
B「あるとしたらさ、親友のお前を残していくことだけなんだよね。小学校の時からずっと一緒でさ、いつまでも親友でいようなって言ったじゃん? もし俺が先に死んだらさ、その約束破ることになっちゃうじゃん」
A「お前、何言って……」
B「いや~、でも一個誤算だったな。今からでも未練ないってことにできない?」
A「な、なるわけねえだろうが!」
B「だってさ、俺ずっと見てきたもん。Aだってきっと、この先生きてたって辛いはずじゃん。Aが事故で義足になってからさ、恋人にはフラれるし、歩くのも大変だし、趣味のフットサルも出来なくなったし、夢だったスキューバの資格だって取れなくなったし、毎年行ってたスキーだってもう行けないじゃん」
A「やめろよ……」
B「俺もさ、もう辛いんだよ。親友がそんな目に合ってるの。Aは何も悪くないのにさ」
A「それは俺の問題だろ! ……さっきからなんなんだよ、お前おかしいぞ? あの日のことが嘘だったとか言って。あの日俺らはパニックの中この中に逃げ込んできたんじゃないか。じゃああのパニックも嘘だって言うのか?」
B「あのパニックは本当だよ。あの日、俺達の職場の近くで無差別事件があったんだって。そのパニックを見てピンと来たんだよ。あ、このパニックに乗れば、なんか上手くいくんじゃね? って」
A「な、何が上手くいくんだよ!」
B「俺さあ、Aの親友なのに、Aのこと何も知らなかったんだよ。だから、心行くまで一対一で喋りたかったの、Aと。でも今更そんな時間取れないじゃん? だから、街がゾンビでいっぱいになっちゃったことにして、一か月間心行くまでAと語り合ったってわけ」
A「そ、そんなことしなくても、いつでも俺は話くらいするよ……」
B「いや、しないね。俺親友だから分かるもん。Aはいつも、喋ろうって言ったって喋らない。喋らなきゃいけない状況にしなきゃ喋らない」
A「そんなことねえよ……」
B「俺さ、今度会社クビになるんだよ。俺この会社でAと頑張ってきたのに、ここで別れるの嫌だしさ。それに、俺馬鹿だから。仕事クビになったら、次無いと思うんだよ」
A「お前はいっつも極端なんだよ」
B「それにさ、俺さ、こないだ聞いたんだけどさ、親父がすっげえ借金なんだって。親父が生きてる間じゃ返せないくらいの借金なんだって。もしかしたらそれ、俺が返さなきゃいけなくなるかもしれないんだって。なんか俺サインしたらしいんだ、覚えてないけど」
A「いつも言ってるだろ、サインとか印鑑押すときはちゃんと中身見ろって……」
B「Aは優しいな~、やっぱ! でさ、俺思ったんだよ。そういや俺、もう別に生きてなくてもいいんじゃね? って」
A「そんなわけないだろ。お前はずっと生きてなきゃ駄目だよ。俺がいるだろ。親友なんだろ? 俺を残して死ぬなんて駄目だって」
B「いやー、だからさ。一緒に死のうよ」
A「は!? 何言ってんだお前!」
B「俺、このまま生きててもつらーい。お前もこのまま生きててもつらーい。俺達、親友。よし、一緒に死のう!」
A「馬鹿馬鹿馬鹿、極端なんだよ! 待てって、ほら、この世界がほんとにゾンビだらけになってないんだったらさ、二人で出ればいいだろ! そんでまた一から二人で頑張ろうぜ、そうだろ!?」
B「あ、ごめん。もう外出れないよ」
A「は……?」
B「さっき、ここの扉全部溶接しちゃった」
A「は!? なんでだよおかしいだろうが! なんでわざわざそんなことすんだよ!」
B「いやー、実はさ。今まで俺『視察だー』って言って酒とかお菓子とか服とか水とか持って帰ってきてたじゃん? あれ全部盗んだ奴なんだよね。で、さっき警察に見つかっちゃってさ。追っかけられたけど上手く巻いたんだよ」
A「じ、じゃあいいじゃねえか」
B「駄目だよ。だってもう俺、顔見られちゃったからさ。外出たら泥棒じゃん。捕まっちゃったら、それこそほんとに人生終了だもん。Aと話が出来るんなら、泥棒だろうがなんだろうがよかったんだ、俺」
A「お前……お前狂ってるよ。おかしいよ」
B「おかしくないだろ! 俺達親友なんだ。Aのためならなんだってしたいんだよ」
A「俺は死にたくねえんだよ!」
B「嘘つかないでよ。Aは死にたいはずだ」
A「死にたくなんかねえよ!」
A、 片足を引きずりながら立ち上がる。歩きづらそうにしながら急いで階段を上る。B、それを微笑みながら見ている。
A「はぁ、はぁ……くそ、ほんとに綺麗に溶接してやがんじゃねえか! 誰かー! 誰か、聞こえませんか! 人がいるんです! 誰か!」
B「この期に及んで往生際が悪いなぁ。全く~困った奴」
B、 肩をすくめてやれやれと言う風に笑う。ポケットから縄を二本取り出し、一本は床に落とす。一本の端と端を持って、ぱんぱんと二回縄を張る。
B「よぅし」
A「お、おい、何する気なんだよ……」
B「大丈夫大丈夫! なんか10秒くらいらしいから、苦しいの。10秒我慢してくれれば」
A「おい、来るなよ! やめろって!」
   A、必死に後ずさりするも背中が壁についてしまう。B、縄の感触を確かめるように触りながら階段を上がり始める。
B「ここで餓死するのは長期戦でキツイよ? 10秒我慢したほうがお得だって」
A「何がお得なんだよ! だ、誰かー! 助けて! 誰か聞こえるだろ! 助けて!」
B「大丈夫だって。俺達、親友だろ?」
   B、階段を上り切り、暗転。

次回↓


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