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[第1話]妊娠に気づく

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このnoteは
マガジン「花緒がお腹に来てくれてから産まれるまでの話」
での連作第1話です。
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花緒(はなお)を妊娠していると気づいた日、わたしは夫と二人、河原で焚き火をしながら缶ビールを飲んでいた。しかしその帰りに突然、どうも妊娠している気がして、途中で寄ったドラッグストアで夫には内緒で妊娠検査薬を買った。

妊娠したら毎回無条件に嬉しさと幸せでいっぱいになるわたしだったが、このときは正直「どうしよう」「妊娠してなければいいな」と思った。花緒のすぐ上の息子が赤ちゃんの頃、ちょっとだけ育児が大変で、それ以外にも理由があり、仕事や勉強などやりたいことをいろいろ我慢していた。息子はそろそろ1歳になるところで、その数ヶ月前から保育園に預け始め、さあこれから羽ばたくぞと意欲に燃えているところだった。わたしは妊娠中は毎回心身共にかなりしんどくなり、息をしているだけで精一杯、ただ苦しみに耐える9ヶ月間なので、仕事はともかくその他のことはまた出産までお預けになる。もう40代も半ばだし、あまりのんびりもしたくない。そんな気持ちだった。

検査薬は陽性。おお、そうか・・・。妊娠しているとわかれば腹を決めるしかない。それに、そうは言っても体の内部から勝手に沸き上がってくる喜び。やっぱり子どもを産むと言うのはわたしの本能なのだな。夫に報告すると1ミリの逡巡もなく全力で喜んでくれた。経済的なことなどでちょっとはマイナスな反応をされるかな、と思っていたのでこれは本当に嬉しかった。


わたしには子どもが4人いる。末っ子の花緒(はなお)以外の3人は助産院で産んだ。なのでそれまでわたしは病院でのお産を知らなかった。お腹の赤ちゃんに異常があると言われた経験もなかった。

上の3人は同じ助産院で取り上げてもらったのだが、その助産院の健診はとても楽しい。30分くらい使ってのんびり見てくれる。助産師さんからいろいろ話を聞くことができ、不安や苦痛などあれば相談に乗ってくれるし、話をしながら毎回足のマッサージをしてくれて、これがとっても温まる。わたしは普段から足を冷やさないようにしていて妊娠中は特に意識して足を温めているのに、助産師さんがマッサージしてくれると段違いにぽっかぽかになる。助産院にエコーはないけれど、手で触って赤ちゃんがどんな状態か詳しく教えてくれる。助産師さんの手はかなり正確で、病院でエコーからコンピューターを使って予測する赤ちゃんの体重より助産師さんが触って予想する方がいつも実際の体重(産まれてすぐ測る)に近い。大きさ以外にもいろんなことを教えてもらえる楽しい楽しい時間だ。

助産院で産ませてもらうためには、初めの頃の妊婦健診を病院で受ける必要があり、さらにそれ以降もポイントポイントで病院の健診を受けなければいけない決まりになっている。助産院で産む人を受け入れてくれる病院、つまり決められた回数の健診だけをし、お産の最中に異常が起きて医療行為が必要になったときには その後を引き継いでくれるバックアップ病院は助産院毎に決まっていて、上の3人の妊娠中にお世話になったクリニックに花緒のときも健診をお願いして通っていた。その先生は好きだし心地良いクリニックではあるけれど、病院の健診はわたしにとって特に楽しいものではなく、エコーで赤ちゃんの様子を見られることだけを楽しみに通っている感じだった。

妊娠20週の健診を終え、晴れて「次から助産院に行っていいですよ」と言われた。その段階では赤ちゃんの異常は見つからなかった。


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