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商店街とおじさん

雨が降っていた。

横断歩道を渡った先に、アーケード商店街があった。

俺は傘を持っていなかったので、信号が変わるとすぐに駆け出して、商店街の中へ入った。

商店街へ足を踏み入れてまず感じたのは熱気であった。

大いに賑わっていた。俺の街の寂れた商店街とは大違いだと俺は思った。

シャッターが降りている店はざっと見たところ見当たらない。

それに、どこの店にも人が溢れていた。

祭でもやっているのであろうか、多くの人がコスプレをしている。

路上ではあちこちでバンドが演奏していた。

周りを見回しながら歩いていた。

ふと前を見ると、法被を着たおじさんが俺の目の前に立っていた。

そして俺の目を見て二コリと笑って言った。

「君はここが初めてだね」

「ええ」

と俺は返した。

「ここはとても良い場所だ。ゆっくりしていくといい」

まるでこの商店街の持ち主かのような雰囲気を放っていた。

この人は何者なのだろうかと俺は思ったが、とりあえず礼を言っておいた。

俺は一旦全体を見てみようと思い、商店街の端まで歩いて行った。

商店街を抜けると森のように木が生い茂る神社があった。

商店街へ入る前とは打って変わって、空は晴れ渡っていた。

カラスとハトとスズメがそこら中にいた。ここは彼らの世界みたいだと俺は思った。

俺は折り返してもう一度商店街に入った。

気づいたら目の前にさっきの法被のおじさんがいた。

「そうかそうか、今日はそんなことがあったのか」

俺はおじさんに何かを話した記憶もないのだが、おじさんは相槌を打っていた。

「君が放り投げたあのフィギュア、あれが君の人生を動かすだろう」

急に占い師めいたことをおじさんは言った。

俺は気になっていたことをおじさんに聞いた。

「ところでおじさんは何者なんですか?」

おじさんは急に真顔になった。

俺は地雷を踏んでしまったかもしれないと思って動揺した。

おじさんは真顔のまま鉢巻を頭に巻き始めた。

ぎゅっと力を込めてきつく絞めていた。

おじさんのこめかみに血管が浮き出ていた。

手を強く握り、腕はぷるぷると震えていた。

俺は怖くてしかたがなかった。

「おじさんやめてよ。危ないよ」

おじさんは真っ赤になった顔で、血走った目を俺の方に向けて

「俺はな……、俺はな……、おじさんじゃない!」

パァンと弾ける音がした。






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