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「止まりだしたら走らない」を読んだら、飛び出したくなった

私は、東京の街を知らない。

「止まりだしたら走らない」を読んだ。三日で。最近めっきり本が読めなくなってしまってがっかりしてたけど、これは三日で読み切った。いや別に速度なんかどうでもええけどさ。でも、昔本は一日で読めてた私からしたら、ようやく戻ってきたなぁって感じがした。勿論、内容が面白かったからなんやけどね。

著者の品田遊氏が好き。明確に思い出したら、どうやら中学生の頃から好きやったらしい。
中学生の頃の私はもう既に陰キャに片足突っ込んでて、ジャニヲタ真っ盛り。そりゃ、インターネットと仲良くもなる。中学生の頃、Twitterのアカウントは持ってなかった。でも、「Twitterの面白ツイートをまとめたサイト」は見てた。その中で一番好きだったのが、今思い返してみれば「ダ・ヴィンチ・恐山」氏だった。
で、つい最近匿名ラジオを聞くようになって、中学生の時からツイート見てたわ! って思い出した。品田遊名義で本出してるのも最近知った。速攻図書館行って、借りてきた。

結果から言うと、マジで面白かった。マジで。何回も言うけど、マジで面白かった。

東京の中央線車内の人たちを描いた連作短編集、だそう。これはサイトから引っ張ってきたあらすじ。
短編集やからサクサク読める。その中でも特にバチクソ面白かった短編があったから、今回はその話。ネタバレは無しなんで、気になったら己で読め。面白いから。

まず一個目が、「アンゴルモアの回答」。こいつぁすげえや! 私自身の無知を、思いっきり露呈しに来やがった! ってのが一番の感想。
これはね、私が馬鹿だからなのかもしれないけども。あまりにさらっと書きすぎてて、伏線にすら気付けんかった。ゴールテープくらい綺麗に張られとったのに。全く気付けんかった。落語とか、漫談とか、そういう類のジャンルやと思う、これ。何言ってもネタバレになりそうやな。これはもうマジで「面白かった」としか言えんので、読め、ほんまに。

で、もう一個が「夜の鳥類たち」。これもうタイトルから好き。テンポ速めに物語が進んでいくけど、ラスト不思議な気持ちにさせられる。最後まで読んで「腑に落ちない」小説とか映画はまあまああるけど、「腑に落とされる」小説ってあんまない気がする。基本小説って、読み進めるにつれて自分の中で色んな仮説を立てて楽しむものやと思うんよね。ラストどうなるか考えたり、犯人が誰か考えたり、登場人物の感情を考えてみたり。そんで、「起承転結」の「結」でその全部の答え合わせをする。そうやって楽しむもんやと、思ってるけど違ったらごめん。
これも私が馬鹿だからかもしれんけど、この短編では全く「仮説」を立てる時間が無かった。いや、厳密にはあったし、私も仮説立てながら読んだよ。でも、テンポがそこそこ速いからか、ぼんやりとした仮説しか立てられなかった。「あー、最後こういうことかなぁ、でもなんかそれじゃありきたりやなぁ、多分これこういうことじゃないんやろうなぁ」っていう時間がめちゃくちゃ続く。で結局、「結」の部分で、私が立ててた仮説と根本から違う結論を持ってこられるからくそ混乱する。けど、なんかめちゃくちゃ納得してしまう。納得させられるし、最後の最後になってようやく、無理やり登場人物に感情移入させられる感じ。すっごい不思議な気分になって、なんか最後の8行だけ5回くらい読んじゃった。無理やり、「分かる」って言わされた。だって「分かる」から。

結局この小説全体通して何が面白かったの? って言われたら、「見たことない世界を見せてくれること」やと思う。小説の醍醐味よね、これって。
短編それぞれに出てくる人たち、めちゃくちゃ癖あるのよ。で、その全員が色んなことを考えてて、私が思ってもみなかったような問題を提起したりする。理解できないような行動にも、理屈と感情がちゃんとあることが理解できてくる。「誰か」を通した世界が見える。私が見てる世界と似てるけど全然違う世界がちょっとだけ覗ける。そんな感じ。
読み終わってすぐに、「うわ~、散歩行きてぇ~」って思った。ちょっとこれは私も理解できん感情やけど。多分、観察したくなったんやと思う、人を。もっと人間を観察したら、なんか違うものが見える気がした。だからインドアの癖に急に散歩なんか行ったりしてみたんやと思う。

私は、東京の街を知らない。だから、この中央線を知ってる人がめちゃくちゃ羨ましい。わざわざ中央線を舞台にしてるってことは、なんとなくこれに「あるある」が詰まってるからやと思う。その「あるある」に私は気付けん。だって知らんから。

東京行きたいなーと思った。散歩しながら。中央線があるから。
東京行きたいなーと思った。散歩しながら。だって、田舎マジで人間おらんから。観察対象の人間なんか、見つからんかったわ。猫くらいよ、おったの。歩けば人にぶつかるような都会でないと、観察する人間に困らない都会でないと、多分この小説は生きてこんのやなと思った。

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