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マイ体験に置き換え!ブレイディみかこ賛歌
英仏海峡を越えたところに、私の四半世紀の体験が、小説になって大変な人気本になっていた!私だけではない、いかに多くの人の代弁者なんだ、この著者は。
ブレイディみかこ 「ぼくはイエローで ホワイトで 、ちょっとブルー」
世代、家族構成、コンテクストが似ている...しょっぱなからあるあるのオンパレード、自分の息子への溺愛度、文体(口が悪い)が大変、私の耳にも目にも心地よい。
あるある箇所のいち例は、私立カトリック系の良いご家庭のご子息ご令嬢がお通いになる中学校か、近所のロークラス家庭のガキどもが行く学校かの選択のお話。私自身、切実だった経験あり(フランス人旦那は全くノータッチだった、当時は)。娘の志願の私立校の方は書類審査と親の!面接(なぜ、親なんや?)だったので、選考から落ちていたら、娘から、私も旦那もボロかすに言われていたに違いない、この、ボンクラどもっ!等々。後日、受かった知らせの電話を私が受けたのは、土曜日出勤していた仕事場(北フランスにある自動車工場)で、溶接工程3ゾーン冶具の前。その光景をまだ覚えている、たまたまそこに居ただけの女性技術員まで神々しく見えた。よっぽど私は嬉しかった...というよりホッとした・・・。そこまで私立に拘った理由は、ただ一つ:当時、教員のスト(なぜか、毎回火曜日..)や、市が管理する給食係の人のスト等が特に多発していた。そうなると、生徒は校外にほっぽり出される。そうした事態は、超過保護ペアレンツのアタシと旦那にはあり得ないと受け止められていたからである。過保護親に育てられたウチのガキども由来の、ツケは後年払うことになったが..。
あるあるその2:人種民族多様性の地雷は、フランス在住なら、こちらも日常茶飯事。ただ私は人間性尊重を語らしたら世界トップクラスの団体の一員、という自負があるからか、ただの挑発好きな性格の悪さからか、異文化の人が目の前にいたらチョッカイ出さずにいられない。アラブ系課長に、「この前イスラエルにヴァカンス行ってきたわー、めっちゃ楽しかった(注:2018年)」と言ったり、6か国対抗ラグビーの時期に、イングランド人と思って話してた相手が、スコットランド人とわかった瞬間、憐憫さを覚えて急に態度を変えたりしている。
ただ一つだけ、忘れられない思い出がある。これまた当時ボデーショップに居た頃の一件。何のコンテクストもなしで、純真無垢の最上の状態で「欧州では、なんでユダヤ人って差別されんのん?日本人には分かりにくいんやわー」と本当にたまたま、何の気なしに隣に居た、仲のいいフランス人同僚に言ったところ、前に座っていた研修生の顔色が変わった。私もそこまで馬鹿じゃないので、その子の名前がユダヤ系だったら、そんなことは絶対に言わなかったはず。でも、その子が、「マユコ、分かろうとしなくていい」と、静かに、でも辛そうに言ったので、あ、と思った。彼は職場で、彼のルーツに後ろ指を差されていると、思ったのではないか。こういった事は、イノセンスからくるから余計残酷、この本の作家の言う、地雷の一種だった!かわいそうな事した。
この作品の中では、かなりの頻度で、アングロサクソン人から、作者自身と、ハーフの息子が東洋人として『からかわれた』体験のエピソードが出てくる。この『ハーフ』という言葉自体が、ハーフの子はすごく気になる微妙な用語であることは、他でも何度も聞いたことがある。桐島ヨーコさんのインタビューでかなり昔に読んだことある。半分、というのが気になるらしい! 昭和の時代は、混血児、あいの子、と呼ばれていたのに比べれば、かなりの進歩と私は思うのだけれど、それでも、ハーフのご当人達は気になるらしい。
