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ハーフビルドで小屋を建てる!MOUNTAIN HUT プロジェクト 設計編

プロジェクトのはじまり

去年、知床エクスペディションで知床半島を一緒に旅してお友達になった白馬村在住の羽山菜穂子さんから、小さな小屋を建てたい、という連絡を受けたのが2018年の終わりごろ。エベレストにも登っていて、元バリバリのモーグル選手でアドベンチャーレースやらクライミングやら、何もかもがぶっとびスゴイ上に超可愛らしい憧れの女性である羽山さんからの相談に浮き足立ったことは言うまでもありません。

スキー帰りに寄った羽山さんの自宅にて、美味しいお肉をご馳走になりながら聞いた話の概要は、2014年に起こった長野県神城断層地震で羽山さん所有の建物が全壊してしまった跡地に、また新たに建物を建てたい、ということでした。

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地震で壊れてしまった旧羽山邸というのはバリバリのスキーヤーや山屋さんの集まるシェアハウスだったそうで、白馬ではかなり有名な家だったそうです。羽山さんがモーグル選手として白馬に移住してきた当時、まだ格安の宿などもなく、スキー場に住み込みバイトをしながらだと思う存分練習ができない、朝から晩までスキーをしたくてたまらない人たちが次第に羽山邸に集まり、シェアハウスが始まり、そのうちに住人が友達を泊らせたりして、一時期は家主の羽山さんですら把握できていないくらいの人が寝泊まりしていたそうです。

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そんな伝説の家が地震で全壊。羽山さんは被災者住宅に住めるようになり生活は安定したものの、土地は空き地のまま。そこに新しく建物を建てて、人が集まる場所をつくれるといいな、という、なんとも夢いっぱいの相談をもらったのです。

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お金はないけど建物を建てたい

とはいえ、住宅として建てるわけでもないから資金はあまりかけられない。羽山さんのお友達の忠田(ちゅうだ)さんというスキーヤーが、セカンドハウス的に使える拠点がほしいから建物を建てるのに出資してくれるけれど、それでも300万円くらいしか予算はない、というおはなし。

えっ、300万円?3000万円じゃなくて?そりゃあまあいくらなんでも厳しいですよ、いやー無理無理!、、、うーんでも小さい小屋建てるの面白そうだし、羽山さん好きだし、旧羽山邸跡地に人が集まる場所を再建したいというのはすごく共感するし、とりあえず考えてみます!

後日、またしてもスキー帰りにパン屋さんで初めて会った忠田さんは、70過ぎのご年齢にも関わらず超お元気。さすがバリバリのスキーヤー。大阪に自宅はあるけど夏も冬も白馬に居たいから建物が欲しい。ご自身も鉄骨屋さんだったこともあって建物の建設には知識もあるし自分でも手を動かしたいと思っている。退職後で時間はいくらでもあるとのこと。こうやってつくれば良いと教えてくれればいくらでも自分でやるけど、やりかたがわからないんです、というお話。そうか、これだけ元気な働き手がいるなら、お金がなくてもある程度自分の手でやることを考えればなんとかなるかもしれない???

7.5坪の山小屋のような建物 MOUNTAIN HUTを提案

その後、飲食店ができるようにしたいとか、板の間でヨガもやりたいとか、建物ができたらこんなことしたいという夢をいろいろ聞いて、何度か会って話をしてじっくりと検討を重ねたあと、3月はじめに提案書と模型を持って羽山さんと忠田さんに提案に行きました。

建物を建てるとき、ふつうはなるべく広く!とかなるべく高気密に!とかどんどん欲がでてどんどん建設費は高くなるものだけど、山の中に山小屋があるようなありがたさを想像してほしい、屋根があって雨風凌げることが建物の本質。贅沢言わずシンプルに、山小屋みたいなものを目指しましょうよ、というコンセプト。

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山小屋のようなスペックであるとともに、「人の力を借りて建てられる大きさ・構成」ということをすごく考えました。単純に言えば大きいとちゃんとした足場やレッカーとかいろいろ必要だけど、小さければ素人仕事だけでいけるでしょうと。つくりかたも、多少面倒でも素人でもできる作業の蓄積で良いものをつくりましょう、ということを話しました。

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白馬村は豪雪地帯なので、隣地から3mずつセットバックしなければならないという条例があります。もともと小さい敷地から3m引くと、建物を建てられる面積はほんの少し。欲張って建築可能面積ぎりぎりまでにすると変なかたちになって高くなるし、綺麗な矩形でできるぎりぎりの寸法、1.25間×6間の、7.5坪24.84㎡の小さな建物を提案しました。

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面積は小さいけど間口が広くてのびのびしたイメージ。奥行が畳1枚分だと雑魚寝するとき人をまたがなきゃいけないからぎりぎり1.25間まで広げて、その奥行の最大幅の6間をシンプルに水回り、キッチン、土間、板の間に分けました。廊下をつくると部屋がなくなっちゃうからトイレは我慢して外から行ってください!なんてったって山小屋ですから!!

