抗VEGF薬の使い分け
5種類の薬剤 それぞれの特性
ranibizumab(ラニビズマブ) ルセンティス®
販売開始年:2009年
導入期:1ヶ月毎に連続3回投与
維持期:1ヶ月以上の間隔をあける
薬剤濃度:10mg/ml
分子量:48kDa
1回投与時のモル比:1
阻害する分子:VEGF-A
VEGFとの結合定数:20〜190pM
全身での半減期:〜2時間
薬価:108,987円(BS:76,772円)
aflibercept(アフリベルセプト) アイリーア®
販売開始年:2012年
導入期:1ヶ月毎に連続3回投与
維持期:2ヶ月に1回投与するが、適宜調整(1ヶ月以上の間隔をあける)
薬剤濃度:40mg/ml
分子量:115kDa
1回投与時のモル比:1.7
阻害する分子:VEGF-A,VEGF-B,PIGF
VEGFとの結合定数:0.2〜0.7pM
全身での半減期:4〜5日
薬価:138,986円
brolucizumab(ブロルシズマブ) ベオビュ®
販売開始年:2020年
導入期:1ヶ月毎に連続3回投与
維持期:3ヶ月に1回投与(8週以上の間隔を開ける)
薬剤濃度:120mg/ml
分子量:26kDa
1回投与時のモル比:23
阻害する分子:VEFG-A
VEGFとの結合定数:1.3〜104pM
全身での半減期:103時間
薬価:135,000円
faricimab(ファリシマブ) バビースモ®
販売開始年:2022年
導入期:1ヶ月毎に連続4回投与
維持期:4ヶ月に1回投与(8週以上の間隔をあける)
薬剤濃度:120mg/ml
分子量:149kDa
1回投与時のモル比:4
阻害する分子:VEGF-A,Ang-2
VEGFとの結合定数:3nM
全身での半減期:0.6〜0.7日
薬価:163,894円
ranibizumab-biosimilar(ラニビズマブBS)
ラニビズマブの後発薬品
TypicalAMD(type1 MNV,type2MNV),type3MNV,PCV,PNVへの病型分類からの視点
ラニビズマブ:type1MNV,type2MNVに対する視機能改善効果、長期的有用性
特にtreat and extend(TAE)での有効性
アフリベルセプト:TAEの有効性、52週における視力と形態の改善効果、延長効果が96週まで維持
ブロルシズマブ:48週の視機能改善効果が96週まで維持される、網膜形態に高い効果。特に網膜色素上皮下の病巣からの滲出性変化への改善効果、アフリベルセプトより強い効果
ファリシマブ:40〜48週における視力改善効果と網膜形態の改善効果が証明、78%の症例で12週以上の間隔が維持できる。
Type3MNVの病巣に対しては、ラニビズマブ、アフリベルセプト、いずれの薬剤にも良好に反応。
Type3MNVでの新生血管の局在が主として網膜内にあることが良好な反応性が得られる要因
PNV,PCVはその病態の背景にパキコロイドが存在することを特徴とする。抗VEGF薬に対する反応性が従来型のnAMDとは異なることが示唆されている。
脈絡膜への薬剤の効果、新生血管の主座である網膜色素上皮下への効果を期待してアフリベルセプトやブロルシズマブでの加療が多く選択されてきた。
PCVにおいてはラニビズマブ単独よりもラニビズマブPDT併用療法でより治療効果が得られた。
PCVに対するアフリベルセプト単独とアフリベルセプトPDT併用群では視力改善効果に大差なし
ファリシマブにおいては、ポリープ閉鎖率52.2%で、視力改善効果も確認されている
アフリベルセプトの同時期と同程度の閉鎖率、短期的な有効性が示唆されている。
全身への配慮、副作用からの視点
ブロルシズマブの使用後の眼内炎は4〜20%
nAMDから黄斑萎縮(MA)の発症の相違について
アフリベルセプトとラニビズマブで両治療群間でMAの発症は有意差なし。視力改善効果、形態学的安定性にも差がない
MAの拡大を懸念すべきType3MNVにおいて、いずれの薬剤も選択し得る事が示された
抗VEGF薬投与後の脳心血管イベントの発生件数に薬剤間で発生率に大差なし
抗VEGF薬投与後のVEGFの血中濃度の比較を行った解析結果ではラニビズマブでの回復が早いことから、脳心血管イベントに対しては安全性に有利である可能性がある。
社会的状況からの視点
抗VEGF薬の治療の問題として医療費の高さが挙げられる
2021年からラニビズマブのバイオシミラーが認可されている。
ラニビズマブと効果は同等と言われている。
基礎実験からの視点
アフリベルセプトには抗VEGF薬の作用にプラスして、胎盤増殖因子(PIGF)にたいする抑制効果がある。
PIGFはVEGFR-1に結合し、単球やマクロファージの走化因子として働く一方で、脈絡膜新生血管の形成への関与も報告されている
ファリシマブはVEGFとAng−2に対する結合能力を有するバイスペシフィック抗体である。Ang-2はAMDでその発現が亢進することが知られている。Ang-2はAng-1/Tie-2受容体にたいする拮抗剤であり、Tie-2受容体システムが担う、周皮細胞を介する血管の安定化を促進し、脈絡膜毛細血管板のかん流を維持する効果や、コラーゲンの発現、フィブロネクチンの発現を抑制し、新生血管周囲の線維化抑制効果が報告されている。
AMDにおける新生血管の線維化は視力予後不良因子である。