運命のプランシングホース(8)
■最強の遺伝子
ポルシェ917のエンジンは4.5リッターフラット12。V12をそのまま水平まで開いた状態のエンジン。でかい。これが空冷というから、空冷フィンがついていてさらにデカイ。これを冷やすために上部にデカイファンがついていて、それがぐるんぐるん回るのである。ファンの位置は90度違うものの、エンジンとしては911に非常に似ている。
ポルシェというのは外観でなく、エンジンフードを開けたとたんポルシェとわかる、テクノロジーに独自のこだわりとアイデンティティを求める数少ないメーカーだが、ポルシェにとって重要な一場面を任された男にその原因があるかもしれない。
917の開発の陣頭指揮をとったのはフェルディナント・ピエヒ。この人の父親アントン・ピエヒはポルシェ博士のビジネスパートナーでと共に獄中生活をおくり、その後ポルシェの娘婿になる。その息子がこのフェルディナンド・ピエヒということで、つまりポルシェ博士の孫である。
このピエヒが只ならぬ才能の持ち主で、世界を制圧する必殺マシンは彼の手によって開発された。まるで天国のポルシェ博士から演出されたかのようにポルシェはここ一番のタイミングで最強の遺伝子を武器として持っていたのである。
彼は父方アントンの経営者としての才能も併せ持っていたようで、その後アウディの社長など歴任し、トヨタと並ぶ世界最大のクルマメーカー、フォルクスワーゲングループを率いることになる。
1999年、ピエヒはイタリアのスポーツカーブランド「ランボルギーニ」をグループ傘下に加えるなど積極的な企業買収を繰り返し、ベントレー、ブガッティ、ランボルギーニ、アウディ、ポルシェ、セアト、シュコダ、フォルクスワーゲンなど都合12の自動車ブランドを抱えてグループ全体の自動車販売台数を1千万台の大台に乗せ、国際市場でトヨタ自動車とトップシェアを競い合う企業帝国を築き上げている。
経営と技術、全く違う両面での才能。こういうの「アングルのバイオリン」というのでしたっけ、やるもんです。
(続く)
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