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平面的な面積が小さいのに高さが高いと変なプロポーションになるんですよ、低いのがいいんです、低いのが。低いと脚立で建て方できるし、材料も安く済むし、人が気持ちよく過ごせるぎりぎりの高さにしましょう。入口でちょっと頭ぶつけたっていいじゃないですか、山小屋だから!!

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模型はこんな感じ。本当に小さい建物です。

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模型を見せたら羽山さんも忠田さんも大喜び!とても気に入ってもらえました。

本当に300万で建つの?

さて、建物は気に入ってもらえたけど、本当に建つの?うーん、正直わかんないです。ふつうならこれから実施設計をして、ちゃんとした図面を工務店に見積してもらって、という作業をするのだけど、ちゃんとした工務店が300万円で仕事を請け負ってくれるはずもない。ちっちゃいから建設業の許可もいらないし、ある程度自分でやる想定なら工務店にやってもらわないほうが話は早いし、とりあえず図面描いて基礎や構造や設備、各業者見積もってみます!

やっぱり図面は真面目に描く

工務店に発注しないなら図面はある程度適当でもいっかと思っていたけど、いざ見積もったり詳細決めたりするのにやっぱり図面描かないと自分が考えられないんですね。図面描く時間も手間も省きたかったけど、しょうがない。腹をくくってたくさん描きました。こんなに小さくても描く量は大きい建物とさほど変わらないんだよね。小さい建物が設計側にしても施工側にしてもいかに儲からないかよくわかるわ。

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トイレシャワーを小さくしてキッチンが広がりました。飲食店の営業許可を取ろうと保健所に事前協議に行ったら、「さすがにこの厨房は狭すぎる、これだとレンジでチンするくらいしか許可できない」と厳しく言われたので、それはさすがに困ると1.5倍以上にして持って行ったんです。そしたら、「もともとこの大きさだったらこれでも小さいって言ったと思うんですけど、前のやつ見てたから、すごい大きくなった気がしますね!」と。なんて良い人。作戦成功?

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詳細を検討していくうち屋根の形もアーチ型から三角屋根に変わりました。アーチの屋根は家具の手法の曲げ木でやりたかったんだけど、ものすごーく大変そうだったのであっさり断念。三角屋根の真ん中に一本梁を渡してA型にしました。その意図はまたあとで。

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どんなに小さい建物でもかなばかり図は描きます。これがないと全体の図面も描けない大事な仕事です。仕上げのこと、細かい寸法、各種素材の取り合い、建具の開き方やらなにやら、すべての要素がこの図を描くことで決まっていきます。

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屋根型を変えて修正した模型。この形でいざ見積!

たくさんの人に会いに行く

見積と言っても工務店にまるっとお願いできるわけではないので、基礎屋さん、設備屋さん、電気屋さん、ガス屋さん、プレカット屋さんをそれぞれ知人のつてをたどって紹介してもらい、順々に図面持って会いに行きました。

大工さんは旧羽山邸のもと住人の山口さんの後輩である青山さんが協力してくださるらしいので、青山さんの現場に模型を持って会いに行くと、「山口さんは恩人だから、山口さんに頼まれたらやるしかないっす」と。ありがとうございます!!旧羽山邸住民のつながり、すごすぎる!

大網に木を見に行く

さらに木材も、もと住人の北村さんが大網できこりをやっているので、木を譲ってくださるとか。冬に一度お会いして挨拶してから、春になって雪が解けて木が出てきたころにもう一度お伺いして木材と入ったばかりの製材機を見せてもらいました。

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手作りの製材機に興奮!

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小網も豪雪地帯なので、木の足元には毎年ものすごい量の雪が積もって木の足元を曲げてしまうんですよね。曲がった木は製材もできないし使い道がないので、良かったら使ってください、と言ってくださいました。そんな木がものすごくたくさん!!使い道がない木を使うというのはとても意味のあることだと思うし、是非有効利用したい!どうやって使うか、しっかり考えなきゃ。

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建物の構造に使う木はJIS規格だとかなんとかで、自然の木をそのまま使うのはちょっと難しい。それならば仕上げに使おう!ということで、曲がった木でもある程度の長さに切って、それから板にすればきっとかっこいい仕上げ材になるはずと思い、うちにある丸太をチェーンソーで挽いてみたところ、できた材はとてもいいかんじ。でもまあ、チェーンソーで挽くのはとんでもなく大変だ。板にする方法はもう少し考えることにして、とりあえず大量の仕上げ材をゲットできたということで一安心。

しっくいタイルの試作

水回りに使うタイルって自分で作れないのかなあ。でも焼くの大変だよね。とか話していたときに以前番町教会の現場でお世話になったスキー友達の三郎さんに相談したら、「しっくいでタイルつくれるよ」とのこと。しっくいタイル、面白そう!焼かなくていいとか素晴らしい!

