見出し画像

【1日目】金がなきゃ夢は見れないなんてウォルト・○ィズニー言ってなかったよ?

 夢の国マジックにかかって思わず買ってしまい、帰宅後後悔する物第一位は耳付きカチューシャ、第二位はポップコーンバケットだと思う。確実に。

 私の部屋にも、その第二位が鎮座していた。真っ赤で丸っこい宇宙船に、青い626モンスターが乗ってるやつ。めっちゃ可愛い。ただ、何にもならない。

 買った日は勿論ポップコーンバケットとして大活躍した。夢の国の長い待ち時間、こいつはマジで役に立つ。ポップコーンの売り場はパークのあちらこちらにある上、味が売り場によって違う。待ち時間が暇だからついつい買ってしまう。しかも見た目がとにかくご機嫌。夢の国にぴったりなご機嫌加減。耳付きカチューシャと並ぶくらいご機嫌。
 帰宅後はどうしようか迷って、しばらくは小物入れになっていた。見た目がご機嫌なので、部屋にあるだけで雰囲気がまるで夢の国。
 でも、このポップコーンバケツ、本当に開閉がしづらかった。用途上すぐにぱかぱか開閉したらいけないのは分かるのだが、それにしても蓋が固い。蓋を開ける時に勢い余ってポップコーン飛び出すんじゃないかってくらい固い。小物入れなんかにしたら、開閉がめんどくさくて中の小物が一生封印されかねない。結局出した中身を戻すのがめんどくさくて、ポップコーンバケツはただの部屋の飾りと化した。

 いつか夢の国にまた行くとなれば絶対使うし、まあ置いておくか。そう思ってもう何年も過ぎた。
 貧乏な関西人、夢の国なんかマジで行かん。本当に行かん。ディズニー作品はすごい好きだし、行きたいという気はあるけど、マジで行かん。
 何せ入場するチケットが高い。その上高所恐怖症者が乗れる乗り物はかなり限られ、限られたそいつに乗るにも何時間も待つ事になる。パーク内で飯を食おうと思えば、また高い。関西から千葉までの交通費も高いし、テーマパークに日帰りで行く元気も無いからと宿泊するホテル代も高い。何から何まで全部高い。

 どうやらこの国では、夢を見るにも金がかかるらしい。言い方が悪いけど。入場チケットの値段で一体何回料理をサボれるだろうと考えてしまうような奴は、夢を見るのは向いていない。そういうことなんだろう。結局金かよ! とムカついてきて、今日のタイトルが思い浮かんだ。夢の国を作った張本人はきっと、こんな世界を産み出したかったわけじゃないだろうに。とはいえ、こんなタイトルを付けたものの、「夢には金が必要だ」みたいな名言残してたらやべえなと思い、めちゃくちゃ調べた。そうしたら唯一、金に言及している言葉が見つかった。
「単なる金儲けは昔から嫌いだ。昔から金は何かを行うために必要なものでしかなかった」(みたいなやつ)。
 あーあ、言う通りすぎるやつ出て来ちゃった。つまり、「夢を見るのに金が必要」なんじゃなく、「夢を作るには金が必要」ってことだ。私たちが夢を見るために金を払うと言うよりかは、夢を作る時に必要な金を払ってるってことなんだろう。鶏が先か卵が先かみたいな話になってきたな。めんどくさくなってきたからタイトルはこのままでええわ。

 そんなこんなで今回断捨離のターゲットとなってしまったのは、スティッチのポップコーンバケット。
 中学生くらいの時、スティッチのモデルが某G虫だとかなんだとかっていう噂流れがち。足が六本で壁を這って何でも食うかららしい。知らんがな。可愛けりゃええやないか。

 何はともあれ、早速私にとっての第一関門が訪れる。
 私は、目のついている物が捨てられない。これぞ夢の国マジック。トイ・ストーリーを見すぎた私は、目のついた物は全て生きていると思い込んでいる。さながら小さい子がサンタクロースを信じるかの如く。そりゃ科学的に考えてそんなことは有り得るはずがないので、無人の部屋の中で人形達が舞踊っていると信じているわけではないが、何となく目のついたものには弱い。トイ・ストーリー3に出てくるゴミ収集車の描写が頭をよぎってしまう。ゴミ収集車の回転する蓋のようなものが閉じる時、おもちゃやら何やらの目がこっちを見ている気がしてしまう。有り得んよ、有り得んけど。でも思ってしまうのよ。そういうとこ乙女の気質あっから。

 故にこいつを捨てるとなった時、かなり悩んだ。大丈夫、こいつはゴミだ、プラスチックのゴミだと言い聞かせ、普通にゴミ袋にぶち込んだ。でも、思い出すのだ。トイ・ストーリー3で、ゴミ袋に入れられたおもちゃ達の会話を。――息が出来ない、そりゃそうだ、高密度ポリエチレンだぞ、俺たちゃ捨てられるんだ。
 ゴミ収集車に運ばれて、圧縮され、バキバキに折れる。首が折れて腕もどっかに行ってしまうだろう。ゴミ集積場に運ばれたあとは、プラスチックの欠片と共に熱い炉の中でドロドロに溶かされてしまうのだろう。
 ごめんよスティッチ! 私はゴミ袋の口を開いて、プラスチックでできたバケツを床に戻すわけだ。こんなに可愛いのに。こんなに可愛いっていうのに。私の勝手で、夢の国に行くことなんかほとんど無いのに先のことも考えずに買ってしまったばっかりに。そんな末路しか残されてないのは可哀想すぎる。
 ていうかこの時の私バチくそキュートすぎる。

 バキバキにされるくらいならと、私は捨てることを断念した。捨てる以外の選択肢は、売るくらいしか考えられない。メルカリで出そうかと思ったけど、なにせこいつはずっと部屋の飾りと化していた物だ。太陽に晒されたこいつは、もう既にかなり色褪せていた。元々は鮮やかな赤色だったのが、くすんだボルドーみたいな色になり、スティッチの鼻も色が剥げている。状態がいいならまだしも、こんな状態では売るにも売れないだろう。
 そうなったら、残る選択肢は一つ。「リサイクルショップ」である。リサイクルショップなら、お金になるかは微妙なところだがとりあえず引き取ってはくれる。買う人も現物を見てからなので、こちらも心苦しくない。

 目の付いたものは、リサイクルショップ行き。私は段ボールをもらってきて、そこにリサイクルショップ行きの物を詰め込むことにした。一個ずつ店に持っていくのはあほらしいし、ある程度溜まったら箱ごと買い取ってもらおう。

 段ボールにぽつんと入った宇宙船を見る。これはこれで可哀想でならないので、そっと蓋を閉めた。たとえこいつが生きていても、息だけは吸える隙間だけ開けて。これからどんどん、仲間が増えるよ。この箱が多分、いっぱいになるよ。だから寂しくなくなるはずだ。

 じゃあな、スティッチ。君にお世話になった夢の国ツアーのことは忘れない。次にディズニーランドに行くのは多分、何十年も後のことだ。

いいなと思ったら応援しよう!