1000文字縛りのショートストーリー
八年前の過去に書いた習作です。
思いの外、うまく書けた文章だったので埋もれさせるには惜しくて、コチラに供養がてら掲載。
ついでにお題である“春風”と言う言葉を使わないで表現するという縛りも追加して書いていました(笑)。
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風が吹いた。
その風は、広げたばかりのまだ柔らかな黄緑色の木々の葉を揺らし、暖かな日の光をキラキラとモザイクガラスのように道を散りばめる。
木漏れ日を影踏みしながら進む自転車の車輪が、寒かった一昨日よりも軽く感じる。
春の薫りを纏った風の心地よさに、なんだか自然と顔が緩む。
住宅街を抜け、川辺りの桜並樹に差し掛かると、美しい頭上の風景とは打って変わって、道はキツい坂となる。
登校日はこの坂と勝負すると決めている。
現在のところ惨敗で、途中の急カーブで足をついてしまい、そうなると平地では僕の良き相棒である自転車は、もはやお荷物、押して屈辱の坂登りとなる。
今日も制服のネクタイを緩めて、ペダルに力を込めて踏み込む。
自然と体勢がハンドルにしがみつくように、 低くなっていく。
ふくらはぎのぷるぷるという震えが、身体に伝わって来る。
(今日こそイケる!いや、絶対に校門まで登りきってやる!)
いつもの急カーブを過ぎ、最後の急勾配の先に校門が見えた時だった。
再び、風が吹いた。
僕の視線は、校門の前でたたずむ少女に釘付けになった。
長い髪を押さえながら、彼女は嬉しそうに上を見上げている。
薄紅色の祝福が彼女の頭上へと惜しみなく降り注ぐ。
見上げた空が染まってしまうほどの薄紅色の祝福。
真新しい制服の裾が拡がるのを片手で気にしながら、ほっそりとした手から零れては舞いゆく花びらの行方を追い、そっと微笑む彼女に気がつけば僕は見とれていた。
ふと、彼女が目線を僕に向けた。
彼女の大きな瞳と一瞬視線がぶつかる。
(ヤバい、見つめすぎた。)
慌ててうつ向くと、視線の先にペダルから僕 の足は離れ、地面についているのが見えた。
新学期早々の負けに苦笑しつつ、僕はいつものように自転車を押して坂を登りきった。
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文書を書くと、どうしてもダラダラとした説明文になりがちで、それをなんとかしたくて、暫く作詞やこういった1000文字縛りのショートストーリーばかりを書いていました。
一行の文章が、なげーよ!
とか、
“道を散りばめる”とかいう表現は無いだろう!
とか、言われて
これは私の文章の持ち味じゃ!!
ちゃんとした小説を読んでから出直してこい!!
って、ラノベやケータイ小説しか読んだことがないであろう年下の少年がエラそうに批評してきたので、心の中でそっとキレたりして…若かったなぁ…私(笑)。
ちなみに、私はラノベも大好きですけどね。