早速試作に来てくれた三郎さんご夫妻。一度目は何パターンかの厚みと大きさでいろいろ試してみました。

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初めてコテを握る寺田さんと私。めちゃ難しい。でも楽しい!!三郎さんがコテをあてると一瞬でツルツルになる。職人さんは本当にすごい。三郎さんいわく「女性のお尻をなでるように優しく」笑

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そうしてできあがって乾燥させたサンプルがこちら。金鏝でしっかりおさえたもの、おさえてさらに磨いたもの、けっこうそのままのもの、いろいろ。全体的にまあまあってかんじ?我が家のしっくいが美しすぎるもんで、どうも素人感が否めないなーって気がする。

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そんなサンプルを裏がえしてみたところ、あれ、めっちゃキレイ??しっくいじゃなくて下地の砂しっくいが表面に見えているのでちょっとグレーっぽくて真っ白ではないけど、それもまた良い。乾燥による皺もでてないし、こっちのほうが良くない?と大盛り上がり。三郎さんに写真で報告して、もう一度試作に来てもらいました。

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今度は建て主さんである忠田さんにも来てもらって、「砂しっくいだけでつくったものを裏返したタイル」を本命に、しっくいだけでつくったらどうなるか、珪藻土はどうか、などなど他にも実験をやらせてもらいつつ、大きさと厚みは一種類に絞って大量につくりました。

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検証の結果やはり砂しっくいだけのタイルが現実的ということがわかって、三郎さんにも見積を依頼。これで各部分の要所の見積が出そろうはず、、ドキドキ

やっぱり300万円は厳しい

基礎工事、プレカット、設備関係やら要所が出そろったところで現実を目の当たりにしました。寒冷地で凍結深度などあるし長野はコンクリートが高いのもあって基礎だけでも100万超え。プレカットもそれなり。設備は最低でも数十万ずつはかかるよねそりゃあ。足していったら絶対必要なものだけで300万くらいになっちゃう。こりゃーだめだ、プレカットあきらめて手刻みにすることもできるけど、それにしても材料費はいるしね、、

とりあえず、もともと最小限設計にしていたため私たちが悩んでも金額は下がらないので、羽山さんと忠田さんに相談しに行きました。いろいろ話して予算はなんとか増やしてもらえることに。とにかく雪の降る冬までに建てたいので、プレカットもそのままでさっさと発注することに!あれあれ、全然建たないかもと落ち込んでいたのに、着工できる??

最初の予算内で建てることが難しそうだとわかった時点で、私たちは今回の設計料をあきらめモード。ふつうの仕事ならそんなことは絶対しないのだけれど、今回はもうちょっと、設計料をもらうとかではなく、この建物をなにかしら使わせてもらうとかして、お金ではないものを得ることにしよう!と腹をくくったのでした。設計当初はクラウドファンディングとかやろうかなと言っていたけど、結局それも面倒でやめてしまいました。とにかくがんばってまず建てよう!建てたらたぶん、なんか絶対いいことあるから!!!

発注と段取りを終え、羽山さんとエルブルースへ

建物とは全然関係ないけど羽山さんと私は6月半ばから2週間ほど、ロシアのエルブルースという山に登りに行くことになってました。ヨーロッパ大陸最高峰、憧れのセブンサミッツ!仕事も遊びも大事だ!!とにかく着工は決まったから基礎工事とプレカットを発注して、設備屋さんとも打合せをして、羽山さん忠田さんとは帰って来てから地鎮祭をやる日取りを決めて、寺田さんには確認申請を丸投げして、いざロシアへ!!!

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ついに地鎮祭!!!

ロシアから帰ってきてあれよあれよという間に、地鎮祭の日を迎えることができました。こんな小さな建物だっていうのに近所の人や元住民の人や羽山さんのお友達などなど、たくさんの人が来てくれて賑やかな地鎮祭になりました。

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ふつうの建物を設計するのとは全く勝手の違う段取りで始まったこのプロジェクトですが、たくさんの人の期待と夢を背負ってひとまず無事着工の日を迎えることができました!!!

施工編に続く

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