小説ともだち
小説ともだちができた。
出会いはTwitter(X)のDMから。
男性の名前のアカウントから「小説家になりたい人(自笑)日記、めちゃくちゃ共感しました!」と熱い感想がきて、
うれしいな~とお礼を書き込むと、
「ぼくも小説家志望なんで、一回お茶して情報交換やモチベーション上げしませんか?」と……。
怪しい……。
彼は冒頭に自己紹介してくれたのだが、
「J-WAVEでカルチャー系のラジオ番組をやってるタカノシンヤと申します」というのだ。
私はてっきり構成作家さんかと思ったのだが、「タカノシンヤ」とググってみて驚いた。
夕方の帯番組のラジオパーソナリティやんけ! しかもFrascoって音楽ユニットやってたり、渡辺直美に作詞してたり、なんかすごい人やん。
ますます怪しい……。
そんな人が番組出演依頼ならまだしも、気軽にプライベートでお茶しようって言うわけない。これはあれなのでは? なぜか芸能人が私だけに悩み相談してくるというアレ。なりすましのロマンス詐欺ってやつでは? だってほら、「小説家を目指したのは最近で、いろいろお話伺いたい」って悩み相談だよね??そこからどうやって金銭を引っ張り出すのかわからんけど……。
おかあちゃん、だまされへんで!
だいたい私は人との垣根がなさすぎる。
昔スナックのバイトの面接に行ったら「何するところかわかってるのか、ここはお嬢ちゃんのような人がくるところじゃない」ってマスターに止められたし、
シャッターの前で寝転んでいるおじさんに声かけられたから、しゃがんで「なんですか?」って話聞こうとして友達に止められたし、
ホームのベンチで電車待ってたら、知らないおじさんがボロボロのリュックから柿を取り出してくれた~ラッキー♪って言ったら友達に「一周回ってあんたが怖い」って言われたし、
でももう私も立派な40代、だまされやしまへんで!
アカウント名へ飛ぶ。公式マークがついているし、フォロワーが8000人くらいおる。うーん、さすがに8000人もだまされないよな……。
私は詐欺の危険と好奇心とを天秤にかけ、もちろん好奇心を取った。ミーハーだったとも言う。
彼の指定したふつうの喫茶店へ行く。
ちょっとだけ芸能人と友達になれるかもしれんという田舎者の期待を持ちながら……。
そして……私たちはしゃべり倒した。わりと冒頭で同い年ということがわかってすっかり打ち解けてしまったのだ。なんだかタカノくん、芸能人じゃなかったんだよ、全然。本人に怒られるかもしれんけど。ふつうの面白い優しい奴だったんよ。
そしてタカノくんから提案が……。
「裏垢を作って、お互いがお互いだけフォローして、小説の進捗状況を報告し合おう。相手が書いてたら自分も書かないとって思うし」
LINEだと既読・未読やレスの遅い早いが気になるけれど、この方法なら届いていようがいまいが気にせずいられていいのだそう。
なんそれ、そんなTwitterの使い方、お母さん知らんかったよ。さすがラジオ・パーソナリティ!
そして私たちは今日まで毎日、呟き合っているのだ。
「今日で37枚」とか「全部書き直すことにした」とか「〇〇って小説読んだら勉強なった」とか。ときには自分を仲間にいれてくれない文芸界への呪詛も(笑)。裏垢ってこんなさわやかな使い方あるんだね。
既読を気にしなくていいのは、ほんとにラク。気楽にだらだらとつぶやける。そして40歳にもなって「一緒に夢に向かってがんばろう!」みたいな友達できたのが嬉しい。
こないだ、自分の小説が酷評されて落ち込んだことがあった。
思わずDMで愚痴ると、送ったそばから「…」が点滅し、タカノくんが何かしらを返信してくれようとしてるのが見える。
「…」は点滅し、ふっと消えた。そしてまた点滅しだした。
なにか書き込んで、やっぱりこれは違う、と消して、そしてまた書いて。
どうやって励まそうか、考えてくれるのが伝わって
それだけでもう元気が出ていた。
小説ともだち、いいね。
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