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紅から見える花の遺言


photo by Mayu Tsuruta

紅から見える花の遺言


旬を迎える若き娘の解体は
意識を惑わし
危険な美しさの中に
私を引き込んでいく

立ち上がる甘美な香は
松果体まで立ち上り
時空を揺るがす

目を凝らすと
咲き誇る花の奥義に
神話が現れる

花の摂理の中に潜む多くの物語は
「形」ある方へ向かうと
現実に立ち上がっていくのか

その実態を明かしながら
紅に染まった花びらは
その「生」を肉体から液体へと移行していく


9月23日から銀座の森岡書店で始まる予定となっている展覧会へ向けて、調香師の沙里さんと一緒に一月以上蓮の花と向き合い続けている。香の抽出は一つの花からほんのわずか。蓮の花咲く7月末から8月にかけて彼女のアトリエにて、何度か抽出作業を行なった。

蓮の花は4日間咲く。香を採取するには一度花を咲かせた後の2日目の早朝、花が咲く前のものを使用するのが一番よいと言われている。


あまたの花を床に広げて、ひとつひとつ手に取り、花びらを一枚一枚剥いでいく。


雌蕊の周りを雄蕊が囲んでいる花托がちらりと花びらの奥に見え始めると、香りはより一層密度を増し、鼻腔を通って松果体にまで入り込んでくる。
奥にミルクに似た臭みのようなものを孕んだ、その甘い香りは、人の意識を惑わしながらあちら側へと誘っていく。

私たちはその香りに誘われながら黙々と作業を繰り返す。

気がつくと息が止まっている。

甘美で危険な作業。なんと魅惑的なのだろう、と思う。
そして、花の奥義に触れているような気持ちになる。
このミラクル感はきっと密教に通じる感覚なのだろう、と思う。

すべての花のパーツをバラバラに分解したのち、それぞれに肉体から液体へとその命を変換していく。香りを移すために溶剤につけて、密封した瓶に閉じ込めた姿はとても残酷に見える。

「生」から「死」へ。そして肉体を超えて、その「命」は水の中へと移行してゆく。

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流れゆく景色を眺めながら心に浮かぶ言葉を紡ぐ。物理的に移動する旅もあれば、たったひとつの言葉から心の中の風景が流れることもある。その気にな…

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