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花と朗読 制作記(8) 聖なる生と死の躍動

杉工場での花会はお客様と共に展示されている山本源太さんの半生を一緒に歩きながら朗読していった。家長制度に反発する長男である源太さんが両親と校長先生に手紙を残し家出をするところから始まる。

<手紙>より抜粋
家、家庭制度の中で父や母の考えや、おじいさんの躾までにも
「家」の観念に囚われた。父は果たして幸福だったのか。
絶えず紛争の絶え間のない「家」の中で、俺は取るべき道を知らない。
どんなに苦しくても、死ぬようなことがあっても、きっと横道から這い出し。
「人間」になるよう一生懸命がんばります。
どうか、静かに見守っていて下さい。

そして、妹さちこへの手紙がなんとも愛おしく。

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その後、師匠と出逢い陶工への道が始まる。
そして詩人であり医師でもある先生との出逢いにより詩を書き始める。
恋をして、結婚し、今の場所に移り住む。
家庭という穏やかな時間の中での表現者としての葛藤。家族を疎ましく思う瞬間。大切に思う瞬間。満たされない心。謙虚になる瞬間・・・・・・。

人の心なんて、いつも揺れ動いていて、その中で均衡をとるのにエネルギーを使う。一見穏やかに見えても、その内側ではものすごいエネルギーが消費されているのだ。その揺れや葛藤が包み隠さず心の声として書かれているので、朗読をしていても胸を打つものがあった。しかも、源太さんの言葉は強い。
どんなに「詩」という抽象的な形をとっていたとしても、そこから本人の思いや行いが透けて見えるので、そこと向き合わされる家族は大変だっただろうな、と思う。今回、源太さんの娘さんが展示を仕切っていたのだが、初めて目にする父の若かりし頃の日記や手紙にかなり心が揺さぶられ、準備が進まなかったそうだ。親だもの。当然である。

そして改めて思ったのは、そんな源太さんを支え続けた妻の存在だった。
花会2日目には奥様もいらしていたので、前回noteでもアップした奥様とのエピソードを<源太の部屋>のダイニングテーブルで朗読した。

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音はドラマーの田中徳崇さんが担当してくれた。木村拓哉似の美男子ドラマー。
セッションのプロなので、その大きな懐の中でいっぱい遊ばせてもらった。得に1日目は緊張感もあり、杉さんが一体どんな花を活けていくのかワクワクし、お客様も場を楽しむモード満載だったので会場が躍動していた。

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<源太の部屋>以降は、真っ白い机の上に沢山の綿毛が天井から舞い降りたり、椿がぼたぼたと上から落ちてきたり、真っ赤な花びらが破れた壺から飛び出したり、部屋の雰囲気も花も読むものも、どんどん抽象的になっていった。

そして、最後は天井から青竹と枯れた竹が2本まっすぐに吊るされ、その竹の中に折れた白いバラが活けられて終わった。
生と死を象徴するような美しい最後だった。

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実は、今回の花会@杉工場には現在病に侵されている源太さんに元気になってもらいたい!という杉さんの熱い思いが詰まっていた。
その思いを知ってか知らぬか、源太さんは展示会が始まる直前まで会場で展示に添えるメモを記し、会期中も毎日会場に通われ、花会も2日間とも参加された。そして、打ち上げの席ではとても嬉しそうにお話されながら「会期を延ばせないかなぁ」と言っていた。そして、次なる作品の構想もできたようだった。

誰だって生きることは大変なのだ。だからこそ大きく揺れ動く源太さんの生き様は人の心に響き、生きる力を与える。そして、それは作品となって人々に届くのだ。

しなやかに「生きる覚悟」を見せてくれた展覧会だった。そして、花会だった。その生き様を媒体として表現できたことが嬉しい。

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