そんなんで、この作品読んでるうちに、今までの子育て20年間、能天気で全く心配したことなかったのに(心配したところでどうとなる問題でもないのだけれど)、ウチの娘も息子も、もしかして、差別を受けた経験とかあって、やーい、春巻き野郎、とか言われて、人知れず傷ついたり悩んだりしてたのでは??と思って、問いただしたところ・・・。
娘の回答: からかわれた事がない、と思う。
彼女は、東洋人に見えないので、もっと東洋人ぽく、韓流モデル風になるために、ウェーブした髪の毛をわざとアイロンかけてストレートにする面倒くさいことまでやっている。つまり、東洋風になることで、差別の対象になるどころか、羨ましがられるという!安心してアジア人に変身したいと思っている。
息子の回答: もちろん、からかわれたことある。(これはきっと、ケンジという名前のせい。やはり、ジャン・バティストとかにしとけば良かったか・・・。しかし、アフリカにも、ジプシーファミリーにも、はたまた北フランスはカレー市の大学教授から、南仏はカルカッソンのラグビー選手に至るまで、スペルは違えど、非日本人で、ケンジと言う名前があって、インターナショナルな命名であることは判明されている。)ただし、『やーい、この春巻やろ・・・』というからかい言葉が終わらないうちに、俺はそいつをぼこぼこにしてやるから、言われることが少ねーんでいっ、と本人談(彼のいう事だから、どこまで本当かわからず)。
あら、ケンちゃん、そうだったの! 敏捷性としなやかさが武器のバドミントンをやめて、筋トレをしだしたのは、そういう背景があったのね?(これも、私の独断と偏見)
この作家と私たちの違いがあるとしたら、おそらく、やはりフランスと英国の違いではないかと思うに至る。アングロサクソン、それも大英帝国の末裔の方々には、白人至上主義が無意識にも残っているのではないかな?と言う事・・英国に住んだことがないから全て、私の推定と妄想(この推定に対する反論及びディベート、乞う)。いやいやいや、フランスにだって大いにあるさ、人の悪意を感じる能力が欠如しているアンタが、分かっていないだけで、と言われれば、それに反論はできず。ただ、私の周りには、フランス人である事にコンプレックスを抱いている人が余りにも多いのは確か。ラグビーの試合以外で、国旗を振り、国家を歌うのにイチマツの?大いに?後ろめたさを感じるフランス人達。日本と似ている!
更なる違いは、作者自身が差別発言の対象となる背景には、その差別用語を発するのが、低階級層の白人生粋のイングランド人で、その人たちに対する侮蔑用語がある(白い屑、ホワイト・トラッシュ?だったか?)ということ! これは、私も知らんかった。差別される人たちは、自分達が差別できる相手を探すものだからやろか。旧植民地や海外領土では当たり前にあるであろう、白人系フランスに対する差別用語、フランス本土にもあるかもしれない...調べてみよ。
あと、フランスと英国の違いで面白かったのは、作者が住んでいる地区では、多様性がハイソな世界、というフランスとの逆の状況。よっぽど、英国の低階層の白人地区に住むのは、大変そう・・・。でも、その階級の若い世代はもう、二十世紀の価値観はかなり薄くなっているかな、そうじゃないと、アジア系の自動車会社や、もっと驚くべきことに、そんな昔の話ではないガンジーの世代に完全に英国の植民地だったインドのミタルスチールとかの工場で働けないのでは?(ディベート、乞う)
本の中での、その他の小さな同感:、映画『ボヘミアンラプソディー』を映画館で観ればよかった、とつくづく思っていた事、日本に帰省した際に、日本にはいまだDVD&CDレンタル屋さんがあって、その店員の超日本的な対応等...日本は面白い、世界は面白い。
『おめえは、ちょっと左翼的なところがあるから』とは、作者の旦那さんが作者に言った言葉。
その一言だけで、作者の旦那さんの愛情まで感じとれる…みかこブラボー!