性の目覚めとメディア|ネット時代の性教育と人権
1.男子の性的メディア遍歴
性的メディアは若者の性コミュニケーションに影響を与えるのか? これを云々する前に、押さえておかねばならないことがある。彼ら彼女らのこれまでの人生に、性的メディアはどの程度浸透してきたか、という点だ。
情報は蓄積されるものである。露骨な性描写のある雑誌やビデオは18歳未満への販売が禁じられているが、では現実に子どもの目に触れていないかというと、大いに疑わしい。しかもいまどきの若者は、思春期に差し掛かる頃にはインターネットやスマートフォンが身近にあり、かつてない多様なメディアに囲まれて育っている。
果たして若者たちは、どのような性的メディア体験を積み上げて来たのだろうか。それは、男性と女性で違いがあるものなのか。
1-1.遊び人の子ども時代
「僕が初めて性的なメディアに接した時期、ですか」
ヒロト(仮名・22歳)は、大きな瞳をキョロリと動かした。関西出身で、難関私立大学の文学部4年生。周囲からは「性豪」と呼ばれる。彼女はいるが、他にも数々の女の子と一晩だけの関係を繰り返してきたという。特に美形というわけではないものの、垂れ気味の目と少々ふっくらした体つきが愛嬌をかもし出す。卒業後はテレビ局でバラエティ番組を制作することを希望し、民放への就職が決まっている。
「セックスは人生で1番の快楽ですよ」と口にしてはばからないヒロト。いつ頃から性に目覚めたのだろう。
「小学校4年生のとき、『スーパージョッキー』というテレビ番組で、ビキニ姿の女性が熱湯風呂に入っているのをたまたま見たんです。ちょっと興奮しました。それが、僕の中では1番初めですね」
ヒロトが小学生時代を過ごした90年代後半は、『スーパージョッキー』のほか『ギルガメッシュないと』や『トゥナイト』など、女性を水着や裸の姿で登場させる番組が平気で放送されていた時代だ。当時のヒロトはそうした番組で性的な興味を刺激されたものの、それを追求するための性的メディアを買うことは、怖くて出来なかったという。だが5年生になったある日、住んでいた団地の非常階段である物を見つけた。
「成人向けの漫画雑誌が落ちていたんです。最初に見たときは怖さ半分と興奮半分でしたね。怖さは、これは僕がいま見るものじゃないなっていうこと。友達にも言えないし、家族にももちろん言えない。自分だけの秘密っていうか。親に見つかると何か言われるんじゃないかという不安もありました」
性豪も、最初から豪傑だったわけではない。それからというもの、14階建ての団地の1番上までエレベーターで昇っては、非常階段を物色しながら降りる日々が始まった。日当たりが良くない非常階段は薄暗く、定期的にポルノ雑誌が落ちていた。住民が処分に困り捨てたものと思われる。ヒロト少年は当初、その場でざっと読んで絵を頭に焼き付けるだけだったが、ある日思い切って持ち帰った。
「怖さよりも興奮の感情が自分の中で勝ったんですね。悪いものじゃない、自分が興味あるんだからもっとちゃんと見てもいいんじゃないか、と自己完結しました。手元に置いておきたいという気持ちも高まったので、持ち帰ってベッドの下に隠していました」
その階段に落ちているのは毎回、雑誌1冊だけ。だがあるとき、アダルトビデオ(AV)もセットにされているのをヒロトは発見した。
「『やった!』と思いました。でも、パッケージに描かれた生身の男女の姿がより衝撃的で、全然手が付けられなかったですね。なので雑誌だけを持って帰ったんですけど、『やっぱり欲しいな』と思って引き返したら、もうなかった。早いもの勝ちなんです」
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【アンケート】初めて性的メディアに接した時期(男子)
小学生にして性的メディアへ接触するヒロトのような男子は、実は多数派だ。男子学生が初めて性的メディアに接した時期は「小学5年生未満」が54%と半数以上を占め、最も多い。小学校高学年から始まる学校での性教育をめぐり、「性に関して何も知らない子どもたちを刺激し、『寝た子を起こす』のではないか」との議論が教育界には根強いが、子どもたちはとっくに目覚めている。
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