素敵なあの子
あの子と出会って2年になる。
初めて会ったのは高校生になったころ。
私とあの子は席が隣で、東京から引っ越してきた私に初めて話しかけてくれたのがあの子だった。
ここは田舎の中の田舎。
高校が立っているこの丘にはこの学校以外の建物はなく、30分ほど降りて行くとやっと住宅街が見えるような場所。
だが、やけに生徒数だけは多い。
周りに他の高校が無いっていうのもあるだろうが、周りの中学校からほとんどの生徒がそのまま上がってくるというのもあるだろう。
そんな学校に「東京」なんていう異界の地からきた私は、彼らの興味の格好の的だった。
気づけば私の机の周りに人間サークルが出来ていて、いろんな人間の言葉が頭上から降り注がれる。
それはトイレに行っても同じことだった。
そんな私を見てあの子は何を思ったのだろうか。
可哀想だとでも思ったのだろうか。
あの子が私にかけた第一声は
『大丈夫?』
「東京ってどんなところ?」「やっぱり人多い?」「芸能人とか会ったことある?」
そんな低俗な言葉なんてものじゃなく。
純粋でシンプルでとても無機質な言葉だった。
思えばあの頃から私はあの子に惚れているのかもしれなかった。
それから毎日彼女と話し、次第仲良くなっていった。
放課後、ふたりきりの教室、夕暮れに照らされる2人の少女。
これほど官能的で魅力的なものはなかった。
あの子はそんなとき何を考えていたのだろうか。
思えばいつも気だるげな顔をしていたような気がする。
ニキビひとつなく、きめ細やかな肌、笑うと少し見える八重歯、くりくりした大きい目。どれをとってもあの子は完璧だった。
完璧だったのに。あの子は変わってしまった。
変わってしまった。
男の魅力を知ってしまった。
あの硬い手であの子のどこを触ったのだろう。
あの子はなにを思ったのだろうか。
なにを、感じたんだろうか。
私は
憤り。嫉妬。
それだけじゃない。
愛しさを同時に感じた。
だから、すべてあの子の初めてが取られてしまう前に。
あの子初めてが欲しかったんです。
あの子の処女は貰えなかったけれど、同性同士の性交渉は初めてだったみたいだ。
あの子は泣いて私を睨んでいたけれど、私は
嬉しかった。
けれど、まだ足りない。
何かが乾いている。
心の何かが乾いている。
そうだ。私はそうだった。
あの子になりたかった。
だから。
だから、
そう、容疑者は語った。