保安検査場の別れ際
昨日、日帰りで福岡に行ってきた。
移住。そう。あれから移住のためにコソコソと動いていて、転職候補先の1つの最終選考があったのだった。年末だろうが交通費を出してくれるのでラッキーだぜ。
先日の次女のウイルス性胃腸炎で気が気じゃなかったけど、あれから誰も嘔吐することなくなんとか過ごすことができている。私もうっすらと怪しい感じがしていたけど、うどんとお茶漬けをひたすら食べて「いい子だからねー大丈夫よー」とお腹をなだめていた甲斐があった。腹中のゴジラは水面から一瞬顔を出しただけで海に帰ってくれたようだった。
福岡に着いて、行列のできるお店のくさい豚骨ラーメンを食べて胃にダメージを受け、よくわからない偉い人と1時間ほどなごやかに喋って、市内をぷらぷらと散策して福岡空港に戻った。博多駅から2駅で空港に着いちゃうのが便利すぎる。やっぱりいい街だなあ福岡。
飛行機の時間まで少しあり、保安検査場の向かい側にあるフードコートでしばらく仕事をしていたら、目の前をいろいろな人が通り過ぎていく。旅行のスタートにワクワクする人、別れを惜しむ人、新たな門出に胸を躍らせる人、疲れた顔で出張に向かう人。保安検査場へ向かう人を眺めていると面白い。やがて私の席から近いところに若いカップルが来たのが見えた。たぶん未成年。大学1年くらいか?
周りは人で溢れているが、女の子は堂々と男に抱きついている。目のまわりが赤く、泣いているはずなのに表情は笑っている。対して男の方は、ちょっと困った風だったが、女の子の頭をポンポンと優しく撫でてなにか言っている。2人だけの世界。やがて2人は手を振りあって、男が保安検査場の方へ向かっていった。
なんだかとてもきれいなものを見た気がして、感動してしまった。今のはなんだ?恋愛映画の撮影か?うーむ……なるほど。つまりはこういうことだろう。
男の子と女の子は近所に住んでいた。同じ年齢ということもあって、仲よく遊ぶ二人。おませな女の子は、お姉ちゃんのように何かと世話を焼く。男の子はもともと引っ込みがちな性格だったが、女の子に引っ張られ外の世界に触れていき、次第に慕うようになっていく。
やがて中学に入り、思春期を迎える。女の子は相変わらずお姉ちゃん的に声をかけてくるが、男の子は照れもあり、そっけなく挨拶を返す程度。昔とあまり変わらない女の子と、昔と同じようにできない男の子。
高校も同じ学校に進学する二人。男の子はモテ始めるが、どうしても誰ともうまく付き合えず長く続かない。そんな折に塾の帰り道で久しぶりに女の子とばったり会い、同じ方向に歩いて帰る。夜のせいもあってつい自分が素直に話していることに気が付く男の子。自然にぴったりと合う歩調。そうか。俺ずっとコイツが良かったんだった。そうして男女として交際を始める二人。
ほどなくして男の子は東京の大学に進学。地元の福岡に彼女を残し、遠距離恋愛をすることになったのだった。~あの場面へ続く~
そうかそうか、そりゃあ離れたくないよなあ。おじさんも昔は広島と長崎で遠距離してたことがあってな……聞いてくれるかい?広島駅の新幹線の改札内のドトールでいつもハニーカフェラテのLサイズを買ってさ、新幹線に乗る彼女に渡したもんさ。あの味、今でもたまに飲みたくなってねえ。まあ、君たちも会える時間にたくさん思い出作ってさ、それぞれ新しい環境でいろいろな出会いもあるけど、揉まれながらがんばんなさいよ。などと心の中で二人にエールを送った。
ふう。福岡のうどんはコシがないから胃に優しくておいしい。